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17話 オフ会④

「め、女神がいる……!」


 話の途中から美穂がボックスティッシュをスタンバイさせていた。一体どこから出したんだろう……と加奈は考える。


「よかったねぇ! 琉馬、幸せになった……!」


 ティッシュじゃなくて、タオルのほうがいいんじゃ……って鼻水まで出てるわ。うん、ティッシュの方が正解。

 由真がわかりやすく引いている。寧々は美穂の近くに寄って頭を撫でだした。なにかの保護欲がそそられたらしい。


 時間を置いて、少し美穂が落ち着いた。


「うう、ごめんねぇ。最推しは叶斗だったけど、他のキャラも好きだから幸せエピ聞けて嬉しくて」


 『花咲く乙女』は一般的なシミュレーションゲームで、パラ上げが一番大事だけれど、攻略対象の悩みを解決することもテーマに入っている。

 主人公が攻略しなければ、キャラクターの悩みは解決されない。なお、逆ハーエンドはない。

 美穂は最初の頃、攻略するしないは関係なく、どうやって悩みを解決すればよいのかも不安だったそうだ。

 結果的に無用の悩みだったのだけれども。


「はいはーい、美穂先輩落ち着いたところで質問ターイム! 加奈先輩、捨て猫ちゃんを保護するイベントは?」


 またもや由真がゲーム中のイベントのことを聞いてきた。

 加奈はゲームの内容を思い起こす。琉馬が雨の中、ベタに段ボールに入った子猫に傘を差し掛ける内容だった。


「家族総出で保護したなぁ」


 発生条件が揃った日、雨が降る前に段ボールを発見できた。スマホで両親と兄を呼び出し、諸々の道具を揃え、無事に保護することができた。

 幸いすぐに新しい飼い主が見つかり、全猫元気に旅立っていった。


「じゃあ、不良に絡まれて喧嘩するイベント!」


 発生条件は琉馬と駅で待ち合わせ。琉馬が時間に遅れると発生するランダムイベントだ。

 琉馬と駅で待ち合わせしたのはたった一度。その時、発生したのは……。


「あー、耳の遠いおじいちゃんに、道を聞かれて案内したのがそれかも……」


「何がどうしてそうなった?!」


 由真が頭を抱えた。

 加奈も当時、頭を抱えた。道を聞いてきた老人は何回口頭で説明しても「あ? なんだって?」と某芸人のネタバリに返してくるのだ。結局、琉馬が合流してから二人で目的地まで案内した。


「と、尊みを、尊みを補給させてください……!!」


 由真が大げさに嘆いている。それを見て、思わず加奈は苦笑した。

 ゲームイベントは同じ進行で起きたものはほとんどない。そもそもガルガル威嚇していた犬が、しっぽを全力で振る大型犬に変わっているのだ。同じイベントが起こるには無理がある。


「そうは言っても、まだキスまでしかオーケーにしてないもの。そんなに補給できるかな?」


「な、なんでか聞いても……?」


 由真が恐る恐る聞いてきた。


「私が、我慢できなくなっちゃうから」


「お姉様……!!」


「オトナの発言!!」


 由真、美穂がそれぞれ身悶えている。寧々は、あえてこの話題に触れないようにしているようだった。

 あははと加奈は笑いながら、かわいい琉馬の顔を思い出していた。

 人けのない路地裏とか、みんなが帰った教室。こっそりと触れるだけのキスをする。

 キスだけならもう何百回とした。先に進みたい、という空気を感じることもある。

 けれど、走り始めたら加奈自身が最後まで止まれないだろうなという確信があり、それ以上踏み込むことはできないでいる。前世分の年齢がプラスされている分、大人として琉馬を大切にしたかった。


「それより、そろそろ由真の番じゃないの?」


 そう由真に言うと、由真はわかりやすく挙動不審になった。


「い、いや、そろそろお開きってことで!」


「まだ由真の話、聞いてない」


 美穂が頬を膨らました。寧々がまた頭を撫でている。リスにでも見えたのか。


「わたし、前世でも高校生で終わったし。みなさんの期待できるようなものじゃないです!」


 由真の発言に、三人の顔が曇る。まだ未成年のまま、前の人生を閉じたのか。痛ましいと思っていることがわかる表情だった。


「や、病気だったんで! むしろ、今、健康だし痛くないしで幸せいっぱいだから心配しないでください!」


「じゃあ、その幸せいっぱいなエピソードを聞きたいな?」


「やぶへびった?!」


 由真が慌てて両手をぶんぶんと左右に振って弁解したのを聞き逃さず、美穂が追い詰めた。


「わたしはみなさんと違って、ただの黒歴史のさらけ出しだから恥ずかしいんですよぅ!」


「さんざん人から栄養摂取しておいて、まさか逃げられると思ってるのかしら?」


 寧々も追撃する。由真が加奈に助けを求めるように見つめてきたので、無言でにっこりと笑ってみた。


「ひいぃ! みーくんとのお話、絶対期待するようなものじゃないですからね!」


「「「みーくん」」」


「あ。も——!!」


 三人とも、綺麗にハモった。その声で、由真は最大限の失言をしたことに気づいて叫んだのだった。




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