『ニュートピア』第1話:神都の洗礼
1.嘘とダイブ
規約のチェックボックスにチェックを入れる時、罪悪感がなかったと言えば嘘になる。
だが、中学三年生の五月という、受験の足音が背後に迫りつつある時期に、どうしても手を出したいものを見つけてしまった人間の情熱を止めることは、誰にもできなかった。
『ヴァーチャル・ダイブ』の運営から突如として発表された、一般公募ベースの新ワールド。
古代中国を模した広大な大地に十以上の国家が乱立し、本気の国取り合戦や、一歩街を出れば山賊と命のやり取りを繰り広げるという、超ハードモードの新天地。その名は『ニュートピア』。
ネットの掲示板や動画サイトは、そのあまりの自由度とリアルさの予感に沸き立っていた。
ただし、このゲームには一つの大きな、そして絶対的な障壁があった。
【本ワールドは、一部に過激な表現、および成人向けのコンテンツを含むため、R18指定となっております】
一四歳の僕――阿久津優亜は、ディスプレイの前で生唾を飲み込んだ。
成人向け。その響きに含まれる甘美で、どこか恐ろしいニュアンスに胸が跳ねる。だが、僕の目的はそれだけじゃない。ただ純粋に、誰も見たことのない広大な仮想世界で、一人の剣士として生きてみたかったのだ。
幸いなことに、ニュートピアの新規キャンペーンは『フリープラン』だった。
クレジットカードの登録が必須となる有料プランとは違い、身分証の厳密な画像認証をすり抜けるのは、少しの工夫――ジャンクパーツで組んだ自作PCの仮想環境と、使い古したフリーメール、そして「生年月日:二〇〇七年」という、五年のサバ読み――だけで事足りた。
画面上の生年月日を書き換えた瞬間、僕のアカウントプロフィールは『一九歳』になった。法的な責任はすべて自分にあるという、大人の世界への片道切符だ。
「よし……っ」
誰もいない自室。夕食までの二時間。
僕はベッドに横たわり、頭部に重厚な『フルダイブ・バルブ』を装着した。カチリ、とロックが噛み合う金属音が、現実世界との決別の合図のように響く。
「ダイブ・スタート」
声を出すと同時に、視界が真っ白な光に包まれた。
次の瞬間、脳の髄を直接かき回されるような、奇妙な浮遊感が全身を襲う。
視覚、聴覚、皮膚感覚。そして、普段の意識では意識することすらない『嗅覚』に至るまで、僕の生体神経信号が、目にも留まらぬ速度で人工的なデジタルデータへと置換されていく。
【ユーザー認証:優亜(YUUA)♂】
【アバター選択:『剣斗』♂】
システムログが網膜の裏側を高速で流れ去り――僕の意識は、一気に底のない暗闇へと墜落した。
2.土と鉄の匂い
「――おい、遅れるな! 整列だ!」
鼓膜を震わせたのは、現実のスピーカーから流れるような電子音ではなかった。
腹の底にビリビリと響く、野太く、肉厚な人間の怒声。
ハッと目を開けると、僕の視界は唐突に、抜けるような青空と、どこまでも続く乾いた赤土の大地に切り替わっていた。
「うおっ……!?」
思わずよろめいた僕の足元で、ザッ、と砂利が擦れる音がする。
下を見ると、僕の体はいつの間にか、粗末な布切れの服と、胸元を覆う硬い牛革の胸当てに包まれていた。手のひらを握りしめてみる。現実の僕の手よりも一回り大きく、手のひらには剣を握り込んだような硬いタコができている。アバター『剣斗』の肉体だ。
驚くべきは、その『解像度』だった。
ツンと鼻を突くのは、乾燥した土の匂いと、少し汗臭い男たちの体臭。そして、近くの武器ラックから漂ってくる、使い込まれた鉄と油の匂い。じりじりと肌を焼く太陽の熱までが、完全に『本物』として皮膚に伝わってくる。
「これが、フルダイブ……」
感動で声を漏らしそうになったが、すぐに周囲の異様な雰囲気に気付いて息を呑んだ。
そこは、高い土壁に囲まれた、広大な『兵錬場』だった。
僕の周りには、同じような革の胸当てを身につけた若い男たちが、整然と列を作っている。人数は二〇人ほど。僕はその中で、後列の中央付近に立っていた。
(この人たち、プレイヤー……? それともNPC?)
