09話 オフ会②
「——という訳です」
美穂がそう締めくくると、全員がほぅ……と息を吐いた。
少し静寂が訪れる。
それを破ったのは寧々だった。
「ただの盛大なノロケだったわ」
「それな」
思わず加奈が同意する。
ヤンデレ監禁エンドやらヤンデレ洗脳エンドやら、叶斗ルートはひたすらヤンデレエンドしかないが、それさえなければただ愛の重いハイスペック男子による溺愛ルートなのだ。だから、余計にエンディングが怖い。
「桃園さんも愛が重いみたいだから、お似合いカップルね」
寧々がにっこりと笑った。
お互いヤンデレ気質の人間がカップルになってくれるなら世界は平和だ。
「でも、ひと言教えてほしかった……! できれば入学前に」
「それは無理ですよ……」
由真が呆れていた。デフォルトネームがなかった主人公を、入学前に気づけるとは思えない。本人も入学式で記憶を思い出したっていうし。
「逆に教えられたとして、叶斗ルートから逃げるの無理じゃない? 入学前からルート入ってたって、それ」
加奈が冷静に指摘した。幼稚園のころから着々と好感度を積み上げたに違いないのだ。美穂の話からすると。
「……そういえば、幼稚園の頃に叶斗にプロポーズされた」
美穂が目を瞑って記憶を思い返した結果、叶斗に『およめさんになってね』と言われたことを思い出す。軽く『いいよ』と返したな、確か。
「幼稚園児の時に攻略済みとは……」
「美穂、恐ろしい子……!」
「ほら! すでに無理じゃないですか!」
三者三様に、美穂の無自覚攻略にツッコミを入れた。ゲームの記憶も戻っていなかったのに、これなのだ。
そりゃトゥルーエンドも爆誕するわ、と三人は呆れ果てた。
「ちなみにクリスマスイベント、起きました? 私、叶斗ルートのあれ、好きだったんですけど」
由真が聞いたクリスマスイベントは、本来なら二年生の時に起きるイベントだ。叶斗と一緒に公園の東屋で雪を見るスチルがある。
寒いからと叶斗の膝の上に乗せられて、抱きしめられながら降ってくる雪を二人で眺める、糖度高めのイベントだった。
「……起きた」
言葉少なに答えた美穂の顔がみるみるうちに真っ赤になる。頭から湯気が出そうな勢いだ。
……イベント以上のことがあったらしい。
「ごちそうさまです」
由真が手を合わせた。心なしか肌がツヤツヤしている。尊みを補給したようだ。
そこからしばらく、二年に進級するまでに起きるイベントのことを、根掘り葉掘り聞く時間になった。
最終的にオーバーヒートした美穂がヘロヘロになるのとは対照的に、他のメンバーは肌ツヤが良くなった。由真に至っては「てぇてぇ……」と呟いて満足そうだった。
「も、もう勘弁して……。それより、みんなの話を聞かせてくれない?」
息も絶え絶えに、美穂が言った。
「わたしには聞く権利があると思う」
三人の顔を、順に見た。目がキラキラしている。消耗した分、三人から栄養を補給するつもりのようだ。
「確かに。結果的にルートを奪ってしまったわけだし」
寧々が頷く。
「では、私から聞いてもらおうかしら? ふふ、年齢順ね」
しとやかに寧々が笑う。
「私が記憶を思い出したのは、小学二年生の時で……」
語られたのは、寧々のとても長い努力の話だった。




