第39話 絶対に許さない
回想のラストは近いです!
※熱が入ってしまい、文字数が11,144字になってしまいました。時間に余裕がある時に読むことをお勧め致します。
家に帰ると、驚くことにリビングの前にルシファーが腕組みして立っていた。
ルシファーは笑っていたが、こちらに向ける眼差しは―—。
「ジョシュア、あの女は誰?」
ルシファーのあんな顔を見たのは久しぶりだった。
ジョシュアはミハイルとの約束を思い出し、無表情になった。
「ああ、彼女は・・・・・・客人だ。重要な仕事をしに来たようだ」
ジョシュアは淡々とメイについて説明した。
メイに対する気持ちには触れず、ただ事実だけを述べた。
「・・・・・・という訳だ」
「なるほどね。わかったわ」
ルシファーはジョシュアの説明を聞いて、理解してくれたようだった。
「そ、そうか」
ジョシュアは胸をなで下ろしたが、その直後、ルシファーは彼をギロリと睨んだ。
「それで?その女のこと、どう思っているの?」
「どう・・・・・・とは?」
ジョシュアがわからないふりをすると、ルシファーは大きなため息をついた。
「・・・・・・そう。そうなのね。かわいそうなジョシュア。ずる賢い野良猫に惑わされてしまったのね」
「・・・・・・おい」
ジョシュアは、ルシファーの言葉から明確な悪意を感じ、彼女を睨み返した。
「無礼なことを言うんじゃない。彼女を侮辱するな」
「こわーーーーーーい♡」
ルシファーは高い声でそう言うと、また元の表情に戻った。
「覚えておいて、ジョシュア。人は見た目通りの綺麗な性格とは限らないの。あいつが本性を出して、あんたを傷つけないことを祈っているわ」
ルシファーはジョシュアに歩み寄り、頬にキスした。
そして、
「また今度ね♡」
そう言って、帰っていった。
ジョシュアはこの時、ルシファーの性格がより悪い方向に変わったことに気づき、警戒を強めるようになった。
夜が明けると、もうメイは宿を出ていた。
しかし、心配ない。
取材に来るということは、また会える――いや、何を考えている。
まずは取材に協力して、情報を集めなければ。
ソドム区に危機が迫っているのだ。
ジョシュアは気持ちを落ち着けて、自分が何をすべきかをはっきりさせた。
それから数日後、メイが再び取材に来た。
また怪我してしまうことがないように、ジョシュアが彼女を護衛することを彼女本人とロンに提案し、どちらからも許可をもらった。
ミハイルも一緒に行こうとしていたが、ゾンビや迫害者に対抗できる貴重な戦力を減らしすぎるのは良くないという判断から許されなかった。
メイは一軒一軒回って聞き込みをして、情報を集めていった。
ジョシュアが一緒にいたため、住民達はありのままに話してくれた。
しかし、3月の取引についてはわからないままだった。
落ち込むメイ。
ジョシュアは彼女を励ました。
「大丈夫!まだ時間は残っているぞ!」
「・・・・・・ありがとう」
メイはうつむきながら言った。
頬が赤かった気がしたが、その時は建物の陰にいたのでよく見えなかった。
その日は上手くいかなかったが、メイはその後も何度も取材に来た。
その間も、迫害者達の襲撃があったが、ミハイル達が撃退してくれていたため、メイは取材に集中することができた。
ジョシュアはメイを護衛しながら彼女に協力し続けた。
2人は聞き込みだけではなく、怪しい場所や廃墟などを調べ、1日中張り込みをすることもあった。
しかし、確かな情報はなく、ある日、メイは座り込んでしまった。
ジョシュアはメイがお腹を空かせているのではないかと予想し、通りの店からホットドッグを2つ買い、その内の1つを彼女に差し出した。
「ほら、飯にしようぜ」
「え?」
「腹が減っていたら、十分な力を出せないだろう」
「・・・・・・うん」
メイは顔を上げると、そっとホットドッグを受け取った。
「歩けるか?良い場所があるんだ」
ジョシュアはメイに手を差し出して立ち上がらせると、お気に入りの場所へ連れて行った。