チラリと横の男を見てみる。年は一五歳前後だろうか。精悍な顔立ちだが、その目は酷く怯えており、唇を小刻みに震わせている。そのリアルな表情の変わり方は、およそ従来のゲームのグラフィックの域を超えていた。
誰も喋らない。ただ、張り詰めた緊張感だけが、熱気となって場を支配している。
列の最前方に、一人の男が立っていた。
身の丈は二メートル近くあるだろうか。全身を黒い鋼の甲冑で包み、腰には身の丈ほどもある大剣を帯びている。その顔には、右目を縦に引き裂く大きな傷跡があり、ギラギラとした凶暴な眼光が、僕たち二〇人の若者を射抜いていた。
「これより、神都白鳳、中央第一軍団付属・新兵訓練を開始する!」
男の声が、兵錬場に響き渡る。
神都白鳳。設定にあった、初心者が最初にプレイすることを推奨される巨大都市。不老不死の皇帝が統治し、神の加護によって絶対に侵略されず、陥落もしないという安全地帯。
しかし、その安全地帯の『中』のルールが、これほどまでに苛烈だとは、ログインする前の僕は知る由もなかった。
「貴様らは皆、今年で一五歳を迎えた、神都の不届き者どもだ!」
大男――訓練官が、一歩を踏み出すたびに、甲冑がガチリ、ガチリと重々しい音を立てる。
「この白鳳において、男子は一五歳での入隊が義務付けられている。だが、勘違いするな。我が軍は、ただの木偶の坊を養うほど暇ではない! これからの訓練において、課される『選抜』にすべて落選した者は、軍属から永久に排除される!」
訓練官の言葉に、周囲の少年たちが一斉に肩を震わせた。
僕の脳裏に、公式サイトで読んだ設定がフラッシュバックする。
『市民はすべて一二〇の階級で分けられるが、軍隊経験が無いものに関しては、最高でも四九階級までの昇進となる。軍を追われた者は、一生出世も望めなくなる』
(なるほど……。このゲーム、最初のチュートリアル(選抜)に落ちたら、その時点でステータスや社会的地位の上限がロックされる縛りプレイが確定するんだ)
なんと恐ろしい仕様だろう。普通のRPGなら、レベルを上げれば誰でも強くなれる。だが、このニュートピアは違う。「文武両道が求められる社会」であり、最初の適性検査で未来の半分が決まってしまうのだ。
「落選した者がどうなるか、知っているな?」
訓練官は冷酷に微笑んだ。
「一階級から四九階級の底辺市民として、一生物資の運搬や、肥溜めの掃除で一生を終える。あるいは、夜の祇園の門前で、富裕層の乗る馬車の糞拾いでもするか? それとも、命の保証が一切ない街の外へ出て、山賊の餌になるか!?」
少年たちの中から、小さく「ひっ」という悲鳴が漏れた。
あまりの臨場感に、僕も一瞬、自分が日本の実家でベッドに寝転がっている中学生だということを忘れそうになる。心臓がドクドクと不規則なビートを刻み、喉がカラカラに渇いていく。
「嫌ならば、示せ。貴様らの価値を! まずは基礎体力の測定だ。あの重石を担ぎ、この兵錬場を五十周走れ。脱落した者は、その時点で『不合格』とする!」
訓練官が指差した先には、大人の胴体ほどもある巨大な、四角い石の塊が並んでいた。
二〇人の少年たちが、一斉に動き出す。そこにはゲーム的な「カウントダウン」も「クエスト開始」のポップアップも出ない。ただ、生き残るための、泥臭い現実だけがそこにあった。
3.実力主義の洗礼
「ぐ、ふっ……! 重、すぎ……っ」
石の塊に両手をかけ、背中に担ぎ上げた瞬間、僕はその想定外の質量に押し潰されそうになった。
膝がガクガクと震え、肺から酸素が強制的に押し出される。
ステータス画面を念じると、視界の隅に半透明のウィンドウが現れた。
【名前:剣斗】
【筋力:12 / 敏捷:10 / 耐久:11 / 精神:15】
【状態:過負荷(移動速度 -50%)】
(初期ステータスが低すぎる……! 精神だけが少し高いのは、僕の現実の意識が反映されてるからか?)
