『新宿2丁目高等学校BL部』臨時心霊写真部。
「……おい、本当にこれで心霊写真なんて撮れるのかよ?」
時刻は深夜零時。放課後……ではなく、完全な夜の闇に包まれた学園の屋上。……ではなく、フルダイブVR空間『ヴァーチャル・ダイブ』内に構築された特設フィールド――『旧・新宿総鎮守 幻影墓地』。
専用VRヘッドギア『フルダイブ・バルブ』を装着することで、感覚のすべてを仮想空間へと転送し、望んだ世界で望んだ体験ができる最高峰のVRシステム。
今回の企画の発案者は、『新宿2丁目高等学校BL部』の部長にして、学園一のカリスマ・**皇 陸斗**だ。
「ふっ、甘いな龍二。このVR空間はただの映像じゃない。恐怖心による心拍数の上昇、発汗、果ては霊的波長の同期によって、怪奇現象がリアルタイムでレンダリングされる最新システムなんだよ」
腕を組み、不敵な笑みを浮かべる陸斗の横で、幼馴染の**黒崎 龍二**が「やれやれ」と溜息をつく。
今日のBL部の活動テーマは臨時の『心霊写真部』としての肝試し大会。 舞台となるバーチャル墓地で「2人1組」となり、最も恐ろしく、そして“最高の撮れ高”を誇る心霊写真を撮ってきたペアが優勝というルールだ。
集まったのは、癖の強すぎるBL部員10人の男子生徒たち。 陸斗が掲げた箱からくじを引き、決定したペアは以下の5組だった。
皇 陸斗 & 黒崎 龍二(俺様部長×ツンデレ幼馴染ペア)
綾小路 蓮 & 桐生 陣(ミステリアス生徒会長×強面ド直球後輩ペア)
白咲 ゆう(しろさき ゆう) & 柴田 健斗(あざと系美少女男子×大型犬系脳筋ペア)
速水 薫 & 浅比 奈ゆづる(あさひな ゆづる)(メガネ冷徹眼鏡×ギャル系男子ペア)
神宮寺 葵 & 影山 零(オカルトマニア×影の薄い気弱男子ペア)
「各ペアに渡されたVR専用カメラ(ガジェット)で撮影してもらう。五感フィードバックは『軽度のショック体験』まで許可してある。……いいか野郎ども、心霊写真の精度だけじゃなく、コンビネーション(意味深)も見せつけてみろ!」
「「「「うおーーーっ!!」」」」
男たちの暑苦しくも怪しい熱気が、不気味な墓地に響き渡る。 かくして、真夜中のバーチャル墓地を舞台にした、ドキドキとハプニングだらけの心霊写真撮影大会が幕を開けた。
第二章:闇に蠢く影と、密着する鼓動
【第1ペア:ゆう & 健斗】
「健斗く〜ん、あそこ……なんかゆらゆら揺れてて怖いよぉ……っ」
フリルのついた萌え袖で顔を隠しながら、あざとさ100%で怯えてみせるのは1年生の白咲ゆう。対する健斗はラグビー部兼任の超がつくガチムチ脳筋男子だ。
「だ、大丈夫だぞゆう! 俺がついてるからな! 幽霊なんてタックルで吹き飛ばしてやる!」
鼻息を荒くする健斗だったが、足元から突如としてヌッと生えてきた腐った手首に足首を掴まれた。
「うわああああっ!? な、なんだこれぇぇっ!?」
「ひゃああああっ! 健斗くん助けてぇ!」
パニックになったゆうは、健斗のたくましい胸板に全力で飛びついた。 ドスンと響くインパクト。VRとはいえ、相手の体温や力強い鼓動がダイレクトに伝わってくる。
「ぐはっ……! ゆう、近い……っ! お前、すげえいい匂いするな……じゃなくて!」 「健斗くんのバカ! 早く撮ってぇぇぇ!」
「お、おうっ!」
健斗は鼻血を吹き出しそうなのを必死で耐えながら、抱きついたままの状態でカメラのシャッターを切った。
【パシャリ!】