そこは、ソドム区が見渡せる小さなビルの屋上だった。
「綺麗・・・・・・」
メイの言葉を聞いて、ジョシュアはニコリと笑った。
「だろ?」
ジョシュアとメイは近くのベンチに隣り合って座り、ホットドッグを食べた。
この地区の風景を見ながら、彼女と食べるホットドッグは、いつもより美味しかった気がした。
ホットドッグを食べ終わった後、ジョシュアはメイの方を向いた。
「・・・・・・メイ、きいても良いか?」
「何?」
「何故そこまで必死に取材するんだ?この地区のことは、お前には元々関係ないはずだろ?」
メイはクスリと笑い、彼を横目で見た。
「そう言うジョシュアは、何故この地区のために命をかけるの?」
「そりゃ、もちろん大切なものを、皆を守るためだ。嫌なこともたくさんあるけど、嬉しかったこともたくさんあった。それは、皆といたからだ。だから、俺は戦う」
「だよね。実は、私も似たような理由」
「メイも?」
「うん。私にとって、真実を伝えることは市民を守ること。市民の命を、尊厳を、自由を守ること。その中にはもちろん、ここの人達も含まれている。だから、私も全力で取材するの」
ジョシュアはメイの言葉に心を打たれた。
「メイはすげえよ。心から尊敬する」
「え?そんな・・・・・・、やめてよ。もう」
メイは頬を赤くしながらさっと顔を背けた。
するとその直後、彼女は驚きの声を上げた。
ジョシュアがどうしたのかきくと、メイはあるビルの廃墟を指さした。
ソドム区の端にあるビルの廃墟だ。
「ああ・・・・・・、あれか。あの廃墟がどうした?」
「あそこ、人がいる」
「何?ありえん」
ジョシュアは肩にかけていたショルダーバッグから双眼鏡を出すと、その廃墟の方に向けてのぞいた。
すると、確かにそこには人がいた。薄汚れた茶色い上着を着た男性だ。
ジョシュアは双眼鏡から目を離した。
「あれは何だ?いや、誰だ??」
「あの廃墟って、昔ゾンビを入れていたんだっけ?怪しいから張り込みしたかったけど、危ないからって許可してもらえなかった」
「ああ、ゾンビネズミとかがいたらやばいからな」
「じゃあ、あそこにいるのは誰?管理人?」
メイはジョシュアの方を見たが、しばらくして首を振った。
「ううん。それなら、ジョシュアが知らない訳ないか。まさか、ゾンビ?」
「いや、多分違う。あの廃墟にはもうゾンビを入れていない」
最初はゾンビが人間に戻れるという『夢』を抱き、あの廃墟の地下室にゾンビを閉じ込めていた。
いつか戻す方法が見つかった時のために。
しかし、ゾンビ達を研究した政府の機関から「人間に戻すことは不可能」であると知らされ、ジョシュア達は『夢』を諦めた。
「噛まれてゾンビになった人の可能性は?」
「あの廃墟は立ち入り禁止になっている。ゾンビネズミに噛まれる奴が出るはずがない」
「じゃあ、あれが・・・・・・」
「ああ、間違いないだろう。侵入者だ」
ジョシュアはメイと一緒に廃墟の近くまで行ったが、男性の姿は確認できなくなっていた。
出直すしかない。
翌日、ジョシュアはロンに報告した上でいざという時に廃墟に入る許可をもらい、メイや、自警団の精鋭部隊と廃墟の近くに張り込みをした。
すると、しばらくしてまたあの男性が現れた。
ジョシュア達は隠れて様子を見ていたが、男性が廃墟に入ったところで彼に声をかけた。
男性は青ざめ走り出したので、ジョシュアはすぐに追いかけて取り押さえた。
何故逃げようとしたのか問い詰めると、男性は震えながら首を振った。
どれだけ脅しても同じだった。
答えられないようだ。
ジョシュア達は、その男性を自警団の本部へ連行し、改めて尋問したが、情報は得られなかった。
彼らは困ってしまった。
迫害者達のように暴力で吐かせる訳にもいかない。
そこへ予想外の人物が助けに現れた。
ルシファーだ。
「外の世界でちょっと勉強した方法で、お話するわね?」
ルシファーはそう言うと、椅子に座らされた男性の肩に手を置き、何かを囁いた。
