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12話 黒田寧々の場合3

 寧々は家に帰って、宣言した。


「私、桜庭くんの会社で働く。彼の隣で支える役になる!」


「……頑張れ?」


 唐突な宣言に首を傾げつつ、両親は応援してくれた。

 華道や茶道、礼法教室……武道もいいな、いろいろ習い事を増やしたいと言ったら、一瞬固まっていたが。

 寧々は秘書を目指そうと思った。一博のパートナーとして、常に隣で支えるための知識や教養を身につけるのだ。

 小学生のうちから夢に向かって的確に動けるのはチートみたいだな、と思った。


 寧々たちは附属の中学校に進学した。一博は大人にプレゼンした通り、着々と準備を進めていた。

 寧々も、一博を支えるべく勉強に習い事に全力を尽くした。

 その結果、どこのお姫様かと見紛う楚々としたご令嬢に成長した。最近、桜庭家に出入りしているが、ご家族からの評判も上々だ。


「一博くん、資料できたわ」


「ありがとう。いつも早くて助かるよ」


 一博は生徒会長になった。寧々は副会長として、宣言通り彼を支えている。

 あれから、呼び名がお互い名前に変わった。一博から寧々に提案があったのだ。寧々は一博の弟とも交流がある。二人がいる場では確かに呼びにくかった。寧々だけが名前呼びではおかしいだろうと一博も寧々を名前で呼んだ。耳が爆死するかと思った。





「黒田さん、好きです! 付き合ってください」


 校舎裏に呼び出された寧々は告白されていた。

 楚々とした大和撫子に成長した寧々は、中学生男子にとって魅力的に映るのだろう。一博の一歩後ろに付き従う姿が、男子たちの琴線に触れるのか。顔もよく知らない男子生徒によく呼び出されるのだ。


「お断りします」


「いや、お試しだけでもいいから!」


 毎回スパッと断るのだが、相手のあきらめの悪さすら同じだった。押せばいけるとかなにかマニュアルがあるのか。燃やしたい。


「黒田さんもこんな場所に来たってことは、ちょっとは気があったんでしょ?」


 本当に意味がわからないのだが、なぜか妙な思い込みをして迫ってくる輩もいる。

 手首を掴まれた。

 あまりに酷いようなら、実力行使で黙らせよう。鼻息が荒くなった相手をどう沈めようか考えていると、寧々の耳を爆死させる唯一の声が届いた。


「なにをやっている!」


 一博がスマホを掲げていた。パシャリパシャリと音が鳴る。最初に証拠を確保するなんて完璧だ。……とっとと投げなくてよかった。


「放校になりたくなければ、その手を離せ」


 放校とは退学処分のことだ。私立中学なので、普通にあり得る。女子生徒に乱暴を働き、その証拠も確保されている。しかも、その証拠を持っているのは先生方からの信頼も厚い生徒会長なのだ。男子生徒に太刀打ちできるものではない。


「くそっ」


 汚い捨て台詞を吐いて男子生徒が立ち去っていった。姿が見えなくなった後、手首を見たら赤い手形がついていた。


「寧々……、やはり消すか」


「合法的にお願いします」


 手首の跡を見た一博が、男子生徒が去っていった方角を見て呟く。念のため、釘を差しておいた。


「寧々も、こういう呼び出しは僕に報告するよう言ったよね?」


「や、でも、一博くん忙しいし……」


 一博の手を煩わせたくなかったのだが、結局は迷惑をかけている。寧々は反省した。


「ごめんなさい。次からはちゃんと言います」


「そうして。これから病院に行こう。親戚の所に電話しておくから」


「うぇえ、親戚の方にまでご迷惑を……。申し訳ない」


 手首に負担をかけないためか、肩を抱かれて、一緒に荷物を取りに教室へ戻る。

 寧々は突然のご褒美に、鼻血を出さないか心配になった。





 病院の帰り道、いつもの河川敷のベンチに寄ろうと言われた。

 幸い手首は痛みもなく、跡もすでに薄くなっている。

 ベンチに並んで腰掛けると、一博が口を開いた。


「もっと僕を頼ってほしい。どうして一人で解決しようとしたの?」


「……隣に立つには、あれくらい自分でなんとかしなきゃって思っていたの」


 寧々の目標は、一博の隣に立っても遜色ない、有能な秘書だ。秘書が足を引っ張るのなんてあり得ない。


「違う、逆だよ。一人で危ないことをされると不安で仕方がないんだ。

 隣にいるって決めたなら、僕のそばを離れないで」


「そ、そうだよね。一博くんを不安にさせるなんて、秘書失格だった!」


 寧々がそう言うと、一博はきょとんとした。……なにが変なことを言ったのだろうか?


「違うよ、僕の奥さん、でしょ?」


 爆弾が投下された。


「ひぇッ、そんな恐れ多い……」


「今さら嫌だなんて言わないよね? 僕はもう、君がいない人生なんて考えられない」


 情熱的なセリフを言われて、寧々は顔が熱くなる。中学生が言うセリフではない。

 寧々の様子を見た一博は寧々の手を取って、指先に口づける。


「愛してるよ、寧々。もう一生離さない」


 なぜだろう、中学生の色気が半端ない。

 隣で見ているだけだと思ったのに、推しから愛を返されるとは思わなかった。

 寧々は、ちらりとこれから現れるはずの主人公のことを思った。

 一博の人生は寧々が介入したことで、大幅に変わってしまった。

 これから、主人公がどう動くのかはわからない。けれど、寧々は一博の隣にいたい。


 顔に手がかかる。

 いつの間にか距離を詰めた一博の、端正な顔がそこにあった。

 寧々は目閉じて、一博の気持ちを受け入れながら、全力で隣を守ろう、そう固く誓った。



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