周りの少年――NPCたちは、泣き言を言いながらも、必死に石を担いで走り始めていた。やはり、この世界の住人としての肉体基礎値は彼らの方が高いらしい。現代日本のヌルい環境で育った僕の精神は、この肉体の重さに悲鳴を上げていた。
「おい、そこの新兵! 足が止まっているぞ!」
背後から、訓練官の怒声とともに、ピシィッ! と空気を切り裂く音が響く。
見ると、訓練官の手には革製の鞭が握られていた。見せしめのように、僕のすぐ隣を走っていた少年の背中に鞭がしなる。
「ぎゃああっ!?」
少年が悶絶し、石を落として地面に転がった。背中の布が破れ、赤い鮮血が滲み出る。
それを見た瞬間、僕の全身に鳥肌が立った。
(痛覚が、制限されてない……!?)
R18指定の本当の意味を、僕はここで理解した。このゲーム、暴力描写の規制が完全に解除されている。あの鞭の打ち据えられる生々しい音、そして少年の絶叫は、本物の拷問そのものだ。
「おい、立て! 立てない者は連れて行け!」
訓練官の冷徹な声の通り、どこからか現れた無表情な兵士たちが、泣き叫ぶ少年を両脇から抱え、兵錬場の外へと引きずっていった。その少年の頭上にあった『訓練兵』というタグが、目の前で灰色に変色し、消滅した。
一発アウト。脱落者は、本当に底辺へと落とされるのだ。
(やるしかない……。ここで落ちたら、五歳もサバを読んで、この世界に来た意味がない!)
僕は歯を食いしばり、一歩を踏み出した。
ズシン、と足の裏から骨に響くような衝撃。赤土の地面を蹴るたびに、埃が舞い上がり、口の中が砂っぽくなる。
一周、二周、三周……。
一〇周を過ぎた頃には、意識が朦朧としてきた。
視界の端の【耐久】のゲージが、じわじわと減少していく。それがゼロになれば、おそらく僕のアバターは強制的に気絶するか、肉体が破壊される。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
隣を走る少年の息遣いが聞こえる。彼はさっき、唇を震わせていた少年だ。彼の顔はすでに限界を超えており、白目を剥きかけている。
「あ……、あ……」
少年が、バランスを崩した。その背中の重石が、僕の方へと傾いてくる。
「危ないっ!」
僕は本能的に、自分の重石を抱えたまま、横へとステップを踏んだ。
ドシン!!
少年は地面に激しく叩きつけられ、二度と動かなくなった。
「脱落者一名! 次だ!」
容赦のない声。僕は転がった少年を振り返る余裕もなく、ただひたすらに前を見て足を動かした。
二〇周、三十周。
すでに半数の少年が姿を消していた。
僕の全身は汗でびしょ濡れになり、革の胸当てが擦れて胸元がヒリヒリと痛む。だが、不思議なことに、三十周を越えたあたりから、頭の中が妙にクリアになっていくのを感じた。
【ピコン!:スキル『根性』を獲得しました】
【筋力・耐久の減少速度が 10% 緩和されます】
(システムメッセージ……! 生きてる、まだ、僕は動ける!)
