劇が終わり小休止
「本当に助かった。ありがとう」
ハルがクラリスとブリジットに、心の底からの感謝を口にする。
日を置いて数度行われた劇は、メインターゲットだった子供連れの親から噂として広がり、かなりの成功を収めることが出来た。
「魔法使いに対しては少ない額だけど、受け取ってほしい……」
「ありがとうございますハルさん」
「わーい!」
その結果、魔法使いに対する金額としては少額だが、それでも纏まった金を二人に渡すことも出来た。
当初は断ろうとしたクラリスとブリジットだが、この件でハルが妥協することは無いだろうと考え素直に受ける。
「最後の敵もそうだけど、弱い敵を出してくれて本当に助かった。最初からデカイ敵に苦戦してたらやっぱり爽快感がなあ……」
「お役に立ててなによりです」
「ズババっとやるにはやっぱり雑魚敵っすよね!」
しみじみとした口調でハルが呟く。
かつての西方一座は様々な旅芸人の集まりであり、劇を専門にしている人間には限りがあった。
そのため巨大な敵を長引かせたり、少ない人数でなんとか勇者が敵をなぎ倒す演出をしていたが、色々と無理が出てくる場面があった。
それにジョージが力をつけ始めると庶民向けの部門は世代交代が訪れず、そこから更に人員が減って思うような劇をすることが出来なくなっていた。
しかし今回はクラリスとブリジットの魔法のお陰で、序盤にバッタバタとなぎ倒せる雑魚軍団を用意できて、話に緩急をつけることが可能になった。
「それにしても昔を思い出すわねブリジット」
「本当っすよね! 自分らもキャーキャー言ってたの思い出したっす!」
そんな二人は、幼少期を思い出してニコニコしていた。
娯楽と縁のなかった彼女たちの世界を広げたのは西方一座。もっと言えばハルの劇だ。
それを再び見ることが出来た彼女たちのテンションは最高潮に達しており、劇に参加したことが嬉しくて堪らないのだ。
「そう言ってくれて嬉しいよ」
しみじみとした口調でハルが呟く。
きちんとした需要があるのは分かっていたものの、業界全体の方針とハルの分野に大きな乖離がある。
そのため危ういバランスの位置にいると考えていたが、明確に劇が良かったと言ってくれると、救われる思いを感じた。
「そろそろキャンディも手が空くので、もう少し大掛かりなことができると思います」
「本当に大丈夫なのか? ほら、三人が劇の手伝いとか、上司の司祭に怒られたりとかしてないか?」
「大丈夫っす! 修行と仕事漬けだったんで、自由時間を貰う権利くらいはあるっすよ!」
「ならいいんだが、その自由時間を劇だけに使わせるのもなあ」
「なーに言ってんすか。無茶苦茶楽しんでるのを分かってるでしょ?」
「そうですよ」
「うーむ」
クラリスが微笑むとハルが困った顔になる。
紋様持ちが追加で一人。合計三人も劇の手伝いをするのは異例中も異例で、どんな一座だって起こり得ないだろう。
それが昔の関わりで奇妙なことになり、魔法が行使される最先端の劇になっていた。
「あ、そうだ! 業務連絡があるっす! 勇者様のお面が欲しいっていう子供が多かったっすよ!」
「お面か……そういや昔はあったな」
「そうなのですか?」
「自分達の時には無かったっすよね⁉ 詳しく聞きたいっす!」
「どわっ⁉ お、お前ら、妙に押しが強いよな……」
ブリジットの報告にハルが顎を擦ると、二人の女がぐいっと距離を詰めた。
「薄くてのっぺりしたお面を白と黒で塗ったら完成だろ? 座長が別に嵩張るものでもないから、暇なときに作って売っちまえ……みたいな感じで……え? まさか欲しいの?」
「はいっ!」
「て、手元に無いから作るよ。いや、ちょっと待て。ひょっとして……他の全員も欲しいとか言いそう?」
「言います!」
「お、おう。分かった」
事情を説明し始めたハルは、ブリジットとクラリスの目に宿った尋常ならざる気迫を感じ取り、まさかねと思いながら尋ねた。
ところがそのまさか。ハル自身が想像もしていない程に、脳をこんがり焼かれている女達の食いつきはすさまじく、ここにはいない残り五人の分も作ることになった。
余談だが今現在、お面が存在しない理由はジョージが実権を握ってからは作る機会が無かったためで、なんなら幾つかの在庫は彼の指示で処分されていた。
もしこれをクラリスたちが知れば、ジョージに青筋を見せてくれるだろう。
(冥利に尽きる……とは素直に言えないな。やっぱり厳しかったんだろうな……)
この食いつきをハルは自分の尺度で解釈した。
即ち禁欲的で世俗とは縁遠い教会にいたから、自分の劇を大切にしてくれていたのだろうという考えだ。
確かにそういった面があるのも確かだが、自覚がないハルにはクラリスたちが自分を本当の勇者と認識しているなど思えない。
(なら俺は全力でやるだけだ)
そんな思い違いはいいだろう。
真実など誰のも分からないのだから、ハルは昔の思い出を大事にしてくれているファンを蔑ろにしないため、気合を入れてお面の制作に取り掛かろうとした。




