23話 藤城叶斗の場合2
「夏休み、海行こ」
もうすぐ夏休みという頃、前に海に行きたいと言っていたのを思い出し、美穂を誘った。
しかし、美穂はピシリと固まった。
駄目だっただろうかと不安になったけど、にっこり笑った美穂が
「いいね! じゃあみんな誘っていこうよ!」
と、言ってきた。本当は二人で行きたい。
「……そうだね。みんなで行こう」
美穂の水着姿を独り占めしたかったのに。
なんとか笑顔を作る。誘うのは彼女持ちにしよう。上手に誘導して、友達に声をかけた。
「楽しみだね」
本当に嬉しそうに笑う美穂を見て、幸せな気持ちになる。
「美穂ちゃんが楽しそうで、俺も嬉しい」
そう言ったのは本心だった。
※
「美穂ちゃん、……その水着」
海遊びの当日。着替えてきた美穂の姿を見て、叶斗は感動に打ち震えていた。
叶斗の髪の毛と瞳の色に合わせた水着を着ている。
これはもう、そのまま抱きしめても許されるのでは? と思っていたら
「かわいいでしょ? 綾音ちゃんが選んでくれたんだー」
と言いながら、美穂がくるりと回ってみせた。
隣で瑛太が爆笑し、涼介が叶斗の肩に手を置いた。
美穂の後ろで、綾音が口パクでごめんと言いながら手を合わせている。
「叶斗、かわいくない?」
美穂が不安な顔で聞いてきたので、慌てて笑顔を作る。
「ううん、かわいい。選んでもらえてよかったね」
そう言うと、嬉しそうに美穂は微笑んだ。
「日焼け止めもう一回塗ろー」
「瑛太、背中塗ってー」
「はぁ?!」
彼女の背に日焼け止めを塗ることを依頼されて、瑛太が顔を真っ赤にしていた。羨ましい。
「実和……」
見かねた綾音が実和に声をかけようとしていた。しかし、実和が綾音とアイコンタクトをしたら綾音まで涼介に日焼け止めを渡し出した。
「……涼介、やって」
綾音が何かを耳打ちすると、涼介はにやりと笑ってそれに頷いた。
「叶斗もやってやれば?」
「え?」
突然話題を振られて思わず叶斗が呆けた声を出すと、涼介が美穂を見る。
「え?」
美穂まで呆けた声を出していた。
美穂は実和が彼氏に日焼け止めを塗ってもらっている様子を見て、言われた内容が理解できたようだ。
「ええ?!」
顔が真っ赤になった美穂はかわいかった。さっき羨ましいと思ったばかりなので、チャンスが転がり込んできたのなら、断る理由などなかった。
「……わかった。美穂ちゃん、日焼け止め貸して」
「美穂ちゃんの日焼け止めはこれだよー」
美穂の方に手を差し出すと、なぜか綾音から美穂の日焼け止めを手渡される。美穂から見えないようにサムズアップされた。
「いつの間に!」
「私たちは先に遊んでるから、ごゆっくり〜」
四人とも海の方へさっさと歩いていってしまった。さっさと行ってくれるのはありがたい。逃げ道を塞げる。
「美穂ちゃん、俺たちも早く塗って遊びに行こう」
そう急かすと、少しもじもじしていたが、美穂も覚悟を決めたのか、叶斗に背中を向けた。
「お、お願いします……」
美穂が背中に塗りやすいようにホルターネックのリボンを持ち上げる。
うなじから続く白い背に、めまいがしそうだった。
少しずつ日焼け止めを手に出し、背中に滑らせる。
「ひゃっ」
「あ、ごめん。くすぐったかった?」
「ううん、大丈夫……。びっくりしただけ」
心臓が痛い。そんな声を出さないでほしい。我慢できなくなりそうだ。
なるべく無心に背中に日焼け止めを塗る。水着の縁に手がかする度に、美穂の肩がぴくりと動くのにも気づかないふりをした。
「終わったよ」
そう言うと、美穂が大きく息を吐き出した。
こちらを振り向いた顔は赤くて、目が潤んでいる。
理性を飛ばさなかったことを、誰か褒めてほしい。
女子だけが遊んでいるのを、男三人で眺めていた。
「さっきのホントやめて」
涼介に苦情を申し立てる。二人は付き合っているが、こちらはまだ片思いなのだ。
「いや、あれで付き合ってないとか誰も思わないだろ……」
「マジ?」
涼介がそう返してくる横で、瑛太が驚いていた。やはり、周りからは付き合っているように見えるのだ。
「正気を保つの、大変だった……」
「お前、偉かったなぁ……」
心底同情するような声で労られた。少し遠くの方で、叶斗の色をまとった美穂の楽しげな声が聞こえる。
「あれは大変だな、頑張れよ」
やはり前にも言われたようなエールを送られた。
叶斗の愛しい人は、とても難易度が高いようだ。