すると、男性は急にペラペラと喋り始めた。
この男性、いや、この男は犯罪組織の構成員で、3月の取引場所として選ばれたあの廃墟を下見するために何回も侵入を繰り返していたという。
ジョシュア達は背筋を凍らせた。
危うく目と鼻の先で犯罪をされるところだったのだ。
ジョシュアはルシファーに感謝した。
「ありがとう。助かった」
「良いのよ。私達の仲じゃない」
ルシファーはそう言いながら、メモを取り始めたメイに視線を向けていた。
ジョシュアがそれに気づくと、ルシファーは再び彼に視線を戻した。
「何?」
「メイがどうかしたか?」
「・・・・・・そうだ。ジョシュア、この後時間ある?」
「ないが、何とか作ってみる」
ジョシュアはうなずいた。
ルシファーはニコリと笑い、会う時間と場所を提案してきた。
ジョシュアは自警団の幹部に夜やるはずだった尋問の仕事を代わってもらい、メイを地区の外まで送った後、ルシファーと約束した場所に来た。
通りの店の前だった。
驚くことに、その前日にメイと一緒に食べたホットドッグを買った店だ。
提案された時は目を丸くしたが、この時はそれよりもルシファーが何をする気なのか注意する必要があり、ジョシュアは落ち着いた表情を見せた。
「何にする?」
「ホットドッグで!」
ルシファーは笑顔を浮かべて注文した。
ジョシュアとルシファーは近くの空き地のベンチに隣り合って座り、ホットドッグを食べた。
相変わらず美味しい。
そう思って食べている間に、気づくと最後の一口を飲み込んでいた。
それを黙って見つめていたルシファーの視線を感じ、ジョシュアは彼女の方を向いた。
「な、何だよ?」
「別に?」
ルシファーも、ホットドッグを食べ終わっていた。
「あ、そうだ。ジョシュア、私の忠告を無視したでしょ?ダメじゃない」
「またその話か」
ジョシュアはため息をついた。
この話をするルシファーのことは、少し面倒に感じ始めていた。
「メイの何が気に食わんのだ。あんなに良い人はこの街でも滅多にいないぞ」
「良い人ねえ」
ルシファーの不満そうな顔を見て、ジョシュアは苛立った。
「彼女と話したこともないだろう?これ以上悪口を言うなら許さん」
ジョシュアがそう言うと、ルシファーも声が低くなった。
「何その言い方?私の兄にでもなったつもり?」
「昔からお前のことは妹だと思っている。だから、今まで庇ってきた。急にどうした?」
その瞬間、ルシファーの目が見開かれた。
「・・・・・・そう」
ルシファーはジョシュアを睨むと、ベンチから立ち上がった。
「ホットドッグ、ごちそうさま」
「何か話があるんじゃないのか?」
「・・・・・・そういうところは鋭いのに、何故私のことは・・・・・・、いや、いいか。もう決めた」
「は?」
「また会おう。ジョシュア」
「あ、ああ」
ジョシュアはうなずき、遠ざかっていくルシファーの背中を見つめるしかなかった。
その日の夜、家で眠った直後に父アースマンが現れた。
いや、正確には、ジョシュアが宇宙船に連れて来られて彼の前に立たされた。
ジョシュアは寝ぼけながらきいた。
「どうしたのですぅ?」
「すまない、ジョシュア。急いで伝えなければならないことがあるんだ。キルス家の跡継ぎの君に」
「・・・・・・はい?」
ジョシュアは、アースマンから驚くべき話を聞かされた。
何と、伯父のダークンが帝国に反逆し、新しい組織を作ったというのだ。
ジョシュアはショックで眠気が覚めた。
「このままでは、ルシファーの身も危ない!」
関係が悪くなってきていたとはいえ、ルシファーも家族。心配だった。
しかし、アースマンは首を振った。
「ルシファーのことは諦めなさい」
「何故!?」
アースマンは理由を話した。彼女の恐ろしい本性も含めて全て。
ジョシュアは青ざめた。
「そんな・・・・・・」
「彼女は何でもするつもりだ。あの街を犠牲にしてでもね」
「お、俺は・・・・・・」
