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デレ婚!!~男女8人婚活ストーリー~  作者: 猫本猫美
婚活・恋愛攻略編
17/35

16話 ヒロイン、『日下部美琴』。


 「それで……あんたは愛葉ちゃんに頼んで、向こうで見てたってわけか」

 「はい……すみません……」

 「若狭っち、男らしくないよ?男なら、威風堂々とだな、胸を張って謝りに来るべき、だよ!」

 「いえ、まどかちゃん、それを言うなら正々堂々、ですよ」


 喫茶夢庵街で若狭は、結局合流した三人を含めた女子四人に囲まれていた。四人とも愛葉が逃げ出したのは知っていたのだが、仕事休みが揃うのは珍しいのだから、ランチでもしようという事になったのだ。

 若狭に対してまだ内心恐怖を抱いている夜風には好都合だったが、若狭にとっては思ってもない拷問の時間になってしまった。いつの間にか、全員『事情』を知っている。女の情報網とは恐ろしいものだ。


 「けど若狭さん、凄く反省しているようですし、この話はもう……」


 と、伊吹が言う。


 「しかし愛葉ちゃんもお人好しだなまだ知り合ってちょっとの男の頼み、しかもこんなくだらない頼みを引き受けるなんて。変わりに謝るなんて、私なら絶対にしない」


 と、夜風がいって、若狭の胸にぐさりと刺さった。


 「本当ですよね……良い人です、愛葉さんは……」


 若狭がそう言って、また少し泣きそうになっていた。

 その時、


 「あの、若狭さん」


 と、詩穂埜が言った。


 「……はい? なんでしょうか……」


 「ちょっと、お願い事があるんですけど……」



***



 居酒屋のバイトの時間がやってくる。

 七瀬は躓(つまづ)きながらジーンズを履き、白いTシャツの上に青いチェックのシャツを着てから洗面所に向かった。

 鏡に映る自分の事は、もうずっと見ていなかった。が、その時久しぶりに、鏡の中の自分を凝視した。


 「ブサイクだな」


 七瀬は、改めて思った事を口に出し、水をジャージャー出してバシャバシャとその顔を洗った。さっきの南沢の気持ちは痛いほど伝わり胸に突き刺さったが、結局玄関先には出ずに南沢は帰っていった。

 顔を上げると、鏡の中には、今度は水浸しの顔が映る。

 その自分の顔を睨みつけて、七瀬は言った。


 「やってやるぞ、南沢、覚えとけ、しかとこの勇姿を見届けるがよい!」




***




 「いらっしゃいませー!!」


 いつもに増して声を張り上げた七瀬の声が、居酒屋『恵比寿』の店内に響き渡った。


 「おい、愛葉ちゃん、どーしたの張り切ってんじゃん」


またもや麗華が、メガネをかけたサラリーマン風のオジサンと同伴で来店した。


 「麗華さん、ちょっと、お話が……」


 トイレに立った隙を見て、七瀬は麗華に話しかけた。初めて深刻な顔で自分を呼んだ七瀬に対し、麗華はなんだか酷くワクワクした。"事件"の匂いがしたからだ。彼女はワイドショーが大好きなのだ。

 興味津々に七瀬の呼ぶ方へ高いヒールをパタパタさせて行く。金パツの盛り髪が暖簾(のれん)にひっかかったが、無理矢理外して話を急ぐ。

 

 「なになになに?」

 「あのさ……ダイエット……のこと、なんだけど」

 「えーっ!愛葉ちゃん、ついに痩せようと!?もしかして、恋したの?誰?ダレダレダレどういう子?どこで出会った…」

 「いややっぱいい」

 「ちょっ、待った!わかった、詮索はしない。ダイエットは、とにかく根性根性ど根性だよ!まず、夜七時以降は絶対食べない暫くはお菓子炭水化物禁止。そしてとにかく歩くか走る。スポーツしながらだと、体が引き締まった状態で綺麗に痩せられるよ!やだぁ。ちょっとワクワクしてきちゃったぁ。よし、私がダイエットに良い食べ物をリスト化して持ってきてあげる!まじちょーおもしれーんだけどー応援するー。でも、無理はするなよ、愛葉ちゃん」

 「ありがとう……助かるよ。今日から揚げ奢るから持ってくよ、食べて」


 「サンキュ!」と言うと、彼女は席に戻っていった。

 彼女の明るさはどこか作っているようにも感じられるが、そこがまた彼女の魅力でもあるのだろう。あの明るさに惹き付けられる客は多いのだと思う。

 背が高く細くてモデルのようなスタイルは、店内でも目立っていた。まぁ、あのケバイ服装のせいもあるかもしれないが。


 

***



 仕事が終わり外に出ると、雨が降っていた。

 午前三時、十一月の今の寒さは肌身に染みる。


 「くそ、傘忘れたな」


 七瀬はジャンパーのフードを被るとリュックを肩に掛け直し、小走りで帰り道を急いだ。金がもったいないのでタクシーは使わない。アパートまでは徒歩二十分だ。びしょ濡れになるだろう事を覚悟した。


 途中、街頭が立ち並ぶ通りがある。

 恋人達に人気の、秋には銀杏並木が美しい道。


 下を向いて歩いていた七瀬は、急に立ち止まった。

 紺色に白いリボンのついた靴が目先に見えたからだ。

 誰かが、自分の行く先に立ち止まっている。

 その薄気味悪さに、七瀬は思わず顔を上げた。



 「こんばんは、愛葉さん」



 そこには、



 「……詩……穂埜……さん……?」



 東雲詩穂埜が、立っていたのだ。


 しかし、その様子はいつもと違った。

 七瀬がその違和感に気がついたのは、そう遅くはなかった。



 「……美琴……ちゃん……?」



 七瀬がそう言うと、赤い傘を被った彼女は雨に打たれながら、微笑んだ。

 それはそれは"天使"のように、美しい笑顔で。


 その"天使"の服装は、七瀬が長年に渡り愛してきた「「第一の嫁」」、

 恋愛ゲームのヒロイン、「「日下部美琴」」のコスチュームと全く、一緒だったのだ。


 そう、彼女は完全にコピーしている。

 日下部美琴の着ていた、桃色のカーディガンに、胸元に赤いリボンのついた白いフリルのシャツも、その短い蒼いプリーツスカートも、白いハイソックスも、紺色の靴も、全て、完璧に――。

 七瀬がすぐに気づいたのにはもう一つ重要なアイテムがある。

 ゲーム中で美琴がとても喜ぶ『プレゼント』の一つ、クリスタルの『ドルフィンネックレス』をぶら下げていたからだ。


 そのクレイジーな光景に、七瀬はしばし、言葉を失っていた。








 








 


 

 



 


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