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その3

来たるべき世界(への旅人たち)


(『改☆真夏の夜の夢』のプロローグであったり、エピローグであったりするいくつかの短編)


作 あんたのわたし



その3



綾は、スマホを朝からイジっていた。お昼ゴハンになり、母親が綾を呼んでも、綾は部屋から出てこようとはしない。


「もう直(じき)だから待ってて!」


綾の母親は、呆(あき)れた。綾は、何かに夢中になると、そのことに熱中してしまい、寝ることも、ご飯を食べることも忘れてしまうくらいだった。綾の母親は、綾のことにいつも呆れてしまう。


「誰に向かってあんな具合に怒鳴りつけているのかしら」


     *      *


綾は、スマホに向かって怒鳴りつけている。


ところで、綾が怒鳴りつけているスマホはどうもあの占い師のものらしい。


綾は、どうやってあの占い師のスマホを持っているのか? これを説明するためには、少し手間がかかるが、そのために、読者の皆様には少しの辛抱をお願いしたい。


ということで、綾とあの占い師のスマホの状況について、まず、最初に語るべきことは、あの占い師の死についてである。あの占い師は、異世界行きの特別列車の自由席の切符を手に入れてから、貸付限度枠をついに使い切ってしまい、それ以来飲まず、食わずの生活を続けていたのだが、数日前、ホームレス、あるいは行き倒れという状態で発見された。動かなくなってしまったホームレスの占い師は、大きな通りの歩道で発見され病院に運ばれ、その死亡が確認された。


綾は、占い師が死んだということは知らなかった。占い師は、葬式も最低限で、行き倒れの人間として、警察に預けられることになった。というのも、占い師は、屋敷も財産も処分して、ホームレスとして暮らしていたのだった。天涯孤独の人で、気難しい人間だったので、近所からはずっとよく思われていなかった。占い師は、近所にも、友達の中にも、占い師のことを、心配したり、気にかけたりしてくれる人はいなかった。


綾が、占い師の死について知ったのは、よく行くコンビニの前を通りかかったときだった。


通りかかる綾を発見したコンビニの店主は、綾をめがけてコンビニから飛び出してきた。


「あんた、あんた! あのホームレスおやじの知り合いだったよね」


「。。。」



「隠したって、無駄だよ! わたしは、しっかりおぼえているんだから! あのホームレスおやじが、腹をすかして店に入ってきて、店のパンを両手に握れるだけ握って、俺達のスキをうかがうと、突然、店から飛び出して、店の前の通りを駆け出して行きやがった。だから、スタッフといっしょにホームレスおやじを追いかけて、ホームレスおやじを歩道で組み伏せてやったんだ。それでも、ホームレスおやじは、握ったパンを手から離そうとはしない。通りは、ちょっとした騒動になった。そんな時に、ホームレスおやじは、通りの人通りの中、もがきながらも、自分の味方となってくれそうな人を偶然見つけてしまった。ホームレスおやじは、手にパンを握りしめ、助けを求め、歩いてくるあんたに向かって精一杯手を伸ばしたんだ。その時でもホームレスおやじは、手からパンを離そうとはしなかった」


綾は、もちろん、あの時のことは、忘れてはいなかった。まさかあの人が、あんな騒動を起こしてしまうなんて! 本当に驚きの出来事だったからだ。


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