「明日の朝、君はロンに呼ばれて家宝の『デスナイフ』を渡されるだろう。あれは元々我が惑星の王家の宝でね、邪悪な存在を切り裂く聖なるナイフとされているんだ。頑丈で軽くて、切れ味も良い。それで身を守りなさい。ある日突然消えたあのナイフがこの惑星で発見されたのは、多分この時のためだ」
「ま、待ってください!」
「待たないよ。私も、君と同じだ。家族をこれ以上失いたくない」
「か、勝手なことを言わないで下さい!!」
ジョシュアは思わず怒鳴った。
すると、アースマンはジョシュアを優しく抱きしめた。
「本当にすまない。全て私達のせいだ」
「父さん??」
「もう使命のことは気にしなくていい。私が何とかする。君は、君が守りたいものを守りなさい」
「・・・・・・!」
「だが、死ぬんじゃないぞ。我が息子よ」
ジョシュアはアースマンのその言葉を聞いた後、気づくと、家のベッドの上にいた。
その次の日の朝、アースマンの言った通り、教会に呼ばれたジョシュアは、悲しそうな表情のロンからデスナイフを渡された。
「おじい様も、聞きましたか?あの話」
「・・・・・・ああ。何故、こんなことになったのだろうな」
「わかりません。ですが、あいつが敵になるなら、俺は・・・・・・」
ジョシュアはシースからナイフを抜いた。
そして、
「俺は、あいつとも戦います。皆を、この場所を守るために」
覚悟の言葉を口にした。
もう戻れないだろう。
だが、やるしかない。
そして、運命の3月某日。
あの廃墟に犯罪組織の者達が集まった。
薄汚れた茶色い上着を着た男の話によると、「黒いコートの女」と呼ばれる女がニューボーンウイルスのウイルス液を用意し、犯罪組織に売る予定だったようだ。
その女は黒いコートを着ており、顔には何と悪魔の面をつけているとのことだった。
一方、彼らを捕えるためにジョシュア達も近くの建物に集まった。
事情を説明して、ジョシュアの弟・サイモンも遅れて合流してもらう予定になっていた。
情報を鵜呑みにした訳ではなかったが、万が一のためにジョシュアは、メイやミハイル、自警団のメンバー達を呼び、一緒に見張っていたのだ。
集まって数分後、黒いコートの女が現場に現れた。
情報通り、黒いコートを着ており、顔には悪魔の面をつけていた。
そして、髪は見覚えのある黒色だった。
それを見て生唾を飲み込むジョシュアを、ミハイルとメイが心配してくれたが、ジョシュアは「大丈夫だ」と笑って見せた。
情報が本当であることを確認すると、ジョシュア達は作戦を実行に移した。
取引する瞬間をメイが撮影し、その上でジョシュアとミハイル、そして自警団が現場に突入して黒いコートの女も、犯罪組織の者達も全員捕まえる。作戦名「夜のスクープ作戦」である。
黒いコートの女は、ニューボーンウイルスのウイルス液を詰めたバッグを取引相手達に見せて、オークション形式で売却した。
メイは作戦通りに証拠写真を撮ると、ジョシュアへ合図のウィンクをした。
ジョシュアはお礼を言うと、メイの護衛に自警団の精鋭班をつけようとした。
すると、そのタイミングでサイモンが合流してきたので、彼にメイの護衛を任せると、ミハイルや自警団と一緒に現場に突入した。
黒いコートの女や犯罪組織の者達は驚き、逃げ惑うはずだ・・・・・・と、ジョシュアは予想していたが、彼らは恐ろしいほどに冷静だった。
自警団の幹部が事前に尋問し、口止めして逃した薄汚れた茶色い上着を着た男。彼から聞いてジョシュア達が来るとわかっていたとしても、動揺すらしていないのはおかしかった。
その不気味な冷静さの理由は、すぐわかることになった。
黒いコートの女の高い声で指示が出されると、犯罪組織の者達は壁際までさがり、次に彼女が大声で命令を出すと、奥から黒いローブの男が10人も飛び出してきた。
彼らの目は虚ろで、体が不自然に震えていたため、すぐに薬物中毒だとわかった。
手にはナイフを持っており、非常に危険だ。
彼らが、奥の手だったのだ。
ジョシュアはそれに驚き、一瞬怒りを感じたが、それ以上に恐怖も感じた。
