客が来た
「ところで、このお店は薬局のはずですが、お客さんはいつ来るのですか?」
「う~ん? 昨日は閉めていたからね」
「そんなので儲けになるのですか?」
「ははは。だいたいこの店は用があるものしか入ってこれないのだよ」
「そんな都合のいい店があるはずないじゃないですか!」
「…………あるんだけどね。さて、そろそろじゃないかな?」
カランとドアベルが鳴ると、見知った顔の客が現れる。アッシュグレーの髪に右頬に傷。昨日詰所であった団長と呼ばれていた男だった。
「……ここだったのか」
「おや、君は確かブレイド? だったかな?」
「いらっしゃいませ?」
「なんで疑問形なんだ?」
「だって……。兵士さんですよね? うちに何の用でしょうか?」
フェルが身構えるように言うと、サナトスがフェルを庇うように前に出る。
「ちょっ。警戒するなよ。今日は客として来たんだって」
「兵士さんがこんな怪しい店に来られるはずないでしょ?」
「……怪しい店って店員がいうなよ」
「くくく。その様子だと、本当に客として来られたようだね。助手君威嚇しなくてもいいよ」
フェルはまだフーッと爪をたてる猫みたいにブレイドを睨んでいた。
「実はちょっと頼みがあってな…」
「ほぉ? 団長さん自らの頼み事とは。何か事情がありそうだね」
「…………本当にお客さんなんですか?」
「ああ。いくら探しても見つからない物があって……」
「話を聞きこう。こちらにどうぞ。フェル、お客さんにお茶を淹れてくれるかい?」
サナトスが名前を呼んだことにより、ブレイドを客として認める事にしたのだとフェルは理解する。机の側に置いてあったポットからカップに茶を注ぐ。中の茶は毎朝サナトスが《《吟味》》して入れ替えているものだ。
ブレイドの前にカップを置く。保温魔法が効いているのか茶は湯気をたてて香ばしい香りがしていた。
「良い香りだな。紅茶か?」
「健康茶だよ。飲んでみるといい」
飲まないと話を聞いてもらえなさそうな雰囲気をありありと出しながらサナトスが勧める。
「…………わかった……ぐっ……にが……」
「吾輩が煎じた茶葉から煮だした茶だ」
「……やっぱり……」
フェルが飲まなくてよかったとホッとしているのを涙目でブレイドが見る。
「少し前に魔力だまりが発生したのは知っているか?」
「魔力だまり?」
フェルがサナトスの横でびくりとする。
「あぁ、負の魔力の塊のようなものなんだが、時々現れるんだ。魔力の少ない子などが影響を受けやすいんだが、俺の妹が被害にあっちまってな」
「それで解毒薬がいるのかい?」
「そう! そうなんだよ」
ブレイドが体を乗り出す。よほど探しているようだ。
「表通りの店で手に入らないのかい?」
「市販の物を飲んだんだけど、体質にあわなかったみたいで、余計に伏せってしまったんだ。治すにはここいらにはない薬草がいるって言われて」
「なるほど、魔草が必要というわけかい?」
「そうなんだ。表通りでは、そんな危ないもん扱っている店はないし、大神官の施しを受けるほどの金がねえんだ」
「また金か。この国の神殿は悪どいのぉ」
「それが普通じゃねえのか」
「さあね。吾輩がそこまで干渉することはないだろう」
「師匠。その、私にも妹がいたのです」
「フェルは助けてあげたいのかい?」
「できるのならば」
「ふむ。魔草はね、そのままだと毒になるが分量や使い方さえ間違えなければ良い薬となるのだよ」
「あ、あるのか?」
「ああ、後ろの薬草棚にいくつかある。だが、まずはその子にあって問診させて欲しい」
「もちろんだ! 昼過ぎに詰所来てくれ。良いか?」
「かまわないよ」
ブレイドは朝の巡回を抜け出して来ていたようで一旦は詰所に戻らないといけないらしい。よろしく頼むと頭を下げて出て行った。
「さて、話したい事があるのだろう? 言ってごらん」
サナトスに促されてフェルが重い口を開いた……。
*魔力だまりとは、負の魔力が集まった場所。元は人々の嫉妬や欺瞞、怨念などです……。




