Kiss the girl
セシル様曰く。
帰れないのなら役に立て、居候…らしい。
目の前にはカイトに襲い掛かった少女。
赤い眼に黒い髪の印象的な女の子。髪はウェーブでまるで御伽噺に出てくる魔女のよう。
その小さな手の先には同じくらいの歳の少年が居る。
私に言い渡された指名とは。
彼らへの常識、主に情緒についての教育らしい。
彼らは今回の事件の黒幕ともいえる人物の手駒だったらしく。
けれど幼いので殺すのはどうにも後味が悪い、そして信用の置けない手下の元には置いて置けないということで私に任すらしい。そりゃあ私は裏切るにしてもそもそも頼れるツテというものが皆無であるのでリスクは少なくすむであろうということだ。
何より、貴族などの気高いというか、位の高い方々を教育するようなレディーに任せるには彼らは手に余る。
そりゃあスラムに住んでいて、その暗殺の才を見出された彼女と、それを上手く扱えるという意味で連れ出された少年というこの2人とは一般的なチューターとはぶつかるどころかそもそも人間の種類というものが異なる者同士すぎて、理解し合えない。
位の高い人物と低い人物はお互いになんだかんだと嫌い合うものだ。
下賎な輩とはつるみたくないと主張する者達と、気位の高さゆえに気を使えない、人の心を慮れない馬鹿なお貴族様と主張する彼らでは一緒に過ごせばぶつかるに決まっている。
では、どうすればよいか。
お互いにほどよい距離をとり、理解しようとは思わないことだ。
理解しようと歩み寄ろうとするから、余計に面倒になるのだ。
近くにさえ居なければお互いに苛立たないのだから。
だからそれを知り、彼らを上手く采配できる王さえいればよいのだ。
「とはいえ、彼らに私が見えるようにするにしても一言相談してほしかったなぁ」
「どんまい」
そして私に彼らが上手く扱えると思うのか、と言いたい。
とはいえ王子に言われれば否といえようはずもないのだけれど。
彼らはお腹が減っているだろうから、ということでまずはご飯の食べ方から教育することにした。
ナイフとフォークを使って。
「こら、手で食べない。ゆっくり食べても取らないから」
犬のように食べる彼らを嗜める。とはいえ手を叩くといったことはしない。逆に私が危ないから。
「……なぁ、あんた。俺が言うことを聞くと思っているのか?」
「えぇ、あなたはわりと賢いみたいだし。自分に利があるとすれば聞くでしょう。
言ってしまえば、こちらに従わなければ命はない。
それくらいはわかっているでしょう?
こちらの害にしかならないのならば殺す方が楽だ。
お前を生かすお金もタダじゃあない。逃がすにもお前の存在が脅威だと言うことが」
後ろにはカイトが控える。
「私の真似をしなさい。知識とは時に力となる」
私はナイフを使い肉を切り、口に運んだ。
「殺せば同じだ」
「けれどそれではそういう世界でしか生きられない。楽に暮らしたいのならばそこで生きる術を身につけねばならない。たとえお前よりも劣っている者でも出自とその世界の行き方さえ親をみて身につければ楽に生きられるのだ、お前よりもずっと。人生とは不条理なものだ。神様なんていない」
「………。」
だけど彼らはスラムで生きてきた、強くなければ、ずる賢く、生き汚くなければ……生きていけない世界で。
体の小さい彼等は最初の標的だ。弱者だ。
知識を得ろと言われ、普通に生きる彼らの真似をしろといわれてもその意味を本当に理解することはできないだろう。
こちらの世界で生きて、それを当たり前だと思えるようになるまでは。
「とはいえ、そんな簡単にわかるものでもないか。ま、とりあえず真似して覚えろ。
そっちの子にも教えてあげて。お兄さんなんでしょう?
覚えたらおやつもやる。
あぁ、それと私たちを殺さないようにもいってくれると助かるね」
「……そういや、俺たちを拾ったのって何でだ」
「さぁ、私が拾ったんじゃないし。けどアンタ賢いのね」
「じゃなきゃ生きていけない。マリアは馬鹿なんだから、俺が考えなきゃ」
「ふぅん、マリアっていうのか、その子。正直話すら出来なかったら私はお手上げだったから助かるけどね。んで、あんたは?」
「………シン」
「ふぅん。」
「あんたは?」
「メイ」
「マリア、メイは殺さなくていい」
「………うん」
殺さなくてもいい、か。まぁ最低限のラインは越えた。
あとは少しずつ教えていこうか。楽に生きられる方法。