黒いコートの女が大声を出す際、目穴から青い光が漏れたのだ。
ジョシュアと同じ特殊能力者で、黒髪の女性。その上、人を操れる。
彼女の正体は・・・・・・。
「ジョシュア様!!」
「ジョシュアぼっちゃま!!」
「はっ!?」
ジョシュアは恐怖に飲み込まれかけたが、仲間達の声ですぐに自分のやるべきことを思い出し、懐からデスナイフを一気に引き抜いた。
「抵抗するつもりなら、実力行使だ。皆!!」
「「了解!!」」
ミハイルと自警団は犯罪組織の者達を取り押さえるために一斉に走り出した。
その直後、黒いローブの男達がジョシュアに飛びかかった。
ジョシュアは素早く避け、しつこく繰り出されるナイフの突きをデスナイフで防いだ。
戦闘の素人ばかりなのか、隙だらけだったため、迫害者やゾンビの相手をしていた時よりも簡単だった。
黒いローブの男達が息切れして動きが鈍った瞬間を見逃さず、今度はジョシュアが攻撃を始めた。
ジョシュアは10人の手首を次々と切りつけてナイフを落とさせ、間髪入れずに蹴り倒した。
1人で10人を拘束するのは無理があり、大人しくさせるにはこれしかなかった。
10人全員を蹴り倒した後、手首を押さえてうずくまる彼らを見下ろして、ジョシュアはつぶやいた。
「悪く思うなよ」
しかし、その次の瞬間、黒いコートの女が不意をつく形で襲いかかった。
彼女の手にはナイフが握られており、ジョシュアは慌ててデスナイフで防いだ。
彼女と目が合った。
彼女がつけている悪魔の面の目穴から見えたのは、自分と同じ青い瞳。
光らなくなったが、美しいままだ。
・・・・・・間違いない。
「何故、こんなことをする!?ルシファー!!」
黒いコートの女はクスッと笑い、もう片方の手で悪魔の面を外した。
「バレちゃった♡」
それまで見たことがないほど妖しく、邪悪な笑顔。
妹のように思っていた彼女がこんな恐ろしい人物に変わってしまったことに、ジョシュアは動揺を隠せなかった。
「答えろ!!」
「ジョシュアも聞いているでしょう?お父様が帝国に反逆したって。私達は、帝国とは別の方法で地球を支配することにしたの。ウイルスを対立する組織の双方に売却して、争わせる。すると、どうなる?」
「・・・・・・!デスタウンでの大流行よりも規模が大きい流行が起きる。最悪、世界中がゾンビだらけに!!」
「ピンポーン♡さすが、ジョシュア。そんな状況になったら、私やあんたみたいな特殊能力者を求める人がいっぱいできるだろうね」
「つまり、わざと大流行を起こして、自分達が救世主として救えば、世界を支配しやすくなると?」
「その通り!!ジョシュアさえ手伝ってくれれば・・・・・・」
「ふざけるな」
ジョシュアは、ルシファーを睨んだ。
「そんなこと、絶対させるか!!」
そう言うと、ジョシュアは隙をついてルシファーに蹴りを入れた。
ルシファーはとっさに後ずさりすると、不思議そうに首をかしげた。
「ジョシュア、最近おかしいわよ。何故、私をそんな目で見るようになったの?」
「おかしくなったのはお前だ!!どうしちまったんだ!!?」
「私はまともだよ。誰よりも現実を見ているわ。この腐った世界を救うには、一度滅ぼさなきゃ。私の母のような犠牲者を出さないためにも、やるしかないの。それが、私の、ううん。私とあんたの新しい使命」
「俺達の?」
「そうよ。私と2人で仲良く世界を支配するの。とても楽しいわよ?今まで私達をいじめてきた奴らに仕返しできるし、好きなことも何でもできる。それに、私達が手を組めば、帝国からの侵攻だって怖くない。警備会社をつくるために、面倒なことをしなくて良いの」
ルシファーの目は、別人のようだった。
ルシファーの母の葬儀の時から気づいていたが、直視しなくてはならない。
もうジョシュアの知っている彼女はいない。
「ルシファー・・・・・・」
「わかっているわ。この前のデートで、私のことは妹だと思っていると言われたもの。でも、私と実際に付き合えば、考えも変わるはず♡私はずっとあんたといて、変わったから。どうかな、ジョシュア?」
