持ち寄った夕食
第12話 持ち寄った夕食
応援の兵は二人だった。
長柄の槍と捕獲用の網を持ち、沢沿いの道から現れる。若い兵士は縛られた森裂きを見て息をのみ、次にサナの角へ目を止めた。
「隊長。魔族が、なぜここに」
サナの杖を握る手が、わずかに動いた。
「小屋の件で話していた。襲われたのは全員だ」
ガレスが答えた。
若い兵士は口を閉じたが、槍を持ち直した。その仕草にリゼが一歩下がる。ユータは何か言いたくて、言葉を選んでいるうちに機会を逃した。
魔獣が身じろぎし、網の金具が鳴る。
まず、目の前の危険を片づけなければならなかった。
*
兵たちは網を重ね、敷石脇の太い木へ魔獣をつないだ。
ガレスは槍で腕を押さえながら、食い込んでいた古い縄を調べる。折れた木片には穴があり、黒い繊維が深く噛んでいた。
「荷車の部品か?」
年長の兵士が尋ねた。
「まだわからん。切らずに残す。詰所から檻車を回してもらおう」
ユータは戸口から見ていた。
森裂きの胸は速く上下している。人を傷つける爪を見れば、近寄りたいとは思えない。けれど、北を向くたびに体を縮める理由は、知りたかった。
『あっち、ほかのにおいもする』
りんが鼻を鳴らす。
「何の匂い?」
『とおい。まだ、わからない』
ユータは北の木立を見た。
葉の間は暗く、奥行きがつかめない。あそこへ確かめに行くことを想像しただけで、喉が狭くなった。
ガレスへ伝えると、男は森を見渡した。
「お前たちは入るな。村にも、北側へ近づかぬよう知らせてくれ」
サナがうなずいた。
「帰りは沢沿いに回る。村の見張りにも話すよ」
ガレスは若い兵士へ詰所への伝令を命じ、年長の兵士と外の見張りを交代した。
*
檻車を待つうち、空の色が薄い灰色に変わった。
サナとリゼを帰す前に、もう一度道の安全を確認することになった。小屋の中で待つ三人の耳にも、外の網が擦れる音が届く。
「かまど、借りてもいいか」
見張りを交代して入ってきた年長の兵士が、袋を開いた。
土のついた小ぶりの芋が三つ。それに、布で包んだ硬いチーズ。
「夕食だ。俺と伝令の分。戻ってきたら、食わせてやりたい」
ユータは芋を手に取った。
「これは、普段どう食べますか」
「畑芋だ。茹でるか、灰へ埋める。皮も食える」
「少し手を掛けても?」
兵士は疲れた顔で笑った。
「うまくなるなら頼む」
芋を洗い、皮ごと茹でる。
待つ間にチーズを削ると、刃の下で薄い欠片が割れた。少し味をみる。塩気は強いが、その奥に乳の濃い香りが残った。
串がすっと通った芋を取り出し、湯気を逃がす。
兵士が手を伸ばしかける。
「もう食えるんじゃないのか」
「食べられます。あと少しだけ」
ユータは布を当て、芋を掌で平たく潰した。
鉄鍋へチーズを少量散らす。弱い火で温めると、縁に脂が浮き、乳の香りが香ばしく変わり始めた。
その上へ芋を置く。
じりじり、と細かな音が鳴った。
リゼがかまどの横へしゃがむ。
「それ、焦げてない?」
「端が茶色くなったくらいで返す」
木べらを差し込む。鍋から離れた面には、薄い飴色の膜が張っていた。
戻ってきた若い兵士は、戸口で足を止めた。
視線の先は、まだサナだった。けれど鼻が一度、鍋のほうへ動いた。
「チーズ焼き芋です。熱いうちにどうぞ」
年長の兵士がまず受け取った。
噛むと、焼けたチーズの膜がぱりっと割れる。その下から、ほくほくした芋が崩れた。皮の土っぽい香りに、濃い乳の旨味。塩を足さなくても、芋の甘さが舌へ広がる。
「……これは、酒が欲しくなるな」
「勤務中だぞ」
外からガレスの声がした。
兵士は口いっぱいのまま、肩をすくめた。
若い兵士も食べ始める。ひと口で急いで飲み込みかけ、思い直したように、二口目はゆっくり噛んだ。
「この焦げたところ……もう少し、ついててもいい」
リゼが笑いかけ、彼と目が合う。
二人とも、すぐに視線を外した。
年長の兵士は大きな芋を割り、調理代だと言ってユータへ半分差し出した。許しを得て少しずつ分ける。りんには、焼く前に取っておいたチーズなしの欠片を冷まして渡した。
『みんな、ちがうにおい』
「お前のは、それ」
『しってる』
わかっていて言ったらしい。
ユータが笑ったとき、表から車輪の音が近づいてきた。
若い兵士は残りの芋を口へ入れ、槍を取った。サナの前を通る際、一瞬立ち止まる。
「沢の曲がり角までは、俺が先に見ます」
「頼むよ」
サナは静かに答えた。
ユータは空になった鍋を見下ろした。底に残ったチーズの薄皮を木べらで集めながら、今の短いやり取りを、何度も思い返していた。




