夏だ! 式服だ! 怪談だぁ!
ところ変わりまして今度はカイトSide
カチャリカチャリと糸切りバサミの音、シュルリとメジャーが、かさりとした衣擦れの音、部屋の中のところどころでそれらが起きて空気に溶けて混ざり合う。
その音を立てている原因の一端であるカイト=ルー=シュピッツはというと、
「腕を挙げてください、はい。ありがとうございます。何か不具合感じられることはありますか?
腕がつれたりや、どこか窮屈だったりゆる過ぎてしまったりですとか」
「いや、ない。大丈夫だ。それに他ならぬあなたの見立てだしな…」
「はい、大丈夫そうですね。まぁ男性ですし体型がものすごく変わられることもないでしょう。このまま製作に入りますね。あ、動かないでくださいね。――マチ針刺さっちゃいますよ?」
とさっくり王宮馴染みのお抱えの服飾屋は淡々と世辞を受け流す。
次の順番がまだまだ控えているので、愛想を振りまいている余裕などもう既に無いのである。
その愛想のなさにピクリと頬が引きつるが、まぁこの場合は仕方が無いか…とじっとしていた。
――現在国王聖誕祭の衣装合わせ真っ最中である。
「ふぅ…」
と採寸をしていた部屋からでて一息つく。他にヒューイやユリウスも同じ部屋で採寸していたのだが最低限の身なり以上には気をつけないし、特に衣装に興味が無い自分にとっては少し窮屈な場であったので悪いとは思いつつも同僚2人を待つことなくいつもの仕事場へとスタスタと足早に向かう。
コンコンと指の第二間接でノックをする。
「失礼します。カイト=ルー=シュピッツです。セシル様入ってもよろしいですか」
といつもよりも略式の挨拶で中へ声をかける。忙しい時はわりとこんな感じだ。
「ああ、構わない。入れ」
「失礼します」
中に入ってみると、そこでは王子つきの侍女と共に店長自ら衣装を見立てているようであった。
服飾屋の店長はかなり張り切った様子で、何パターンかの見本を彼に着せていた。
「…あぁ、セシル様はまだ衣装合わせの途中でしたか」
「そうだ。お前の方は終わったようだな。2人はどうした?」
「あぁ、私だけ先にこちらに来させていただきました。2人はまだ採寸中ですからもう少し経てばこちらに来られるでしょう」
その言葉を聞いて彼も自分と同じ気持ちなんだろうなと察したようで、げんなりした様子である。
それが少し可笑しくてクスリと笑った。すると己の上司である主は無言でこちらをじっと恨めしくこちらを見上げてくる。うーんどう返したものかと楽しげに考えていると。
コンコンとまたドアをノックする音が。
「ん?」
「あぁ、2人とも終わったようですね」
「みたいだな」
「ユリウスとヒューイです。セシル様今入っても大丈夫でしょうかー?」
となんとも気の抜ける声でヒューイがこちらに伺いを立てる。
「はは、ああ入っても大丈夫だ」
と周りに人がいるので笑いは控えめにしつつもあちらに入る許可を与え、
「ヒューイもう少し声に力入れたほうがいいですよ。こちらの気が抜けます」
と一応注意するも。
「はいはーい。了解です。ヒューイ遅ればせながら参上しました」
「はい、は1回だヒューイ、同じくユリウス参上致しました」
全然効果が無いようである。しかしなんとも各々の性格を表した返事だ。
「お前達も終わったのか」
ああ羨ましい…!という声があとに続くような様子である。
それに気づいた2人もそれぞれフォローを返す。
「あー。王子様だから仕方ないですよ。セシル様」
「大丈夫です。殿下よくお似合いでいらっしゃいます」
となんとも斜め上を通る返事である。
「「…………。」」
今回は殿下の助けに回るかと考えてとりあえず衣装合わせの手伝いを試みる。
「それでどちらになさるんですか?」
「あぁ、もう既に全部がおんなじに見える。お前が決めてくれ」
