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24話 藤城叶斗の場合3

 美穂は叶斗の誘いを断ることはなくなった。

 しかし、二人で出かけたくて誘っても、必ず誰かを巻き込みグループで行動することになる。

 美穂がとても楽しそうなのを見て、それはそれで嬉しいけど複雑な気持ちになった。


 ある日、叶斗の部屋のクーラーが壊れた。

 母親が業者に連絡してくれたが、混み合っているらしく修理が来るまで一週間もかかるという。


「クーラーが壊れた?」


 美穂に避難させてくれるように頼むと、すぐに了承してくれた。


「麦茶入れてくるね」


 先に部屋に入らせてもらう。涼しい。二人で出かけるのは避けるのに、なぜか部屋で二人きりになるのは気にしないらしい。


「おまたせ〜」


 美穂が麦茶と共によく冷えたゼリーを持ってきてくれた。


「文明の利器……」


 ゼリーを食べながら、文明の恩恵に預かる。早くクーラーが直ってほしい。リビングで寝るのは落ち着かない。


「わたし、今日は読書の日だから」


 二人でゼリーを食べたあと、美穂がそう宣言した。

 図書館の本が返却間近らしい。叶斗も読みたい本があるからちょうどよかった。

 

 二人で隣り合ってラグの上に座り、本を読む。

 叶斗は真剣に本を読む美穂の横顔を眺めた。美穂は気づかない。

 白いレース地のフリルがついたノースリーブに、ジーンズ生地の短パン。夏らしい格好は美穂によく似合っているが、これで外に出てほしくないと思った。誰にも、見せたくない。

 しばらくして、本を読み終わった美穂が、叶斗が見ていたのに気づく。少し驚いていた。


「叶斗、なに?」


「美穂ちゃん、夏休み楽しかったね」


 少し警戒したような声だった。今さら。

 暗い気持ちが浮かび上がった。


「でも、俺と二人は嫌だった?」


 聞いてみたら、美穂は途端に目を泳がせる。


「な、んで……」


「誘うたび、一生懸命みんなを誘うことを提案すれば、嫌でもわかるよ」


 楽しそうな顔をしていたのに。

 叶斗と二人は嫌だったのか。


「俺は、美穂ちゃんと二人でも遊びたかったな……」


 とん、と肩を押した。

 軽く押しただけなのに、美穂はたやすくバランスを崩した。驚いた顔がかわいい。

 叶斗は美穂の顔を覗き込んだ。


「美穂ちゃんは、俺のこと嫌い?」


 美穂が固まったままなのをいいことに、人差し指で美穂のあごの付け根に触れた。そのままつ、とゆっくり首筋をなぞる。もっと触れてしまいたい。


「もうこのまま、二人でいられたらいいのに」


 ずっと二人だけでいられたら。

 そう考えて、今の美穂だったら怯えて泣くのだろうと思った。

 とても、悲しくなった。


「叶斗……」


 ぽたり。

 美穂に叶斗の涙が落ちた。


「俺、なにかした? お願いだから、教えて……直すから」


 美穂が手を伸ばした。

 叶斗の首に腕を絡めて力を入れる。叶斗はそれを受け入れて、美穂の腕の中に収まった。

 とく、とく、と美穂の心臓の鼓動が伝わってくる。少し早い気がした。


「ごめんね、叶斗傷つけてた。叶斗は、悪くないよ」


 優しく紡がれた声にまた涙が溢れる。

 身じろぎするとくすぐったかったのか、美穂がふふと笑った。


「叶斗、大好きだよ」


 ずっと聞きたかった言葉が聞こえた。


「叶斗を嫌いになんて、なるわけない」


 美穂の腕をつかんで優しく外す。やっと思いが通じたのか。


「美穂ちゃん、俺も」「大事な幼馴染だもん、ね?」


 俺も、と言おうとしたら被せて信じられない言葉を言われた。

 美穂は、にぶい。

 昔からなぜか、恋愛方面だけは、究極に。


「叶斗ごめん、さえぎっちゃった。なんて言おうとしたの?」


「いいよ、……うん。美穂ちゃんだもんね」


 打ちひしがれて、呟くと訳がわからないという顔をされた。


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