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女達

 普通の市民は娯楽に飢えていた。

 そういった面を担っていた旅芸人を筆頭にした者達が上流階級向けにシフトし、庶民向けはダサいという風潮が蔓延している昨今、彼らは完全に置いてけぼりになっているのだ。


「教会で劇が行なわれまーす!」

「砂漠の地下で眠る巨悪と、光と闇の勇者が対峙しますー」


 そんな時に、お貴族様とは無縁の教会で、どう考えても庶民向けの英雄譚が劇として行われると聞き、彼ら、特に子供がいる家庭は飛びついた。

 それに宣伝をしているのが、見目麗しい女なのためなおのこと話題になり、若い男も巻き込んでの騒ぎになった。


「やっぱ英雄譚は需要あるんすよ。昨今の風潮が間違ってるっす」

「そうねえ。趣味嗜好は様々なのだから、それぞれに合ったものが必要なのに」


 感触の良さでブリジットが力説すると、穏やかな笑みを浮かべたクラリスが同意する。

 一つのジャンルだけが覇権を握り、それ以外を排除するのはなんとも悲しいく、寂しいことだ。

 しかし今の状況は、彼女たちが英雄譚を好んでいると言おうとしても、周囲の人間が慌てて止めるほどに支配的なのだ。


「それにしてもハルさんは、やっぱり巨悪と戦っていたのね」

「枯渇砂漠の遺跡っすもんねー。絶対ヤバイ奴っすよ!」

「ええ。古代の悪神が眠っていると噂されているところですもの」

「ちょちょいのちょいとやっつけたんすよきっと!」


 一通りの仕事を終えて住居に戻ったクラリスとブリジットが、重大な案件について語り合う。

 ハルが口にした枯渇砂漠はかなり曰く付きの場所で、古代の化け物が眠っているという噂が絶えない場所だ。

 そんなところで出てきた邪悪なナニカが並みの存在の筈はなく、きっと凄まじい激闘が繰り広げられたのだろう……という考えだった。


「うぃーっす。楽しんで来たみたいだねー」


 突然、非常に明るい声が割り込んできた。

 少々長い青の髪をポニーテールにして纏め、これまた青いサファイアの如き瞳は、悪戯気に細められている。

 身長はクラリスより若干低く、ブリジットよりは高い。司祭服の隙間から出ている顔と手足の肌は健康的な褐色。細くしなやかで体全体がスレンダーな体型。

 雰囲気は下町ならどこにでもいそうな、人を揶揄って笑みを浮かべる年頃の女。と言ったところか。


「キャンディ。神殿の方はどうだったかしら」

「それがさぁ、貴方方のために劇を行ないますって言われたんだけど、あーしらのこと、なんの金にもならないクソガキ呼ばわりしてたんですけどー。的な?」

「おおーっと。よく覚えてるっすねー」

「そりゃあブリジットは昨日のことも怪しいけど、あーしはしっかり覚えてるしー」


 その女、キャンディが肩を竦めながらクラリスとブリジットに応じる。

 非常に気心が知れた仲で声音にはなんの遠慮もなく、風のような自然体だ。


「そんでー、ハル兄の劇はどんな感じになりそう?」

「宣伝をしたら非常に感触が良かったわ」

「お、いいじゃんいいじゃん。ドカーンバカーンチュドーン! みたいにするの?」

「周囲の迷惑にならない程度にね」

「ほほー。クラリスならそのへんの調整は完璧だよねー」


 キャンディの口からもハルの名が紡がれる。

 彼女もまたクラリスたちと同じ孤児院出身であるため、五年程ハルの周囲でわーわーとはしゃいでいたのだ。


「はあ……あーしも仕事全部片づけて、早くそっちに合流しよう……愚痴らせてー」

「どうしたの?」

「座長の……誰だっけ。ジョージ? は貴族への推薦。演出の魔法使いは宮廷魔法使いへの推薦みたいなのを狙ってんのが分かりやす過ぎなんだけど、あーしらにそんな権限ある訳ないじゃんー。いやまあ、横紙破りみたいなことしたら出来ないこともないけど、ハル兄ならともかくそんな義理ないしー」

「あらぁ……」

「おっとーっすね」

「そんで近くにいた賢者……だったかな。お爺ちゃんが、一座の魔法使いに向かって、その腕で宮廷魔法使いを狙う。ぷぷ。みたいなこと言うもんだから空気が固まっちゃってさー……もう、早く皆とハル兄でお茶会する」


 どうやらこのキャンディ、仕事では真面目らしく疲れた様な雰囲気を醸し出してぐったりする。

 勿論彼女たちとてジョージに言いたいことはあるが、政治に個人的な感情を持ち込むほど子供ではなく、彼に嫌がらせをすることはない。

 ただそれはそれとして、望みに応える義理はない、はっきり嫌っている相手に接しなければならないので、ストレスは溜まってしまう。


「まあ、もうすぐ溜まってた仕事が片付くから、お茶会は願望じゃないんだけどね!」

「今は呪われた品の解呪だったかしら?」

「そうそう。いやあ、あーしが解除する必要のある品が度々持ち込まれるとか、やっぱり世界は怖いねー。三百年くらいの呪物とかマジでやらないといけないし」

「ハル兄ちゃんは五百年くらいの奴をぽこんとやっつけたらしいっす!」

「うひょー。やっぱ流石だなー」


 賑やかで喧しい女達の会話は、余人に知られることなく繰り広げられていた。

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