となんとも憔悴した様子である。これはよっぽどだなぁと思いつつも並べてある見本と自分の主をサクサクと見比べていく
「こちらの赤色なんて似合うんじゃないですか?」
とセシルの目の前に差し出すと、横からにゅうっと
「さすが! お眼が高いこちらは特にお勧めの一品です、他にはこちらなどお似合いになるかと」
と興奮を抑えきれないという様の店長がこちらに詰め寄ってきつつも他の見本を取り出していく。
あぁ、選択肢が増えてしまったようである。
「え、えぇそうですね」
と猪のような勢いに押されてつい首肯してしまった。
(おい、コラ。なに巻き込まれてんだ)
と小声で鋭く今度は陛下が詰め寄ってくる。
ちっくしょー珍しく陛下の味方するんじゃなかったな…と後悔するもさっさと済ませるためにこの際芽衣の強引さを見習うことにした。
(あぁ、あのときの勢いはすごかったからな…ネコ耳は免れることが出来てよかった)
「ですが、こちらを着たあなたをぜひ! 見たいのでこちらを着てみていただけませんか?」
とぐいとさっきの赤い式服を押し付けつつ奥のほうの部屋へ誘いつつも、
「ユリウス、ヒューイお茶の用意して店長をもてなして足止めしとけ」
と小声で指示をする。そこで空気を読んだ二人はそれに従い手早くその作業を進める。
ほんわかとヒューイと店長が話を弾ませていると……バン!と扉の音が鳴る。
もう着替えが済んだようである。よっぽど早く終わらせたいようだ。
外部の人間がいなければもう少しからかって遊ぶところだが今回はそうはいかない。
「…あぁ、よくお似合いです殿下」
と素直に褒めていると。店長を持て成していた2人もこちらを振り向いて
「うん。本当によく似合ってますよー。」
「ええ、髪の色によく映えますね」
と各々の感想を付け加える。
「あぁ、そうかではこれにするとしよう、問題は無いな?」
即決である。店長は残念そうだ。まぁ着せ替え好きの人種なんだろう。
「承りました、陛下。ではすぐに製作に取り掛かります。今度は最終チェックの時に“再度”お伺い致します」
「あ、ああよろしく頼む完成を楽しみにしているぞ」
「はい、ご期待に沿えるように全力で取り掛からせて頂きます」
確かに全力投球で作ってくれそうだ。少し完成が楽しみではある。
「では玄関までお送りします」
と第三王子つきの侍女が奥の部屋から出てきて一礼して店長を先導する。
キィ
パタンと扉が閉まった。
ふ――――――。
「行ったな」
「「「行きましたね」」」
「お疲れ様です。陛下」
「あぁ、お前らは選択肢はほとんどなくて羨ましいな」
「まぁ小物以外は俺達同じ衣装ですからねー」
「どんな感じなんだお前らのは」
「あー白に金の細工がしているものですよ。形は普段の制服と似てますかね」
と説明しておく。あんまり好みでは無いんだよ。派手で。
「ふぅん。着ているところを見たいもんだな」
「最終調整のときに見ることが出来ると思います。殿下」
と少し苦笑気味にいうユリウス
「しかし、無事に終わってよかった」
としみじみというセシルに
「お疲れ様です。殿下ー」
と屈託なく晴れ晴れした様子でいうルーイ
「うーん。私達もお茶にします? 殿下」
「あぁ、疲れているときには甘いものだな。 カイト頼んだ」
と言い放つと大きな社長椅子のようにすわり心地のいい椅子に沈む。
「了解です」
厨房つきのリュイから受け取った綺麗な黄金色のマドレーヌに杏のジャムを取り分けて、更に定番のアールグレイを薄い陶器の白いカップに注ぎ、ユリウスはテーブルセットの用意をする。
三人で飲む為の即席の場なのでとりあえずといった態である。ヒューイはさっきの衣装合わせの時にごたついた物を簡単にではあるが片付けている。
「はい。どうぞ」
