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『宮女朱華』愛と覚醒の彼方に

女子高校生の高橋ひなは、『ヴァーチャル・ダイブ』の世界へと傾倒していました。そこは、一国の皇太子である李蓮りれんから命がけで愛され、太子妃として最高の愛と祝福を受ける完璧な幸福に満ちた空間でした。しかし、ひなの精神的満足度が100%に達した瞬間、システムの真の機能である『自我の不測の補完』プログラムが起動してしまう。

夕闇が街を静かに包み込む中、

ひなは胸の鼓動を押さえながら自分の部屋へと駆け込んだ。


机の上に置かれた『フルダイブ・バルブ』を丁寧に手に取り、

ベッドに横たわる。

洗練された流線型のヘッドギアを頭に装着すると、

ひなはそっと目を閉じた。


「早く……あの方の元へ」


『ヴァーチャル・ダイブ』の起動とともに、

北海道ニセコに配置されたスーパーコンピュータ

樹林ジュリン』へ脳波データが送信される。

日本メーカーのゲーム機1万5000台を並列接続したそのシステムは、

極限まで調整された睡眠波形を感知し、

美しく壮大な仮想帝国の世界を瞬時に構築していった。



「朱華……無事だったか」


目を覚ますと、そこは紫禁城を思わせる豪奢な寝所だった。


ひなの目の前に立っていたのは、

深い蒼の龍袍を纏った皇太子・李蓮リレン

彼は安堵の表情を浮かべると、ひなを優しく、しかし力強く抱きしめた。


「殿下……! お会いしたかったです!」


その胸の温もり、微かに漂う沈香の香り。

すべてが圧倒的なリアルさでひなの全身を包み込む。

自分を命がけで庇い、

最高位の妃として迎えてくれた男の愛に、ひなの胸は熱く震えた。


「朱華、今日からはもう誰も我が妃であるお前を脅かすことはできぬ。私とともに、この国を温かく照らしてくれ」


「はい……! どこまでも、殿下について参ります」


二人は手に手を取り合い、

大極殿へと続く巨大な階段を上っていった。


澄み渡る青空の下、数百人もの文武百官がひざまずき、

地を揺らすような歓声をあげる。


『皇太子殿下、太子妃殿下、千歳! 千歳! 千千歳!』


燦然と輝く太陽の光を浴びながら、

李蓮はひなの手をしっかりと握りしめ、優しく微笑みかけた。

それは、ひなが夢にまで見た最高に幸せな瞬間だった。


(ああ……私、本当に幸せ……)


最高の愛と、最高の祝福。

そのあまりの達成感と充足感に包まれた瞬間——。


脳内で、静かに、そして心地よい澄んだ鈴の音が響いた。


『ユーザーの精神的満足度:100%に到達』


『睡眠時学習・体験完了ルーチンを起動します』


(え……?)


