19話 にゃんにゃんイヴにゃん
「ところで……」
七瀬は目だけを動かし、店内を見渡した。
「ここは本当に、雪平伊吹の務めているという猫カフェなのか?」
「……あぁ、間違いない。聞いていた場所だ。と、思う」
猫は居る、確かに。白黒の猫、三毛猫、トラ猫、ざっと見ただけで六匹の猫が、のそのそ歩いていたり座ってあくびをしたりしている。
しかし、
「いらっしゃいだにゃん! メニューはなんにするにゃ?」
問題なのは、その従業員のコスチュームだった。
猫耳カチューシャ、猫の手袋、トラ柄やぶち柄の短いキャミソールにミニスカート、そして全員へそを出している。喋る時はわざわざ語尾に「にゃん」をつけ、招き猫のように顔の横で手を曲げる。
七瀬の想像していた猫カフェとはえらい違いだった。
『萌』は確かに、七瀬の愛する分野だ。しかし、それは現実世界のものではない。酷く居心地の悪い環境に尻が浮く。今すぐ帰りたい。一万円なんかに釣られるんじゃなかった。
「あ……七瀬くん、いた、彼女……」
孔雅が小声でそう言った。
七瀬がそちらを振り向くと、ちょうど伊吹と目が合って、彼女の口元が「あ」という動きをした。
そして、こちらに近づいてくる。
「七瀬さん、お久しぶりですね。心配していたんですよ。お元気でしたか?……あの、もしかして隣の方は……」
「ああ、僕を殴った奴だよ。でも、あれからなんでか仲良くなったというか」
「そうなんですか。それは、なによりですね」
チラッと伊吹を見たが、それ以上目を向けられなかった。
『猫』になった彼女が、あまりにも可愛すぎたからだ。孔雅もその姿に、完全にノックアウトされたようだった。膝の上で握った拳がわずかに震えている。
二人とも、下を向いて固まった。
「あの……あと一時間であがるので、待っていてもらえますか?それと、一応、今は仕事なので……にゃんにゃん遣いさせていただきますね、言葉。私、このお店では『イヴ』って名前なんですよ。だから、イヴにゃん、って、呼んで下さい」
「イヴ……」
「はい。あ、もう注文したんですよね?またなんかご注文がありましたら、にゃんでもでも言ってくださいにゃん」
そう言って、伊吹は頬に手をあてた。
そして去っていく。お尻についた尻尾が揺れた。
「本当に……今の、伊吹ちゃんだよな……」
「ああ……だめだ、愛葉くん、俺はもう死にそうだ」
すると暫くして、『にゃんともうまうまラブちゃんジュース』を二つ伊吹が持ってきてテーブルの上に置くと、その時足元に居た歩くのも辛そうな大きな
三毛猫を抱っこして、
「ほら、この猫ちゃん、雪見大福みたいでにゃんともかぁわいいでしょ~?福太って言うにゃんよ~。このお店の中で、私が一番好きな猫ちゃんにゃんです。ほら、よくよく見て下さい。誰かに似てると思わにゃい?」
そう言って、伊吹はその猫を二人の前にずい、と突き出して見せた。
暫く、福太と見つめ合う。
「………」
「………」
「………愛葉くんだ………」
「ぴんぽーん、当たりだにゃあっ!」
孔雅がボソリと言った言葉に、伊吹は嬉しそうに、福太の手を掴んで万歳をさせている。
おいおいおい、まさか、それであの時僕に興味を持ったのか!?
――七瀬は脱力した。