と上座に座っているセシルから順にユリウス、ヒューイ、自分の順で並べていく。
ポットは中央においておいて後は各々で注げといった身内だけでの茶会スタイルだ。
「……これまた可愛すぎないか、カイト」
セシル王子がマドレーヌを指でつまみ上げてじいっと見る。
「いえいえ、よくお似合いですよ陛下」
あぁ、楽しい…。
「確かに可愛すぎるように俺も思うなカイト」
そりゃあお前は激しく似合わないからな。
「そうですかねー 美味しければいいじゃないんですかねー ね、カイトさん」
「うーん。2人には不評でしたか…。リュイ曰く新しい型をたくさん買ったから試してみたくなったらしいですよ」
そこにはウサギやクマやら星やハートの形のファンシーな子どもに受けがよさそうな可愛らしいマドレーヌが小さなバスケットの中の白い敷物の上に綺麗に並べてある。
「まぁ、男四人で取り囲んだ茶会には違和感が凄いかもしれませんね。ルーイは違和感が全然無いですけど」
「「あぁ、確かに…」」
「えーそうですかー?」
「もう、一緒の席を拒まなくなったなユリウス」
とケラケラと笑いつつもセシル様は優雅に紅茶とマドレーヌに手を伸ばしてその味を堪能する
「俺以外は全員敵に回っているんだ。拒んでも無駄だ。それに最終的に命令されたら従うほか無いだろう」と眉間にしわを寄せてこちらをじろりと睨むユリウス
「まぁ、まぁいいじゃないですかユリウス先輩。誰も見てない場のみなんですから。あ、このジャム美味しいですね」
「お、そうか。じゃあ私も食べよう。まあユリウスは昔から生真面目だから」
まぁヒューイが言うんなら間違いなく美味しいだろう。
「お前がテキトー過ぎるんだ」
「真面目にしようとすれば出来るけどそれだと殿下の息が詰まるでしょう」
と綺麗な微笑をたたえて言ってやる。
「おーい。もう言葉崩さないか? カイト。ちょこちょこ寒気するんだが」
とは我らが主。うーん寒気なんてひどいなぁ。たまにはと思ったんだが。
「へいへい。了解です。お茶のお変わりいかがですか? 殿下」
「おーもらう」
ごくりと皿の上に載ったマドレーヌを完食したルーイがいう。
「そういえば殿下。最近王宮の七不思議の噂が出回ってるみたいですよー」
「七不思議? それまた定番だな」
とセシル様が先を促す。
「「…………。」」
俺達は黙って紅茶を飲んでそっと聞いていた。
「その1、リネン室のいくらひっぱっても動かないシーツ
その2、なくなったアップルパイ
その3、夜に目が動く肖像画
その4、階段に残る足跡
その5、宙に浮く本
その6は…あとは何でしたっけ?
すいません。忘れちゃいました」
……それ七不思議じゃねぇじゃん。
「ふぅん。どれも勘違いじゃねえの?」
どれもこれも有り勝ち、どこかで聞いたようなものばかりだ。
「まぁ確かにそうともとれるものばかりだな。あまり聞いたことの無いものも混ざっているが」
とユリウスも淡々というと、ヒューイは少し、うーんと唸って
「アップルパイに関しては朝になったら絶対食べようとしていたとっておきの一品なので絶対無い! しかもそれは自分しか隠し場所を知らない、と料理長は仰っているそうですよー」
「まぁ食べ物に対する執着心半端ねぇもんな料理長…」
確かにあの料理長の執念はすごい。それは地団駄を踏んだことだろう。
「自分の食べ物に手を出したら部下に対して一日無視という大人げのなさだからな」
とやれやれと首をすくめるセシル様。
「まあ私達には確認のしようが無いですね」
「だな」
――まぁ何かあればこちらにまた再度話が上がってくるだろうという結論に達して黙々とオヤツを4人全員ですべてたいらげたのであった。
あー人数多いとこの人が言ったあの人が言ったとか入れないとなんですねー。
書いてみて初めて分かりました…。




