05話 桃園美穂の場合4
みんなで海に行く日が決まったので、友達と一緒に水着を買いに来た。
黄緑の髪の毛をポニーテールにしている小柄な子が実和、暗めの赤髪をショートカットにしているスラリとした子が綾音だ。
「美穂はどんなの買うか決めてる?」
「ううん、全然決めてない。でも、白系は避けようかなぁ」
ゲームで叶斗が喜ぶだろう水着は知っている。白いワンピースみたいな可憐な水着だ。けれど、ヤンデレを回避したい美穂にとって、その水着は鬼門だ。……喜ぶのがわかってるのに選べないのは辛いけど。
水着売り場には、可愛い系も綺麗系も揃っていた。
三人でわいわい言いながら水着を探す。
実和はクリームイエローのオフショルでひらひらしたワンピースタイプの水着を選んでいた。レース生地のカーディガンがついている。
綾音はビキニにハーフパンツとパーカーがついている水着を選んでいた。ビキニは白地に大柄の花がプリントされていてとてもかわいい。
「かわいい! 二人とも、彼氏の心臓とめる気だね!」
「物騒発言やめろ」
美穂の言葉に即座に綾音のツッコミが入る。二人の彼氏は今回一緒に行くメンバーだった。
「それより、美穂ちんはまだ決まらない?」
おっとりと実和が尋ねてくる。そうなのだ。叶斗が好みの水着を避けることを意識するあまり、まだ決められていない。
「これとか、どう?」
なぜかにやにやしながら綾音が一つの水着を持ってきた。
ラベンダー色の小花柄のチューブトップにダークグレーの幅広リボンでホルターネックが付いているようなデザインだった。
ボトムスはチューブトップの部分と同じ柄でローライズのショーツと長めの巻きスカートがついていた。
「かわいい! 綾音ちゃんが選んでくれるなんて嬉しい」
美穂の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「試着してくる」
綾音から水着を受け取って試着室に入る美穂の背中に「気づいてないのかな?」「ねえ……?」と呆れる二人の言葉は届かなかった。
※
約束当日。
みんなでバスに乗って、海水浴場にたどり着く。
着いた時にはすでに人で賑わっていた。
「じゃーん、家から水着着てきてました!」
更衣室で、そう言いながらパーカーを脱ぐと、二人から笑われた。
「楽しみにしすぎ!」
そう言われても、本当に楽しみだった。前世は社会人になってからは仕事が忙しくて、休日は寝て過ごし、海になんて行く暇がなかった。体感十年ぶりくらいなのだ。
「着替え、忘れてないよね?」
恐る恐る実和に聞かれた。小学生なみの行動に、心配になったらしい。
「わ、忘れてないよ! ……ね?」
不安になって、荷物をガサゴソあさる。よかった。ちゃんと持ってきていた。
「確かめてる!」
「自信ないの?!」
二人は「着替えられない!」とお腹を抱えて笑っていた。笑いすぎだ。
日焼け止めを塗りながら、二人の着替えを待って、三人で外に出る。背中は塗りっこしたらくすぐったかった。
外に出ると、すでに男の子たちは待っていた。
三人ともハーフパンツの下にラッシュガード、上は水陸両用のパーカーを羽織っている。
「美穂ちゃん、……その水着」
叶斗が美穂の水着を見て頬を染めていた。
「かわいいでしょ? 綾音ちゃんが選んでくれたんだー」
くるりと回ってみせると、なぜか叶斗の顔が無に戻っていた。
隣で実和の彼氏、瑛太が爆笑し、綾音の彼氏、涼介が叶斗の肩に手を置いていた。
謎の行動だ。
「叶斗、かわいくない?」
不安になってそう聞くと、無だった表情がいつもの優しい笑顔に戻った。
「ううん、かわいい。選んでもらえてよかったね」
ダークグレーの瞳を細めて、叶斗が美穂の頭を撫でる。
見上げると藤色の髪の毛に日が透けて綺麗だと思った。
「日焼け止めもう一回塗ろー」
海の家でご飯を食べたあと、パラソルの下で休憩していたら、実和が提案してきた。
ウォータープルーフの日焼け止めを塗ってはいるけど、少し肌が色づいている。
午後もしっかり遊ぶためには塗り直さなければならないだろう。
「瑛太、背中塗ってー」
「はぁ?!」
急に話を振られて瑛太が驚いている。背中を向ける実和には見えないかもしれないが、瑛太の顔は茹でたこのように真っ赤になっていた。
「実和……」
見かねた綾音が実和に声をかけようとした。しかし、実和はなぜか美穂の方を一瞥してからじっと綾音を見つめた。
「……涼介、やって」
綾音まで彼氏に日焼け止めを渡し出した。涼介も慌てふためいていたが、綾音が何かを耳打ちすると、にやりと笑って頷いた。
「叶斗もやってやれば?」
「え?」
突然話題を振られた叶斗が呆けた声を出すと、涼介が美穂を見る。
「え?」
美穂まで呆けた声を出してしまった。実和は顔が真っ赤な彼氏に日焼け止めを塗ってもらって、くすぐったそうにしている。
それを見て、突然頭の中で話がつながった。
「ええ?!」
顔が熱い。
つまり、叶斗に背中に日焼け止めを塗ってもらう?
え? 素手で?!
「……わかった。美穂ちゃん、日焼け止め貸して」
なにか覚悟を決めたように、叶斗が手を出してくる。
いや、待って。
「美穂ちゃんの日焼け止めはこれだよー」
いつの間にか塗ってもらい終わっていた綾音が、勝手に叶斗に日焼け止めを渡していた。
「いつの間に!」
「私たちは先に遊んでるから、ごゆっくり〜」
実和と瑛太も終わって立ち上がっていた。四人とも海の方へさっさと歩いていってしまった。
「美穂ちゃん、俺たちも早く塗って遊びに行こう」
叶斗が急かしてくる。もう代わりに背中に塗ってくれる人はいない。
美穂も覚悟を決めて、叶斗に背中を向けた。
「お、お願いします……」
背中に塗りやすいようにホルターネックのリボンを持ち上げる。
すると、ぬる、という感触と共に叶斗の手が触れた。
「ひゃっ」
「あ、ごめん。くすぐったかった?」
「ううん、大丈夫……。びっくりしただけ」
心臓が痛い。ばくばく動き過ぎて口から出てしまいそうだった。
しばらく無言で叶斗の手が背中を滑る。水着の縁を叶斗の手がかする度に、おかしな声を上げそうだった。
「終わったよ」
そう言われて、美穂は自分が息を止めていたことに気づいた。
振り向くと、叶斗の顔が赤かった。
どうしようもなく、恥ずかしくなった。
あとで、実和と綾音にはかき氷を奢ってもらおう。
美穂は固く決意した。