現実世界の受験勉強で、深夜まで机に向かっていた時の、あの孤独でじっとりとした「耐える感覚」。それが今、このアバターの精神値(15)とリンクし、肉体の限界を強引に引き留めていた。
そして――。
「……五十周! そこまで!」
訓練官の声が聞こえた瞬間、僕は泥のように地面に崩れ落ちた。
背中から重石が転がり落ち、自由になった肉体が、まるで羽のように軽く感じられる。
生き残ったのは、二〇人のうち、わずか『七人』だけだった。
4.特権と世界の歪み
「ふん、残ったのは七人か。例年よりはマシなゴミ屑どものようだ」
訓練官は、地面に這いつくばる僕たちを見下ろし、鼻で笑った。
しかし、その目にはさっきまでの狂暴なだけの光ではなく、微かな「値踏み」の視線が混ざっている。
「及第点だ。貴様ら七人は、本日をもって正式に『白鳳・中央第一軍団』の末端、階級一〇の兵卒として登録する。ステータスを確認しろ」
言われるがままに画面を開くと、僕のプロフィールの表記が変わっていた。
【所属:神都白鳳・中央第一軍団(新兵)】
【市民階級:10 / 120】
【恩恵:神都内の一部施設の利用許可、基本給(銅貨50枚/月)】
「階級一〇……」
僕は小さく呟いた。一二〇階級あるうちの、下から数えた方が圧倒的に早い底辺だ。しかし、あの選抜に落ちた者たちが「階級一」からスタートすることを考えれば、大きな一歩だった。
「これより一時間の休憩を与える。各自、兵舎で支給品を受け取り、身だしなみを整えろ。夕刻からは、神都の『巡回』の任務に就かせる。実戦ではないが、目を凝らせ。この国がどのような仕組みで回っているか、その身で知るがいい」
訓練官が去り、ようやく張り詰めていた空気が緩む。
僕は支給された冷たい水を一気に飲み干した。喉を鳴らして流れる水の冷たさが、これほど美味いと感じたのは人生で初めてだった。
支給された衣服は、新兵用の、少し仕立ての良い白い長袍だった。腰に安物の鉄剣を帯びると、鏡に映った自分の姿は、どこからどう見ても「古代中国の若き兵士」そのものだった。
一時間の休憩の後、僕たち七人の新兵は、先輩兵士に率いられて、初めて兵錬場の外――神都白鳳の街並みへと足を踏み入れた。
「うわあ……」
思わず、感嘆の声が漏れた。
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの壮麗な中国風の建築群だった。
天を突くような朱塗りの塔、金色の瓦が夕日に映える壮大な宮殿。通りは綺麗に舗装され、行き交う人々は絹の美しい衣服を身にまとっている。
そして何より奇妙なのは、その街の「平穏さ」だった。
十以上の国が戦争をしている世界だというのに、この街には一抹の緊張感もない。人々は笑い、歌い、平和を謳歌している。
「おい、新兵。キョロキョロするな」
僕たちを率いる先輩兵士――階級三十の男が、不敵な笑みを浮かべて言った。
「この白鳳は『神の住む都』だ。皇帝陛下は不老不死であり、その御力によって、いかなる外敵もこの街の結界を破ることはできん。つまり、この国にいる限り、俺たちは絶対に『死ぬことのない安全』を保障されているわけだ」
「絶対に、死なない……」
「そうだ。だがな、その安全と引き換えに、この国は徹底的な『序列』で成り立っている。それを見せてやる」
先輩兵士が僕たちを連れて向かったのは、街の中心部に位置する、ひときわ華やかで広大な、高い壁に囲まれたエリアだった。
壁の向こうからは、美しい琴の音色や、女性たちの艶やかな笑い声が聞こえてくる。門の上には、黄金の文字で大きく【祇園】と掲げられていた。
