第40話 昼食の時間
回想は終わり、場面は再び実家へ。
リリディアは、罪悪感に苦しむ父に何と言うつもりでしょうか?
話が終わる頃には、テーブルに置かれた2人のココアは冷えてしまっていた。
しかし、リリディアはそれよりも、目の前で父・ジョシュアが悲しそうな表情をしていることの方が心配だった。
「親父・・・・・・」
「もうわかったな?あいつは、逆恨みで動いているが、それだけではない。犯罪組織と手を組んででも地球征服という使命を果たすことも目指しているのだよ」
「・・・・・・」
「最近はあいつが犯罪組織と関わる様子はなかったから、やっと過ちに気づき始めたのだと思っていたが・・・・・・、わしの勘違いだったな」
ジョシュアはそう言うと、涙を流した。
「すまない。本当にすまない。わしが、ルシファーと向き合っていれば、いや、何をしてでも止めていれば、今のようなことにはならなかったのだ。わしのせいで、サイラス達が死んでしまったようなものだ!わしが甘かったから!」
「それは違う」
リリディアは首を振った。
「親父は皆のために最善を尽くしてきただろ。そんな親父を裏切ったのはルシファーじゃねえか」
昔のリリディアは、自分が「必要なこと」をしようとする度に止めてくるジョシュアとはよく喧嘩していた。
ジョシュアは「最強の特殊能力者」で、キルス教のトップで、綺麗事ばかり言うお人好し。
だから、現実を見て力を手に入れたがるリリディアとはぶつかっていた。
しかし、ジョシュアはただの理想主義者ではなく、自ら動き、皆のために最善を尽くしていることは当時のリリディアもわかっていた。
そして今、ジョシュアの過去を聞いたことで、はっきりした。
ジョシュアは現実が厳しく、残酷だとわかった上で、傷つきながらも戦い続けていることが。
そんなジョシュアにエゴを押しつけた挙げ句、振られたら逆恨みして災いを振りまくルシファーの罪を、ジョシュアが背負う必要はない。
「ルシファーにも事情があるのはわかった。でも、だからって、あいつが犯した罪を親父が背負う必要はないんだ。罪を犯した奴の罪は、そいつが背負うものなんだからな」
「リリディア・・・・・・」
「リリディアさんの仰る通りです!」
ダミアンもリリディアの意見に賛成だった。
つけ髭を茶色く汚しながらうなずいている。
「ジョシュアさんは悪くありません!」
「ダミアン・・・・・・。お前、話を聞いている間ずっとココアを飲んでいたのか?」
リリディアが呆れながらきくと、ダミアンは真剣な表情で答えた。
「はい!」
ダミアンは空になったマグカップをテーブルに置いた。
ジョシュアはそれを見て、笑顔になった。
「ありがとう、ダミアン」
そして、再びリリディアの方を向いた。
「リリディアも、本当にありがとう。すまないな。気をつかわせた」
リリディアはハンカチを父に差し出したが、ジョシュアは首を振り、自分のもので涙を拭った。
「わしはこれまで通り、いや、今まで以上に最善を尽くす。いつかルシファーを必ず止める。リリディア、ダミアン、力を貸してくれるか?」
「当たり前だろ」
「はい!」
リリディアとダミアンはうなずいた。
その直後、リリディアは背後に複数人分の気配を感じた。
「「私達もいるよ!」」
声がしたので振り向くと、そこにはレイラとメイが立っていた。
リリディアは目を丸くした。
「ばあちゃん!お袋も!?」
「2人とも、いつの間に!?」
