21話 オフ会⑤
「由真ちゃん……」
語り終えた由真に、美穂がキラキラとした笑顔を向けた。
「ごちそうさま!」
肌は最高潮にツヤッツヤだった。由真はそれを見て、テーブルに突っ伏した。耳が真っ赤になっている。
「は、恥ずか死するっ!!」
その様子を見て他の三人は笑った。さんざん他人から尊みを摂取したのだ。還元しても罰は当たらない。
それから四人で時々前世の話を織り交ぜつつ、他愛ないおしゃべりに移行した。
叶斗のヤンデレルートの考察の話になって、由真が少し遠い目をした。
「わたし、新たなヤンデレを生み出したかもしれないです……」
「どういうこと?」
加奈が首を傾げる。各々の相手は比較的愛が重いと結論づけた。それ以上に危険ななにかがあったのだろうか?
すると、由真は「聞いてください」と当時の話を語りだした。
正式に付き合うことになって、二人で出かけることが増えた。付き合いは一年以上になったし、家族公認でもある。
高校生になってからは、門限も長くなり平日でも一緒にいられる時間が長くなった。
その日は公園に寄り道していた。いつもはベンチに座ったり、ブランコに座ったりしながら、話すのが定番だったが珍しく別の場所へ誘導された。
入口からは死角になる、木の陰だった。
「みーくん、も、許してぇ……っ」
「だめ。昨日、僕に隠れて男と会ってたでしょ。おしおき」
満に急にキスをされた。深いキスを繰り返して、すぐに由真は息が上がってしまった。
口が離れた隙に由真は懇願したが、満は許さず、由真の唇を塞いだ。
由真はそれに翻弄されつつ、また新しい涙がこぼれるのを感じていた。
回らない頭で、満が言った『男』とは誰なのかを考える。しかし、わからない。
「わかんないよぉっ」
息継ぎの合間になんとか声を絞り出す。満はその答えに苛ついているようだった。
「僕より背が高かったね? 頭触るの許してるし、ムカつく」
その言葉でやっと誰のことかわかった。
「それ、従兄弟!」
「は?」
答えがわかって、由真は安心した。満の勘違いだ。あとは詳しく説明して、満が由真に謝ったらそれでおしまいになるはずだった。
「みーくんも小さい頃、会ったことあるよ! うちの叔母さんとこの和也にい!」
今は大学生の彼は、昔、満と遊んだソフビ人形の元の持ち主でもある。
浮気をしていると間違われて焦ったが、これで解決だ。
……と思ったのに、満の目が据わったままだ。
「従兄弟は結婚できる」
「へ?」
想定外のことを言われて、思わず間抜けな声が出た。
「由真はかわいいから、絶対狙ってる」
自分よりも整った顔立ちの彼氏に断言されてしまった。昔はひたすらかわいかったのに、最近はかっこいい要素まで加わってきている。
どちらにしろ、こんなに素敵な彼氏がいるのに浮気するような甲斐性は、由真にはない。
「由真はちゃんと自覚して。もう頭は触らせないで」
真剣に言われて、満の目を見て頷く。そうすると、満の目が和らいだ。
「約束、だよ?」
由真は、満のその言葉に弱い。もう一度頷くと、満が幸せそうに笑った。
次の瞬間、表情に暗いものが宿る。
「やぶったら、閉じ込めちゃうかも」
由真の背中に寒気が走った。思わず満にしがみつくと、満はすぐに表情を戻して由真を優しく抱きしめた。
「由真、大好き……」
由真は、大好きな彼氏がヤンデレの道を歩み始めたことに心の中で頭を抱えたのだった。
「あら〜、育てたわねぇ」
寧々がそう言うと、由真は今度は現実で頭を抱えた。「どうしてこうなった」と呟いている。
加奈は美穂を見つめた。加奈の視線を受け、美穂は親指を立てた。
「由真ちゃん、大丈夫! 転生しても推しが大好きだったわたしだよ? ヤンデレになる前に、同じくらいの愛を返せば問題ないよ!」
「美穂先輩……!」
実際にヤンデレに重い愛で返し、ヤンデレルートを回避した本人が言うのだ。由真は、美穂を救いの神かなにかのように拝んだ。
それを見て、加奈はとりあえずもう大丈夫そうだと思った。……たぶん。
※
「これでよし、っと」
転生者たちのグループライムに美穂を登録した。
同時にグループライムの名前を『花咲くオフ会』に変更する。
オフ会が楽しくて、次も開催しようと提案したのはやはり美穂だった。全員それに同意してライムを交換する。
いつの間にか外は茜色に染まり始めていた。
それぞれの彼氏から『そろそろ帰ってくる?』とライムが入り始めたので、四人は慌てて片付けを始めた。
「楽しかったね」
美穂が笑う。加奈たちは呼び出されたときは、戦々恐々としていた。けれど、フタを開けてみればとても楽しい時間だった。
「みんなの話を聞けてよかった」
それぞれ頷きあう。美穂以外もそれぞれの話を聞くのは初めてだったのだ。
またオフ会をしようと言い合いながら、それぞれの家路につく。
美穂は校門に向かう途中、叶斗が迎えに来たのに気づく。私服に着替えている。いったん帰ってから、わざわざ迎えに来てくれたのだ。
「迎えに来ちゃった」
優しく微笑む叶斗に、美穂は笑顔で返す。
「ありがと!」
自然に手をつなぎ、歩き出した。
もう不安そうに瞳を揺らす叶斗はいない。
美穂はそのことに、幸せな気持ちになった。
ゲームの世界に転生し、これからもこの世界で生きていく。
もう不安は感じない。
次話からエピローグとしての叶斗視点が始まります。
もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。




