24話 それは彼の知らぬ所で動き出している、恋模様。
「それでは前回と同じ、リーゼとデパスね、処方しておきますからね」
「ありがとうございます、先生。このお薬効いてくれてるみたいで……時々しか起こらなくなったんですよ」
「そうですか。パニック障害は本人にしか理解できない苦しみですからね。治らない病気ではないので。気長にやっていきましょう。少しづつでも良くなっていればいいんです」
「はい、ありがとうございます。」
最後の患者が診療室を出て行き、南沢はさっきからせわしく鳴っている携帯電話を見た。
《:ナナセ:たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて》
同じ内容のラインが10件も入っている。
それをスクロールしながら、
「はぁ……」
大きな溜息をついた。
***
「ほら、頼まれたやつ持ってきたぞ」
「青葉……アオバァァァ!!!」
南沢はわざわざ七瀬の部屋から持ってきた青葉を七瀬に差し出した。
「会いたかったよ、青葉」
「なっちゃん、大丈夫ですか?怪我をして病院にいるのですよね?アオバ心配です」
「大丈夫だよ。あと2週間で帰れるからね。はあぁぁぁ、会いたかった」
ガラスケースごと、七瀬は抱きしめる。久しく安心感が全身を包んだ。
南沢はその光景を見て、ドン引きしていた。
「ん"っん、おい、ラインなんだけど、お前からのホラーラインの件なんだが」
南沢が咳払いをしてからそう言うと、ぎくりとしたように七瀬は肩を竦めた。
「そ、それなんだが……」
「なんだ。帰りたいってだけじゃないのか」
「……き……」
「き?」
「……キス……、した」
南沢は目を丸くする。
「ハッ!?だれと!??」
そして身を乗り出してそう言った。
「……まどかちゃん……」
小さな声でそう言った言葉に、南沢は驚いた。
「おいおいおい!まじか!?なんで!??」
七瀬は事情を説明した――。
「そうか……。なるほど。しかし、いくらなんでも気のない男にそんなことはできんな」
「そ……そうなのか?」
「ああ。キス、だぞ。唇と唇を重ねるんだぞ。しかも、お前だぞ。そんなこと、気でもないかぎりできるか!俺の見立てでは、まどかちゃんは特にそういうことは簡単に出来ないタイプだ」
「特に!?」
「あぁ。おバカキャラに見せかけているが、いや、本当におバカかもしれんが彼女は本当に真面目な子だ。人一倍気を遣ってた様子だったからな。……しかし……お前、死ぬなよ」
「本当だよな。明日俺の頭の上に隕石でも落ちてくるかもしれん」
「すでに車がぶつかったじゃねーか。冗談だ七瀬。確率というのは常にどう動くかわからないんだ。宝くじである日億万長者になる人間もいるんだからな。突然沢山の美女に言い寄られても、なんら不思議はない。はずだ」
そう言って、南沢も頭をもたげた。
奇跡だ。それを奇跡と言う。と、思ったのだ。
その時、
「あ、南沢さんだっけ?こんにちは」
夜風が部屋に入ってきた。
「お、ナース服姿も可愛いね」
南沢はまたスケベな目を光らせてそう言った。
△△△
《:イブキ:詩穂埜さん、聞きました?愛葉さん、子供を庇って車に轢かれて入院中なんですって……しかも、その庇った子がまどかちゃんのクラスの子みたいで……病室でね、まどかちゃん、愛葉さんにキス、してたらしいんですよ。これは、めぐり巡って若狭くんから聞いたんですけど……》
伊吹がそういう内容のラインを詩穂埜に送ると、三時間後に返事は来た。
《:シホノ:そう。じゃあ私は、動けない彼を、襲っちゃおっかしら》
《:イブキ:(笑) またまた、詩穂埜さん、おもしろいですね》