出来上がった写真には、健斗の首元に泣きじゃくりながらしがみつく美少年ゆうと、その背後にバッチリ映り込んだ泥だらけの怨霊の顔。 ……心霊写真というよりは、ただの「絶体絶命の抱擁ショット」であった。
【第2ペア:薫 & ゆづる】
「ハァ? マジで意味わかんないんだけど〜。なんでウチがこんなジメジメした墓場で撮影しなきゃなんないの? マジ勘弁〜」
爪の手入れをしながら文句を言うのは、派手めなギャル系男子のゆづる。 その隣で、黒縁メガネを押し上げながら冷ややかにポラロイド型カメラを構えるのは、図書委員長の薫だ。
「静かにしなさい、ゆづる。無駄な言動は心霊プログラムの感度を下げる。……それと、その露出の多い服はどうにかできないのか。視界に入って集中できない」
「は? これがウチのトレンドだし! 薫先輩こそ、さっきから脚プルプル震えてない? もしかしてビビってんの〜?」
「ふ、不吉な発言はやめなさい! 私は論理的思考に基づき……っ!?」
突如、墓石の陰から首がズロロと伸びた『ろくろ首風の女の生首』が飛来した。
「ヒッ……!?」
クールを装っていた薫の膝がガクガクと崩れ落ちる。 すかさずゆづるが薫の腰をガシッと抱きかかえた。
「うわっ、先輩危な! 意外と軽いじゃん!」 「なっ……な、何をする! 離しなさ――」
「はいはい、口閉じて! 映え狙うよー!」
ゆづるは薫の頬に自分の頬をぎゅっと寄せ、インカメラで自撮りモードに切り替えた。
【パシャリ!】
写真には、超至近距離でバッチリキメ顔を作るゆづると、赤面して目を丸くしている薫、そして二人の背景で完全に空気と化して背景にボヤけている生首が収められていた。
「ゆ、ゆづる……君という男は……っ!」 「え〜? めっちゃ盛れてるじゃん! ほら、次行こ〜!」
【第3ペア:葵 & 零】
「素晴らしい……! この墓地エリア、怪異のレンダリング密度が通常の120%を超えている……! 見ろ影山くん、あそこの井戸から滲み出ている歪んだ怨念のオーラを……!」
重度のオカルトオタクである葵は、一眼レフ型のカメラを構えて大興奮していた。 一方、クラスで最も存在感が薄い気弱な少年・零は、ガタガタと震えながら葵の服の裾を掴んでいた。
「あ、神宮寺くん……もうやめようよぉ……。僕、なんか寒気がしてきたよ……」
「何を言っているんだ! 心霊写真とは、己の精神を異界と同調させてこそ極上の1枚が撮れるのだ! さあ、あの井戸の覗き込みを試みるぞ!」
葵がズカズカと井戸へ歩み寄ると、案の定、井戸の中からドロドロとした血塗れの髪の毛が伸びてきた。
「キタキタキタぁーーーっ! 最高のアングルだ!」 「ひいぃぃぁぁぁっ! 神宮寺くん危ないっ!」
零は火事場の馬鹿力で葵を突き飛ばし、自分が代わりに髪の毛に絡め取られて井戸の中へと引きずり込まれそうになる。
「影山くん!?」
葵は咄嗟に零の手を掴んだ。 華奢に見えた零の手は、驚くほど冷たく、そして力強く握り返してきた。
「神宮寺くん……僕を置いていかないで……っ!」 「くっ……離すものか! 君のような素晴らしい被写体を失ってたまるか!」
引っ張り合うふたり。 井戸から引き揚げた勢いで、零は葵の上に重なるようにして倒れ込んだ。 月光の下、乱れた髪の間から覗く零の濡れた瞳に、葵の心臓が不自然なほど大きくドクンと跳ねた。
「……影山、君……そんな顔もできるのか……」 「え……? あ、ご、ごめんなさいっ!」
【パシャリ!】