視界の端で、世界の背景が美しい光の粒子となって優しく解けていく。


「朱華、恐れるな」


李蓮は消えゆく世界の中で、穏やかな瞳でひなを見つめていた。


「これは別れではない。お前がこの世界で与えてくれた強さと愛は、すでに私の中で永遠となった。そしてお前自身も、私との絆を通じて、新たな自分を見つけたはずだ」


「殿下……?」


「お前には、帰るべき大切な世界がある。私と過ごしたこの時間は、いつでもお前の心の中で輝き続ける。だから——堂々と歩みを進めなさい、高橋ひな」


李蓮はひなの名前を優しく呼ぶと

、愛おしそうにその額へ最後の口づけを落とした。


『樹林』が提供する『S4』システムのもう一つの真価。

それは、人間の脳が抱く「願望」や「満たされない思い」を

仮想空間内で極限まで体験・満たさせることで、

精神的な揺らぎを穏やかに補完し、

前を向くための活力へと昇華させる『自我の不測の補完』だった。


ひなの中にあった「日常への退屈」や

「誰かに特別に愛されたいという渇望」は、

李蓮との運命的な恋を完全に、

成就させたことで美しく「補完」され、満たされたのだ。


「ありがとう、殿下……! ずっと、忘れません!」


光の眩しさに包まれながら、

ひなは心からの感謝を込めて笑顔で手を振った。



ピピピピ、ピピピピ。


心地よいアラームの音が響き、ひなはゆっくりと目を開けた。


朝の清々しい光が部屋いっぱいに差し込んでいる。

頭から『フルダイブ・バルブ』を外すと、

これまでにないほど心が軽やかで、澄み渡っていることに気づいた。


「……すごかった」


ベッドから起き上がり、自分の手を見つめる。

昨夜の感動と余韻は、今も胸の奥で温かく輝いている。

しかし、以前のような「現実に戻りたくない」という、

悲壮感や焦燥感は、不思議なほど消えていた。


あの仮想世界で李蓮から注がれた揺るぎない愛と、

「お前の世界で堂々と生きろ」という励ましが、

ひなの心に確かな自信と強さを与えてくれたからだ。


「ひなー! 朝ごはんできてるわよ!」

階下から母の明るい声が聞こえる。


「はーい! 今行く!」


ひなは元気よく返事をすると、ベッドを整え、制服に袖を通した。

鏡に映る自分の顔は、どこか晴れやかで、

前よりもずっと大人びて見えた。


『ヴァーチャル・ダイブ』。

それはニセコのつぎはぎのスーパーコンピュータ『樹林』が

生み出した最高の技術であり、

傷ついた心や満たされない思いを抱く人々に、

再び現実に立ち向かう勇気を与える素晴らしい「心の架け橋」だった。



数カ月後。


「高橋、ここ読んで」


「はい!」


午後の国語の授業。

ひなはハキハキとした通りやすい声で教科書を読み上げた。


窓から吹き込む初夏の風が、爽やかに髪を揺らす。


「ねえひな、放課後新しいカフェ行かない?」


「行く行く! 実は私、最近中国歴史の勉強始めてさ、今度その話も聞いてよ!」


「えー! ひなが勉強!? すごいじゃん!」


休み時間、友人たちと弾んだ声で笑い合う。


ひなは今、現実にしっかりと足をつけて歩んでいた。

学校の勉強も、友人との会話も、すべてが愛おしく楽しい。

なぜなら、自分はあの物語のヒロインとして愛され、

満たされた経験を持っているという

「確信」が、胸の中にあるからだ。


ふと、クラスの男子たちの会話が聞こえてきた。


「『ヴァーチャル・ダイブ』、また新しい歴史体験モード追加されたらしいぜ。今度は古代ローマだって」


「マジで!? 今日の夜ダイブしてみようかな!」


ひなはそれを聞いて、フッと優しく微笑んだ。


(みんな、素敵な冒険になるといいね)


机の横のカバンに入った

『フルダイブ・バルブ』に、心の中でそっと語りかける。


現実リアルがあるからこそ、バーチャルは美しく輝き、

夢があるからこそ、現実に立ち向かう強さが生まれる。


ひなはカバンを持ち上げると、輝くような笑顔で、

大好きな友人たちの元へ駆け出していった。


(終幕)

記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、


もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。


こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。


※短編『S4(エス・フォー)』Scientific Fantasy

※短編ユリン S4 Scientific Fantasy2

先行した2つの作品を読んでいただけますと、

わかりやすい内容になっています。

参考までに気が向いたらご覧ください。


登場人物


〇チェ・ウニョン

天才脳科学者、元高校教師

韓国脳科学会に「性善説でもなく性悪説でもない

『無による無』の論文を出して提唱したが、

女性である事とまだ若い事が遠因となって、

『無による無』は

『成り行き任せの論ずるに値しない学説』として

笑われ、学会を追放されてしまった。

世の中にあがらう事を諦め、

生活の為にソウルの高校にて教師をしていた。

大変な美人だが、脳科学者だけに脳に正直で、

普通の女性よりもほんの少し下品で、

ほんの少しビッチな発言もある。

大韓民国の『国民総教化計画』を阻止すべく、

『水霊』の破壊と『儒林』の消滅をやってのけた。



キム・ソヒョン

アトリエ・ノア会長室室長。

会長佐藤氏志乃の最側近(雑用係とも)

FGS(藤咲化粧品)korea第二営業企画部部長。

総合映像制作会社S.S.I社長ユン・ヒョヌの元恋人。

作家ユン・シウの元恋人。

他者肯定も少なく、

自己肯定も少ないので何かと苦労しがちな女性。

それはチェ・ウニョンの理論『無による無』と通じる素養をもっている。

元恋人のユン・シウは作家なだけに空即是色

(0から創作する )または(何気ない日常がドラマだ)と考える人間なので、

分かり合えるはずがなかったのかも知れない。



参考


※S4(エスフォー)

韓国で開発された超睡眠時学習システム

『Super・Sleep・Studying・Systems』

大韓構想にて国民総教化計画の一環で

表向きは若年世代の教育強化を目指した。


水霊スリョン

韓国で大韓構想を元に開発されたスーパーコンピュータ。

『Super・Sleep・Studying・Systems』の頭脳。


※大韓構想

朝鮮半島の統一を果たした大韓民国が掲げた構想。

「世界で最も優秀で、最も繁栄した国家の構築」


儒林ユリン

水霊スリョンの真の最終目標『全脳化計画』。

世界中のPC・タブレット・スマホを『CPUニューロン』として、

水霊を実体無くして最強であるものとする計画。

シナプスとして

流星群受信メテオラシャワーが用いられた。


樹林ジュリン

北海道ニセコにて佐藤志乃率いる

Juringエンタが開発したスーパーコンピュータ。

日本メーカーのゲーム機(一応、最高グレード)1万5千台を接続して、

30億円投資して完成させた。

ちなみに名前の由来は、数十年前に佐藤志乃が在籍した、

東京シルフィード歌劇団在籍時の舞台名

天翔樹林あまかけじゅりん』が元になっている。

(社名のJuringエンターテイメントも同様)

儒林ユリンと似ているがまったく関係ないネーミングであった。

表向きは『つぎはぎのポンコツ』とされているが、

実際は日本のフラッグシップ富岳と同等以上の性能を発揮し、

消費電力も3分の1となっており、

投下した資本からするとかなりコスパの良い設備である。

国内で騒がれない為に『山奥のポンコツ』と広めている。

冷却に降雪した雪を使用しており、融けてろ過した水は海外に売却してコストダウンしている。


流星群受信メテオラシャワー

Meteor shower signal reception。

米国の富豪が打ち上げた精密な衛星通信網は、

自動帰還するロケットを用い、小型通信衛星を打ち上げるビジネスであったが、

日本のベンチャーがもっと安価に完全使い捨ての格安ロケットにて、

野球の球ほどの通信端末をドラム缶いっぱいに持っていき、

衛星軌道上でぶちまける事によって追い抜いた。

死角無しの衛星通信網である。

無計画に端末をぶちまく為、高頻度で大気圏に落下し、

流れ星が大量にみられる理由から、流星群受信と言われるようになった。

極めて大雑把で安価なベンチャービジネスで構築した、

地球全土を覆う死角なき通信ネットワークのその通信端末は、

現代のスマホが充電スタンドで置くだけで充電できるのと同じ仕組みで、

宇宙に漂う電磁波を表面で吸収し、半永久的に駆動する。



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