「ありえない」
「は??」
「俺は、お前と付き合えない。手を組めない。お前のやろうとしていることは、迫害者と変わらないからだ」
2人が話している間も、ミハイルや自警団は犯罪組織の者達を拘束するために激しい戦いを繰り広げていた。
彼らのことを裏切り、生まれ育った場所を、家族や仲間の皆を見捨てて自分達だけ「支配者」になろうなどという提案を受け入れられなかった。
だから、ジョシュアは彼女の最悪な告白を受け入れられなかった。
ジョシュアに振られると、今度はルシファーが動揺し始めた。
「何故、そんなことを言うの?前まではそんな酷いこと言わなかったよね?・・・・・・もしかして、あの女のせい?ううん。絶対そうだ」
ルシファーはおかしな結論にたどり着き、メイを殺しに行こうとした。
ジョシュアはルシファーを止めようとしたが、その次の瞬間、足首をつかまれた。
下を見ると、先程蹴り倒した黒いローブの男の1人がジョシュアの足首をつかんでいた。
黒いローブの男の手首は、ジョシュアがデスナイフで切りつけたところから滝のように血が流れていた。
無理矢理どかせば、彼は死んでしまうだろう。
「大丈夫。全部任せて♡」
ルシファーの方に視線を戻すと、瞳が光っていた。
特殊能力を使って、彼にジョシュアを止めさせているのだ。
「ルシファーぁああ!!!」
ジョシュアは叫んだ。
こんな最低な行為をするところまで堕ちてしまうとは。
仲間達は、犯罪組織の者達を拘束するので忙しく、ジョシュアが助けを求めても動けない。
ジョシュア達はピンチに陥った。
その時、ジョシュア達のもとへ援軍が駆けつけた。
意外なことに、その正体は警官達だった。
「そこまでだ!!人間のクズ共め!!」
厳密には、キルス教徒の警官達だ。
1958年の約束がある程度守られたことで、宗教や出身地区を理由とした進学・就職の制限が行われなくなった。
そのため、その頃には、キルス教徒であっても警官になれたのだ。
後でジョシュアがその警官達から聞いた話によると、タレコミの件については既にデスタウン市警も把握しており、ジョシュア達への恩返しのために上司達を説得して駆けつけてくれたようだ。
「ジョシュア様のために!!そして、自警団の皆様のために!!ゾンビを増やそうなどという企みは絶対阻止だぁあーっ!!!!」
彼らが加勢してくれたおかげで、犯罪組織の者達との戦闘が有利になり、悪人達の拘束が進んだ。
警察のことはあまり信用していなかったが、彼らのことは信じるべきだった。
ジョシュアは少し反省した。
「チッ」
ルシファーは低く舌打ちをすると、再び悪魔の面をつけて姿を消してしまった。
ジョシュアは彼女を追いかけようとしたが、足首をつかんだままの黒いローブの男をどかせず、その場にとどまるしかなかった。
その後、キルス教徒の警官達によって、残された悪人達は全員逮捕され、ウイルス液を詰めたバッグや、逃げる際にルシファーが回収し忘れた金などの証拠品の押収も行われた。
更に、スクープ記事を出したメイから証拠写真も提供された。
ジョシュア達は、取引を潰すことに成功した。
サイモンのおかげでメイも無事だったし、自警団のメンバーも重傷者は出たものの、犠牲者は1人も出なかった。
ルシファーに操られてジョシュアの足首をつかんでいた黒いローブの男も、手首を切りつけられていたが、一命は取り留めたという連絡があった。
ジョシュアは胸をなでおろした・・・・・・ものの、素直に喜べなかった。
妹のように思っていたルシファーが、あんなことを計画していたのがわかったからだ。
ジョシュアはショックを受けたし、悲しかった。
事前に聞いて、戦う覚悟はあったが、心のどこかで何かの間違いであってほしいと思っていた。
だが、もう事実は明らかになった。
迷っている訳にはいかない。
ジョシュアは大切なものを守るために、彼女を庇うのをやめた。