転んだ弾みで勝手に切れたシャッター。 撮れたのは、井戸から溢れ出る怨霊の群れをバックに、押し倒し押し倒されるような格好で互いを見つめ合う、あまりにも劇的なサスペンスBL風の1枚だった。
第三章:生徒会長の秘密と後輩の直球
【第4ペア:蓮 & 陣】
一方、墓地エリアの最奥にある『無縁塚』と呼ばれる高難易度ゾーンを進んでいたのは、生徒会長の綾小路 蓮と、空手部所属の後輩・桐生 陣だ。
「会長、足元に気をつけてください。俺が前に出ます」
大柄な体を揺らし、先陣を切る陣。凛とした美貌を持つ蓮は、薄く微笑みながらその背中をついていく。
「ふふ、頼もしいね陣。でもあまり無理はしないで私を守ることに集中しなくてもいいんだよ?」
「いいえ! 会長に傷一つつけさせるわけにはいきません! 俺は……会長のSPのつもりでここに来てますから!」
真面目一 disposable(一筋)な陣の言葉に、蓮はくすりと笑う。 だが、その時――。
『ゴォォォォォン……』
不気味な寺の鐘の音が響き渡り、周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。 無縁塚の墓石群が一斉に砕け飛び、中から巨大な『怨念の巨人』が姿を現したのだ。
「オオオオオオオオン……!!」
「くっ、システム上のボスか……! 一旦引くぞ、陣!」
「会長、下がってください! 俺が時間を稼ぎます!」
陣は空手の構えをとるが、巨人の振り下ろした拳が巻き起こす風圧で吹き飛ばされ、崩れた墓石の隙間に押し込められてしまった。
「うぐっ……!?」
「陣!」
蓮が駆け寄り、陣の体の上に覆いかぶさるようにして倒れ込む瓦礫から彼を庇った。 狭い岩の隙間。完全に密着した状態。 陣の目の前には、息をのむほど美しい蓮の顔があった。
「会長……無事ですか……?」
「私は平気だ。それより君は……っ!」
蓮の言葉が止まる。 陣の大きな手が、蓮の頬に優しく触れていたからだ。
「よかった……会長が無事なら、俺はどうなったって……」
「バカなことを言うな! 陣……君が傷つくくらいなら、私だって……!」
いつもは完璧でミステリアスな生徒会長が見せた、弱さと情熱。 陣の瞳に火が灯る。
「会長……俺、やっぱり――」
【パシャリ!】
「あ」
巨人の追撃をかわしながら、偶然カメラのタイマーが作動した。 暗闇の隙間、互いの吐息を感じるほどの至近距離で見つめ合うふたり。その背景で、絶叫しながら崩れ落ちる巨人の影。 芸術的とも言える、美しすぎるハプニングショットが誕生していた。
第四章:最恐の罠と絶対王者の激動
そして、最後のペア――陸斗と龍二。
ふたりが進むのは、管理人の屋敷とされる『廃洋館エリア』。 この企画の主催者である陸斗は、カメラを手に余裕の笑みを浮かべていた。
「どうだ龍二。俺とこうして真夜中のデート(仮)を楽しむ気分は?」
「誰がデートだ誰が! 早く写真を撮って戻るぞ。……なんかここ、雰囲気がヤバすぎる」
龍二は学ランの襟を正しながら、警戒露わに周囲を見回す。 幼馴染の陸斗に対しては常にツンツンしている龍二だったが、本当は誰よりも陸斗の強引さに惹かれている自分を自覚していた。だからこそ、こうした二人きりの空間は心臓に悪い。
「ほら、龍二。そんなに固くなるなよ。ほら、手でも繋ぐか?」
「ふざけんな! 誰が繋ぐかっ……うわああっ!?」
床が突如として抜け落ちた。
「龍二!」
陸斗は咄嗟に手を伸ばし、落下しかけた龍二の腕を掴んだ。 だが、システムの重力処理によって二人まとめて地下の密室へと転落していく。
ドシン!!