ジョシュアは驚きの声を上げた。
レイラはニコリと微笑む。
「ジョシュアが『選ばれし子らとして云々』って言っているあたりかねえ」
「水くさいよ。私達も、背負う覚悟はある」
メイは真剣な表情でジョシュアの方を見ている。
ジョシュアにここまで言えるのは、この2人くらいだろう。
「声をかけてくれれば良かったのに」
ジョシュアがそう言うと、レイラは首を振った。
「そうしたら、ジョシュアは肝心なところを誤魔化すじゃない?だから、ミハイルに習った方法で隠れさせてもらったよ」
「な、何!?ミハイル!?」
「お呼びでしょうか?」
突然ミハイルがジョシュアの背後に現れ、リリディアは再び前を向いた。
「「うわっ!?」」
ジョシュアも振り向いて驚いている。
「お2人の買い物の護衛、無事終わりました」
ミハイルのこういう行為はジョシュアが語った過去の話に出ていたが、いざ目にすると驚いてしまう。
慣れているはずのジョシュアさえもこの反応である。
「魔法・・・・・・!?」
ダミアンが目を輝かせてつぶやくと、ミハイルは微笑んだ。
「いいえ。ただのスキルですよ。呼吸と行動に無駄をなくせば簡単にできます」
相変わらず意味不明なことを言う人である。
リリディアは立ち上がってミハイルに挨拶した。
便利屋でアルバイト部隊を率いていた頃、ミハイルにはお世話になっていたのだ。
「お久しぶりです。ミハイルさん。いえ、社長!」
「お久しぶりです。お元気そうで何より。でも、あー、もう社長じゃないんですよ」
「社長じゃない?」
リリディアが首をかしげると、ミハイルの背後から女性が現れ、彼の隣に並んだ。
「ただいま戻りました。聖主様。そして・・・・・・、久しぶり。リリディア」
容姿端麗で、美しい白銀の髪。背中には大きなリュック。
成長しているが、すぐわかった。
彼女は、シルヴィア・グッドロー。幼なじみの1人で、10代の頃のリリディアを手伝ってくれていた。
「お前は・・・・・・、シルヴィア!?まさか、シルヴィアが社長に!?」
「うん」
シルヴィアはうなずいた。
どこか嬉しそうだ。
ジョシュアは2人を見て微笑んでいたが、すぐに何かに気づき、咳払いした。
視線が彼に集まる。
「話を戻そうか。つまり、母上もメイも、ルシファーを止めるのに力を貸してくれると?これは、襲ってくる敵をただ撃退するようないつもの仕事とは全く違う。ルシファーから1番のターゲットにされるリスクもある。それでも、やるのか?」
「「もちろん!」」
レイラとメイは即答した。
ジョシュアはため息をついた。
「・・・・・・わかった。一緒に頑張ろう」
ジョシュアの言葉に、その場にいた全員がうなずいた。
その後、本題に戻り、ジョシュア達は、まずサイラスの娘であるトゥルーデを今後どう守っていくかを話し合った。
◆
その頃、そのトゥルーデはというと、幼稚園の教室でこっそりリュックの中をのぞき、黒い腕時計が壊れていないか確認していた。
「・・・・・・うん。大丈夫そう」
そして傷一つないことを確認すると、チャックをしめた。
その直後、背後から嫌な視線を感じた。
振り向くとそこには、ドロススが立っていた。
以前と比べて痩せ細り、服も古くて若干汚れている。
「小さな貴族」として扱われ、自分もその気になって偉そうに振る舞い、トゥルーデをいじめ、クラスの足を引っ張り続けてきた彼はどこへ行ってしまったのだろう?
