第8話
思わず引き止めてしまった私に、彼はなぜか驚いたお顔をなさったの。
いけなかったのかしらと焦って緊張したのだけれど。
「よろしかったらお話しませんか ? 」
そうお声を掛けていただけて緊張が少し解けましたの。
「私でよければ喜んで」
向けてくれた笑顔は太陽の様にあたたかく、それは今でも健在で、私の心を照らしてくださる素敵なものですわ。
「ふふふ」
「どうかしましたか ? 」
「こんな時にごめんなさい。エルフレット様と幼いころにお会いしたお茶会を思い出してしまいましたの」
リネルに対してなんとも失礼な言動でしょう。
殿下はお相手を勝手に決めて周りの方々に迷惑を掛けてしまっていましたけれど、リネルにはちゃんと彼女に好意を向けてくれる方と一緒になってもらいたいものです。
「お二人とも、そろそろ着くようですよ」
馬車の窓から覗き見ると、我が王都邸の門前に差し掛かるところでした。
「リネル、そろそろ降りますよ」
「はい」
エルフレット様は先に降りると私をエスコートし、続いてリネルのエスコートもしてくださいました。
邸の前には執事長と侍女長の二人が待っておりました。
「おかえりなさいませ」
「ただいま戻りました」
我が家に長く勤めている二人にはリネルの変化が分かったようです。
侍女長も初めての事態を目にしたように驚いていました。
「一体なにがあったのですか…」
「ジョンソン」
「エルフレット様、失礼をいたしました」
頭を下げようとするジョンソンを制し、少し深刻な表情で話をされます。
「先触れを出したのですが、詳しいお話はお二人を休ませてからの方が良いでしょう」
「かしこまりました」
リネルがふと、私の手を握ります。
「お姉さま、お部屋までご一緒しましょう」
本人は笑顔のつもりなのでしょうが、見ているこちらの胸中を苦しませてしまっていることに気付いているのかしら。
「ありがとう、リネル」
私は妹の肩を借りる様に抱き寄せました。
そんな表情をしないで。