「ここが、白鳳の至宝、男たちの楽園『祇園』だ」
先輩兵士の目が、卑屈な、それでいて強い欲望を孕んだ光を帯びる。
僕の心臓が、ドクンと跳ねた。
設定にあった、あの場所だ。
『女子は一二歳より昼間は学生、夕方からは大人の女性達の手伝いとして祇園で働き、一七歳より華官として働く』
『入園料を払わないと、男性は入ることができない』
門の前には、数人の男たちが並んでいた。彼らは一様に、きらびやかな衣装を身にまとった富裕層のプレイヤーや、高階級のNPCたちのようだ。彼らが門番に重そうな財布から金貨を差し出すと、門は静かに開かれ、中から馨しい香水の匂いが漂ってきた。
「いいか、新兵ども」
先輩兵士が、僕たちの衣服を指差した。
「俺たちの今の給与じゃ、あの門をくぐるための『入園料』の百分の一にも足りん。業務上の緊急事態――火事や建物の修理でもない限り、男が中に入ることは許されない。ここは、男女の交際が徹底的に管理された、この世で最も贅沢な場所だ。そして、中にいる『華官』たちと人知れず秘密の交際をするなど、神の目を欺くよりも難しい」
僕は門の隙間をじっと見つめた。
そこを通りかかる、一人の少女の姿が見えた。
薄紅色の絹の衣をまとい、髪を美しく結い上げた、僕と同じくらいの年齢に見える少女。彼女は一瞬、門の外にいる僕たち「新兵」の薄汚れた姿に視線を向けたが、すぐに興味を失ったように、冷ややかな、人形のような目で前を向いて去っていった。
その徹底的な、格差の拒絶。
美しい街並みの裏にある、息の詰まるような管理社会の歪みが、僕の胸に冷たい楔となって突き刺さる。
(このゲーム、ただのファンタジーじゃない……。システムそのものが、プレイヤーの欲望と序列を煽るように、精巧に作られてるんだ)
「……おい、お前ら。何をボケッとしている」
その時、背後から聞き覚えのある、しかし、さっきよりも低く、威圧的な声が響いた。
振り返ると、そこには黒い甲冑を身にまとった大男――あの訓練官が立っていた。
だが、彼の様子は兵錬場の時とは違っていた。その顔は険しく、腰の大剣の柄に手がかけられている。
「訓練官殿?」
先輩兵士が慌てて敬礼する。しかし、訓練官はそれを無視して、僕たち新兵の前に立ちはだかった。
「……緊急事態だ。新兵ども、剣を抜け」
「え……?」
訓練官の言葉に、僕たちは耳を疑った。ここは絶対に安全な、侵略のあり得ない神都白鳳のはずだ。
「結界の隙間を突き、街の地下水道から『山賊の残党』が侵入したとの報が入った。すでに中央宮殿の近衛兵団が動いているが、ネズミどもがこの祇園の裏手に逃げ込んでいる可能性がある」
訓練官の目が、僕を捉えた。
「階級一〇の新兵どもにとっては、これが初陣となる。忘れるな、街の外の山賊どもは、俺たち白鳳の人間とは違い、『本気の殺し合い』をして生き延びてきた手練れだ。一瞬でも怯めば、首が飛ぶぞ」
【緊急クエスト:神都潜入者の排除】
【難易度:D / クリア報酬:階級+2、銅貨100枚】
【警告:死亡した場合、デスペナルティにより階級が減少します】
視界に飛び込んできた、真っ赤なシステムウィンドウ。
絶対に安全だと言われていた都の、その足元で、突如として始まったリアルな戦いの予感。
僕は腰の安物の鉄剣の柄を握りしめた。手のひらにじっとりと汗がにじむ。
恐怖はある。だが同時に、僕の心の奥底で、現実世界では決して味わえない、猛烈な興奮の炎がパチパチと音を立てて燃え上がり始めていた。
「……剣斗、行きます」
僕は一歩、前に踏み出した。サバ読みの一九歳ではなく、一四歳の阿久津優亜としての、本当の冒険がここから始まるのだ。