トゥルーデは無視して視線を戻し、リュックをカビーへしまった。
しかし、ドロススは嫌な視線を向けるのをやめず、それどころか更に近づいてきていた。
トゥルーデはドロススの方を向いた。
「何か言いたいことあるの?」
「トゥルーデェ・・・・・・、今何を見てたぁあ?」
「・・・・・・何で私があなたにそれを教えなきゃいけないの?友達でもないのに」
トゥルーデがそう言った直後、ドロススは彼女の胸ぐらをつかんだ。
「質問に答えろ!裏切り者の血のくせに!」
ドロススが差別的な暴言を吐いた直後、横からシャーロットが割って入り、彼の手をトゥルーデの胸ぐらから引きはがした。
「やめろ!!」
ドロススはよろけて転んだ。
「シャ、シャーロット?」
「いい加減にして!!何であんた達はそうやって意地悪するの!?」
「目を、目を覚ませ。そいつは嘘つきのキルス女だ。だ、だ、だまされてるぞ」
「バカな大人の言うことを信じてるあんたの方でしょ、だまされてるのは!マジで情けない奴!!」
シャーロットはドロススを睨みつけた。
ドロススはショックを受け、うつむいた。
シャーロットはため息をつくと、トゥルーデの方を向いた。
「トゥルーデ、こんな奴放っておいてさっさと昼食に行こう?」
「う、うん」
トゥルーデはシャーロットと一緒に必要なものを持つと、ドロススを置いてカフェテリアへ向かった。
カフェテリアに着くと、早速シャーロットが席を取ってくれた。
窓際のテーブルの席だ。
「アタシはお弁当持ってきてるから、トゥルーデは好きなもの選んできてね」
「行ってきます!」
「はーい。行ってらっしゃい」
シャーロットは笑顔で手を振ってくれた。
トゥルーデはトレイを取ると、カウンターに並ぶ料理を選んで注文した。
ヨハンは滅多にお小遣いをくれないが、トゥルーデを引き取ることになった当初、シャーロットの父ブライアンから強い圧力をかけられたため、トゥルーデは昼食を買うお金だけは渡されている。
ピザ、チキン、サラダ、フルーツ等の美味しそうなものをトレイに載せてもらうと、代金を払ってテーブルに戻った。
「ただいま!」
「おかえりー」
シャーロットは弁当箱から出したサンドウィッチを片手に、笑顔で言った。
その直後、近くのテーブルが騒がしくなった。
トゥルーデはトレイを置いて、騒がしいテーブルの方を向くと、そこには持ってきたリンゴ1個を取り上げられて焦るドロススと、リンゴを取り上げて笑みを浮かべる複数人の園児達がいた。
「か、か、返せっ!!」
ドロススはかすれた声で叫ぶ。
しかし、その「命令」を聞く者はおらず、いじめっ子達はどっと爆笑した。
「これはこれは、ドロスス様〜。あなた様にしてはずいぶんソマツなランチですね!」
「アハハハ!!ざまあないな!!今まで偉そうにしてた天罰だ!」
「悔しかったら、取り返してみろよ。バカドロスス!!」
いじめっ子達は、以前はドロススの取り巻きだったが、八つ当たりされることが多く、その恨みがこのタイミングで一気に爆発したのだ。
これまで親の力に頼って散々酷いことをしてきたドロススを助ける者はいない。
キルス教徒はもちろん、異教徒も、多数派のドゥールー教徒も無視している。
トゥルーデは複雑な気持ちでその光景を見つめていた。
(私がヨハンに痛めつけられてる間に、ドロススの家はボツラクして、一気にビンボーになっちゃった。ドロススの父親が入院してる間に調べられて、会社のお金をこっそり盗んでたことがバレちゃったんだよね。今、ドロススの父親は幹部じゃなくなって、ただの雑用係。ドロススを守ってくれる人は、もういない)
ドロススはトゥルーデをいじめてきた「クズ」。
同情する義理はないはず・・・・・・なのに、今のドロススを見ていると、胸が苦しくなる。
(今のドロススは、私と同じだ)
トゥルーデは決意を固めると、そのテーブルへ向かった。
シャーロットは驚きの声を上げた。
「トゥルーデ!?」
「ごめん。ちょっとやることがあるから、先に食べてて」
トゥルーデはそう言うと、いじめっ子達の近くまで来た。
「やめなよ」
トゥルーデがそう言うと、いじめっ子達は笑うのをやめて振り向いた。
正直怖いが、やめさせなくてはならない。
ヨハンナとボブが白スーツ男(ドロススの父親)を倒した影響が、ここで出てくる展開となりました。
さて、トゥルーデはドロススをどう助けるのでしょうか?