ルシファーは現場から逃げた後、そのまま街から離れていた。
しかし、警察が本気を出して捜査をすれば、逃げ続けることはできない。
スクープ記事が出てしまったからには、面子をかけて捜査するしかないのだから。
ジョシュアはそう思い、デスタウン市警に協力して証言した。
だが、そこから先の捜査はおかしな方向へ向かった。
証拠として押収されたバッグにはルシファーの指紋が1つもついておらず、また、「黒いコートの女」の素顔を見たという犯罪組織の幹部達が証言した特徴がバラバラだったため、ジョシュアの証言は「誤り」とされてしまった。
そのせいでルシファーは逮捕されず、女優として活動を再開した。
それでもキルス教徒は実際に取引を潰したジョシュアの証言を信じたが、ドゥールー教徒は違った。
「注目をあびるために、身内を売る嘘までついた」
そう疑い、陰口を言う者が多かった。
ジョシュアは精神的に疲れ切っていたので、その陰口が、それまであびせられたどの差別発言よりも辛かった。
しかし、メイが・・・・・・、キルス教徒ではないメイが、その陰口を言った者達に堂々と反論してくれた。
自らの信念と友のために、街の多数派へ抗ったのだ。
ジョシュアはその勇気に感動し、気づけば彼女に夢中になっていた。
それまでも人として尊敬していたが、この件をきっかけに彼女のことを特別に思うようになった。
ミハイルにそのことを相談すると、
「それって、恋じゃないですか?」
と指摘された。
ジョシュアは自分の気持ちにやっと気づいた。
ジョシュアは元気を取り戻すと、今度はメイを守る番だと思い、それまで以上に修行に集中するとともに、色々なことを勉強して、知識と技術を吸収した。
彼女に飲んでもらうために、ココアの入れ方を雑誌で勉強したのもこの頃だった。
メイがスクープ記事を出してから忙しくなったと聞くと、ジョシュアは時間を作って「お礼」として手伝い、休憩時間にはココアを入れた。
彼女からは、「初めてとは思えない」と好評で、嬉しかった。
そして数か月後、一人前の聖職者と認められたジョシュアは、メイにココアを入れて愛の告白をした。
メイはそれを受け入れてくれた。
それからのジョシュアとメイの関係は驚くべきスピードで進み、交際を始めて数か月で婚約に至った。
取引の捜査が結局行き詰まったことに比べると、皮肉だった。
時は流れ、1966年5月11日。
ジョシュアとメイはソドム区のキルス教の教会で結婚式を挙げた。
2人は、ウイルス液の取引を潰した件で有名になったので、関係者だけではなく、街の内外のマスコミも集まっていた。
式場の外にはそれらのマスコミに加え、彼らの前で「慈悲深い統治者」であることをアピールしようと当時の市長ランドル・クルーティーが幼い息子と一緒に待っていた。
この時点で大変な状況だが、更に困ったこともあった。
実は結婚式の数日前にルシファーが現れ、式を中止しないとジョシュア以外の者を全員殺すと脅してきたのだ。
そのため、参列する大勢の人間に紛れ込む可能性を考慮し、自警団の部隊に彼らのボディチェックを念入りにしてもらった。
そして、サイモンにも事前に相談した上で、協力して周りを警戒した。
しかし、意外なことに、その日は結婚式で殺人事件などは起きず、普通に幸せな式で終わった。
ジョシュアは胸をなでおろしたが、メイと共に新居へ帰ると、ドアに血文字の脅迫文が書かれた紙が貼られていた。
『裏切り者!絶対許さない。あんたも、あんたの大切な「家族」も、全員殺してやる!』
その紙には名前は書かれていなかったが、筆跡や内容から誰が書いたのかはすぐにわかった。
その日以来、ルシファーは表舞台から姿を消し、ジョシュアや、ジョシュアの大切な人達の命を狙うようになった。
かつて泣き虫だった少女は悪魔へと変わり、新たな使命と復讐のために災いを振りまく邪悪な存在になってしまったのだった。
やっと、回想が終わりました!
次回から、1995年に戻ります!




