20話 届かぬ想い
「お待たせしました。それじゃあ、行きましょ」
伊吹が仕事を終え、七瀬と孔雅の元にやってきた。三人は店を出て、歩いて三分の場所にある喫茶夢庵街にやってきた。そう、近場だったのである。
「愛葉さん……。連絡がないし、この前逃げたと聞いて……私達、てっきり嫌われたものだと思ってたんですよ」
レモンティーに砂糖を入れ掻き混ぜながら、伊吹がそう言った。
「嫌ってる、か。確かに、ついこの前まではそうだったかもしれないな。正確に言うと嫌ってたのは、自分自身を、だ。女子が苦手な自分を嫌って、君たちを嫌がった。まぁ、訳がわからないかもしれないが……そんなとこだ。心配してくれてたのに、連絡もしないで、すまん」
「そうですか……」伊吹はそうとだけ言い、ティーカップに口をつけた。
それにしてもこんなにおしとやかな子がにゃんにゃん言っていたさっきの光景は、まるで夢でも見ていたようだ。
と思っていると、孔雅が意を決したように口を開いた。
「雪平さん、俺の事、きっと、凄く嫌なイメージしかないだろうけど……それに俺は33歳で君から見たらオジサンだし、けど……俺、初めてこんな気持ちになりました。どうか俺と……付き合って下さい!」
―――なぬっ!??
七瀬はあまりに突拍子もない発言に、思わずコーヒーを噴出しそうになってしまった。
おいおいおい、こいつ大丈夫か!? いきなり告白なんて。
多分雪平伊吹のイメージは、僕を殴った野蛮な男ってだけだぞ、と、七瀬は嫌な汗をかきながら思った。
「あ……の……斎条さん、でしたっけ?」
伊吹はそう言って、孔雅の瞳をしっかり見つめて、言った。
「あなたのような猫、いないんですよね。私の好きな猫の中に―。だから、ちょっと考えられません。ごめんなさい」
―――猫!!???
七瀬と孔雅は同じように、?(はてな)が頭の中に並んだ。
似てる猫がいないから? どーゆーことだ。
「私、だからどちらかというと、愛葉さんと、にゃんにゃんしたいです」
伊吹のその一言に、二人は一気に魂が抜けた。
***
「あ……っ……はん……いっ…いいっっ……!」
「優花さん、いくよ、いく、い……っ……かけるよ、胸に、そのおっきい胸に、かけ………っいい、いく……っっ!」
「あ、あああんっっ、いっぱいかけてぇっ、気持ちいいよぉ、颯太くぅん……」
――人妻優花との情事を終え、颯太は酷く落ち込んだ。
――またやってしまった――。
ベットに腰を掛けたまま、頭を抱え込む。
「良かったわ、颯太くん。キミがいなきゃ、私、どうなってたかしらね」
優花は背後から颯太に抱きつき、頬から首、耳にキスをした。
颯太はそっと、その顔を手で払う。
「すみません、優花さん……。今日は、もう帰ってもらえませんか」
颯太がそう言うと、優花はすぐに何かを悟ったようにバスローブを脱ぎ、服に着替え始める。
「颯太くん、私、あなたに会えなくなっちゃうのは凄く寂しいわ。この体、もてあましちゃうもの。でも、若いんだから、たくさん恋しなさい。どこへ行くのも、帰ってくるのも、自由よ」
そしてそう言って、部屋を出て行った。
颯太はベットを一回殴ると、また頭を抱え込む。
「星宮さん……どうすれば……あなたを振り向かせられるんだろう……」
そして、そう呟いた。
***
「お前とにゃんにゃんしたい雪平伊吹と、コスプレ東雲詩穂埜、か。こうなってくると、もう地球の滅亡が近いのではないかと疑ってしまうな」
南沢はコーラの入ったコップに口をつけながら、そう言った。
七瀬のコンビニのバイトが終わった午前六時、南沢の夜勤明けと重なり、二人は南沢のマンションにいた。
当然の如く一睡もしていない七瀬は朦朧としていたのだが、それでも眠れない様子だ。南沢は睡眠薬でもやろうかと思ったがとりあえず、話を聞いてやる事にした――。




