↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

08話 桃園美穂の場合7

 叶斗と火村先輩は、教えてもらった通り体育館裏にいた。

 人けがない場所で二人はとても近い距離で話している。

 胸が痛くなったけど、叶斗の顔をよく見る。

 ……笑っていない。

 全然、楽しそうじゃない。そんなの、だめだ。叶斗にはいつも幸せそうに笑っていて欲しい。


「叶斗!」


 叶斗の名前を呼んだ。


「美穂ちゃん?」


 叶斗が気づいて、美穂の名前を呼ぶ。

 火村は眉を一瞬歪めてから、叶斗の前に立ち塞がった。


「今、叶斗くんは私と話すのに忙しいの。遠慮してくれる?」


「こんにちは、先輩。

 わたし、叶斗と話したいことがあるので、連れて行きます」


 先輩に対して、言い切った。背中に嫌な汗が流れているけど気づかないふりをした。


「俺……」「叶斗くん、私が言ったこと覚えてる?」


 叶斗の言葉を遮るように、火村が声をかけた。


「今、あの子についていったら、今までの努力全部無駄になるわよ」


 その言葉を聞いた叶斗が苦しそうに顔を歪めた。そんな顔、叶斗にさせたくない。


「じゃあ、この場で言います。

 叶斗。わたし叶斗が先輩と一緒にいるの嫌なんだけど」


「え?」


 叶斗が驚いた顔をする。


「わたし、叶斗が好き。叶斗がわたし以外の人と仲良くしてるのなんて見たくない。

 叶斗にとって、わたしはただの幼馴染かもしれないけど、わたしはもう幼馴染だけじゃ嫌なの!」


 なぜか火村が驚いた顔をしていた。「は? 幼馴染?」と呟いているのが聞こえる。


「手を繋ぐのも、頭を撫でるのも、叶斗じゃなきゃ嫌! 隣にいるのはわたしだけがいいの!」


「美穂ちゃん!」


 叶斗が駆け寄ってきた。そのまま勢いで抱きつかれた。一瞬、圧でうぐってなったけど、それ以上に安心感でどうにかなりそうだった。


「美穂ちゃん、美穂ちゃん……」


 ぎゅうぎゅう抱きしめられる。美穂も叶斗の背に手を回した。叶斗の腕がもう一度、ぎゅっと強く抱きしめてから少し力が緩まった。

 叶斗は美穂の顔を覗き込んだ。


「俺も、ずっと美穂ちゃんが好きだったよ。美穂ちゃんが思ってくれたように、手を繋ぐのも頭を撫でるのも、隣にいるのも美穂ちゃんがいい……」


 叶斗のダークグレーの目が潤んでいた。それが妙に綺麗に見えて見惚れてしまう。

 赤く色づいた頬がかわいいなと思う。美穂も似たような色をしているんだろう。

 ゆっくり叶斗の顔が近づいてきた。美穂は目を閉じ——


「二人の世界作るな——!!」


 ……なかった。

 そういえば、火村がまだこの場にいたのだ。


「なんなのよ?! 付き合ってなかったとか意味わかんない!」


 とてもご立腹だった。


「私、これじゃただの当て馬じゃない!」


 叶斗が笑った。目が、笑っていない。


「そもそも、先輩が協力するって言ったじゃないですか」


「え?」


 叶斗から告げられた話はこうだった。

 美穂が怯える理由を知りたくない? 叶斗が一緒に帰ることを断った日、火村に問いかけられたのだと。

 火村にはしつこく付き纏う男がいて、それを撃退するためにしばらく一緒にいてほしい。無事に撃退できれば、理由を教えるからと言われたのだ。


「このままじゃあの子、逃げちゃうわよ?」


 火村にそう言われて、焦ってしまったのだと叶斗は言った。

 美穂は周りから見てわかるほどに怯えてしまっていたのか、と衝撃を受けた。

 同時に反省した。目の当たりにした叶斗は、どれだけ傷ついたのだろう。もっともっと伝えるべきだったのだ。

 こんなことになる前に。


「もう! 叶斗くんは全然靡かないし、当て馬にされるし、面白くない!!」


「当て馬だなんて。恋のキューピッド、ありがとうございます」


 目だけ笑わない笑顔のまま、叶斗が火村にお礼を言った。

 それを聞いた火村は顔を真っ赤にし、鬼の形相で二人を睨む。そのままドスドスと足取り荒く去っていった。


「叶斗、ごめんなさい。わたしのせいだね……」


 荒々しい足音が聞こえなくなってから、美穂は叶斗に謝った。叶斗を不安にさせたから、つけ込まれたんだ。


「いいよ。俺ももっと美穂ちゃんに伝えればよかったんだ」


 ふるふると首を振った。叶斗はずっと言葉で、態度で伝えてくれていた。勝手に怖がっていたのは美穂の方だ。


「叶斗は悪くないの。叶斗の隣がすごく居心地よくて、何かを変えたらその場所はなくなってしまうんじゃないかって。勝手に怯えたわたしのせい」


 叶斗の顔を見上げた。静かに続きを待ってくれる。


「でも、叶斗と一緒にいられなくなって気づいたの。叶斗が頑張ってくれてたから、わたしは叶斗の隣で安心していられたんだなって」


 ああ、綺麗だな。藤色の髪の毛も、ダークグレーの瞳も。一つ一つのパーツの配置が完璧で、ずっと見ていたかった。


「叶斗、幼馴染だけじゃもう満足できないの。わたしの、彼氏になってほしい」


「もちろん。嬉しい。俺も美穂ちゃんが大好きだよ。ずっと一緒にいてね」


 『ずっと一緒にいてね』。エンディングを思い出した。

 壊れてしまった笑顔で、主人公を閉じ込めながら言うセリフ。


 現実の叶斗は笑顔だ。とても嬉しそうに、きらきらと瞳が輝いている。

 もう、あんな暗い笑顔はさせない。

 見つめていると、ゆっくり叶斗の顔が近づいてきた。

 美穂は今度こそ目を閉じて、それに応えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。