10話 フリータイム③???、斎条孔雅。
「あ、何してるの愛葉ちゃん!もうっ時間過ぎちゃうよ~?」
「なんだよ。正気か?僕の事なんてどうでもいいだろ」
「よくなーーいっ!みんな愛葉ちゃんのところに来てるんだよー?」
まどかが頬をぷうと膨らませそう言ったので、南沢は苦笑いをしながら彼女に尋ねた。
「こ、こいつの何が、どこがいーの?」
「う~ん、そう言われれば、なんだろう?」
わかんねーのかよ、と七瀬は心の中で突っ込んだ。
すると、「はい」と言って、雪平伊吹が右手を挙げ、皆そちらを見る。
「私は愛葉さんとゆっくりお話しがしてみたいです……皆さんは、どうでしょうか」
するとなんと、その場が炎上するような事を言い放ったではないか。
「私も同じ」
「あったしもー!」
「私もです」
驚く事に続いて3人も手を挙げた。
「ちょっと待て、お前ら本当~に、本気で言ってるのか?」
七瀬が確認すると、皆コクリと頷く。
七瀬は大きな溜息をついた。
「仕方がないな……じゃあ僕一人は嫌だから、この南沢と若狭くんも一緒に居ていいだろうか」
「もちろんだよ!」
まどかがそう言うと、みんな微笑んで頷いた。
そのヴィーナスの微笑みを見た他の男たちは酷く残念そうに、ぞろぞろと去っていった。残ったのは、七瀬率いる三人の男だけ。
南沢はまだ信じていなかった。
全員本当は自分にこそ気があるのだと疑わない。
若狭は胸の鼓動を熱く鳴らしながら、星宮夜風に見とれている。
「そういえばさ、みんな普段どんな仕事してるの?ゆっくり話せなかったよね、3分じゃね」
南沢が先に口を開いた。
「私は、猫カフェです」
「私は、看護士だ」
「え?星宮さん看護士さんだったの?」
「何か悪いのか」
「いや、意外だったっていうか。白衣の天使っぽくないよね」
七瀬がそう言って驚いて見せた。「どっちかと言うと黒い小悪魔」
「まぁ、気を強く持たないとやってられない仕事だからな。それこそ悪魔に化す時もある」
「うん、確かにね」颯太が相槌を打つ。看護士と聞いて彼は嬉しそうだ。ニヤける顔を隠せないでいる。
「あたしはねぇ、保母さんだよん!」
まどかがそう言うと、伊吹が言った。
「確かに、子供に大人気だろうなって感じがする」
「でしょ?子供、可愛いよねぇ天使だよねぇキラキラしてて」
「そうですよね、子供って純粋でキラキラしてて心が洗われる気がしちゃう」
「うんうんするよー洗われるよー。元気いっぱい貰えるんだ!」
すると、颯太が言った。
「桜庭さん見てると、元気そのものって感じがします」
皆、うんうんと頷く。
「で、東雲さんは?」
今度は南沢が東雲詩穂埜にそう聞くと、暫く黙り込んでから、
「私は普通のOLよ」
と言った。
「OLかぁ。いーね」
南沢の奴、絶対スケベな想像したな、と七瀬は思った。
その時、
「おい、おまえらぁ!!」
背の高いボクサー体形のワイルドな美男子が、どうやら酒に酔っているようだ。絡んできて、その瞬間七瀬は勘弁してくれと心底うんざりした。
「いい女四人も囲っていきがってんじゃねーよバカヤロウ」
その男はろれつが回っておらず、あちこちにぶつかりながら歩いているからなかなか先に進まない。
女の子四人も恐そうに肩をすくめ、固まって彼を見ている。
「おい!!聞いてんのかそこのブサイク、デブ、眼鏡!!おい!!」
実は居酒屋でバイトしているだけあって、こういう事は初めてではない。こういう意味のない理不尽な理由で絡まれるという事がたまにあるのだ。
180センチは軽くあるであろう高身長のその男はスーツの上着を脱いでいて、ネクタイはよれよれ、薄水色のシャツがはだけ、そこから浅黒い筋肉質な胸が覗いている。スポーツでもしているのだろうかそれともジムで鍛えているのだろうか、と七瀬は思ったが、七瀬は鼻で笑っていた。
こんな場所で酒に飲まれるなんて、なんてみっともないんだ、と。
そしてついつい、心の声が出てしまったのだ。
「ダサ……」
「な、なんだってコノヤロ~!!この斎条孔雅様に向かって~っ」
完全にカチンときたであろうその槍のような一言はしっかりその男の胸に刺さり、千鳥足だったはずの彼の足はシャキっとなり怒り狂ったその男の鉄拳はまるで光速のように素早く七瀬の頬にクリティカルヒットしたのである。




