第56話
リネル視点は今回で一旦終わりです。
殿下たちから受けたことは傷として残らないと思っていたのですが、あれだけ悪口を聞かされると参ってしまう者ですね。
心身ともに強張りを解きたくて夜会ドレスを脱ぎ、ワンピースへと着替えた頃に誰かが扉をノックします。
モーネが扉の前で問うと、普段はお姉様のお世話をしている侍女、リゼでした。
「リゼではないの。お姉様の容体がどうかしたのかしら」
「いえ。ご心配なく、もうお休みになられました。夜会の事がありましたので、ご当主様がご自身の代わりにお傍にいるようにと」
モーネと私は顔を見合わせました。
心配してくださるお姉様には感謝しますが、私はこれからある約束があるのです。
決行するにはリゼに居てもらっては困ります。
しかし、断ればいつもと違うと不審に思われるかもしれません。
「モーネ、入ってもらって」
「お嬢様」
私がこれから何をしようとしているのかを知っている彼女は、不安な表情でした。
「どうぞ」
「失礼いたします」
学園の成績が上位だったとはいえ、人の目を反らせるような計略は嫌いですし、苦手です。
今回の事はあの方が考えてくださったものなのです。
失敗はできません。
「リゼさん、お嬢様は今回の婚約に対し思うところがあったようです」
「…そうなのですか」
「モーネ ! 」
長く私の側にいるとはいえ、当主の意見に逆らうような考えを示すなんて。
思わず腕を掴んだ私に、モーネはいたずら好きの子供がするような笑顔を向けてきました。
「今回の件についてリゼさんとお話をしてきます。少し席をはずしますがよろしいでしょうか ? 」
にこにことしているモーネは、無言で「大丈夫ですよ」と言っているようでした。
「さあ、リゼさんこちらへどうぞ」
「リネル様のお側にいなくても大丈夫なのですか ? 」
「今は落ち着いておりますし、何かあればベルで知らせてくれます。お嬢様、失礼いたします」
モーネは半ば無理矢理、リゼの背中を押して隣室の侍従部屋へ入っていきました。
彼女が作ってくれた時間を無駄にはできません。
クローゼットを開け素早く黒の外套を身にまとうと、深くフードを被り、用意していた使用人の靴に履き替えます。
高鳴る胸を落ち着かせるように、呼吸を数度深くし、意を決して外へ出ました。
いつも読んで頂きありがとうございます。
今日から第二部が始まります。
今回はリネル視点ですが、次回からは姉のリセルレット視点に戻ります。
この先どの様な展開のお話になるのか、お付き合いくださると嬉しいです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします。