「痛てて……。おい龍二、怪我はないか!?」
「あたた……俺は平気だ……って、陸斗!?」
二人が落ちたのは、四方を不気味な鏡で囲まれた『鏡の間』だった。 そして、その鏡の一枚一枚に、ドロドロに溶けた顔の不気味な怪異が映し出されていた。
『イケニエ……イケニエヲ……チョウダイ……』
鏡から一斉に抜け出てくる怨霊の手。
「くそっ、囲まれたか……!」
陸斗は龍二を自分の背中に庇い、カメラを構える。だが、数が多すぎる。 VRとはいえ、触覚フィードバックによる怪異の恐怖圧は本物だ。龍二の体が、陸斗の背中に押し付けられ、震えているのが伝わってきた。
「……陸斗」
「安心しろ龍二。俺が絶対に逃がしてやる」
「違う! 逃げるんじゃねえ!」
龍二は陸斗の服を強く引っ張り、自分の方へと振り向かせた。
「お前……俺を庇ってばっかりで、自分が楽しめてねえだろ! BL部の部長なら……もっと俺を巻き込んで、格好つけろよ!」
「龍二……」
龍二の真っ直ぐな瞳。強がりで、ツンデレで、けれど誰よりも自分を信じてくれている幼馴染。 陸斗の胸の中に、恐怖を吹き飛ばす熱い感情が湧き上がった。
「……ふっ。言わせておけば、最高の台詞をくれるじゃないか」
陸斗は龍二の腰を抱き寄せ、グッと自分の方へ引き寄せた。
「なっ……!? 陸斗、お前何を――」
「最高の心霊写真、撮ってやるよ。俺たちの『愛』で怪霊どもを撃ち抜いてな!」
「はぁぁぁっ!?」
陸斗は怨霊が襲いかかってくる絶妙のタイミングで、龍二の額に力強く自分の額を押し当てた。 視線が絡み合い、互いの体温が爆発的に交差する。
【パシャリ! パシャリ! パシャリ!】
フラッシュの連光! 光の渦とともに、撮影された「強い絆の波動」に耐えかねた怨霊プログラムが、次々と消滅していく。
「撮れたぞ、龍二! 最強の1枚だ!」
「〜〜〜〜っっ! 額じゃなくて、普通に撮れよバカ陸斗ぉぉぉっ!!」
真っ赤になった龍二の叫び声が、弾ける光の中に響き渡った。
第五章:審議と最高の1枚
『タイムアップ! 全ペア、撮影終了! リザルトルームへ転送します』
システムのアナウンスとともに、10人の意識は明るいイベントホールへと転送された。 そこには、各ペアが撮影してきた心霊写真が巨大なモニターに映し出されていた。
ゆう&健斗ペア:抱きつき絶叫心霊写真(破壊力:★★★★☆)
薫&ゆづるペア:超盛れギャル自撮り&気絶寸前メガネ写真(破壊力:★★★☆☆)
葵&零ペア:井戸端床ドンサスペンス写真(破壊力:★★★★☆)
蓮&陣ペア:崩落現場の情熱的アプローチ写真(破壊力:★★★★★)
陸斗&龍二ペア:怨霊を浄化する額コッツン熱愛写真(破壊力:測定不能)
「さあ! 厳正なる審査の結果、優勝ペアを発表する!」
陸斗が壇上でマイクを握る。
「優勝は……甲乙つけがたいが、最も恐怖と“萌え”の融合を果たした、蓮&陣ペアだ!!」
「「おおおおおーっ!!」」
拍手が巻き起こる。
「えっ、俺たちですか!?」と驚く陣と、「ふふ、ありがとう」と優雅にお辞儀をする蓮。
「ちょっと陸斗! 自分たちの写真が一番恥ずかしいからって逃げたでしょ!」と抗議するゆづる。 「いや、あれは色々と線引きを超えているから除外で正解だ……」と遠い目をする薫。
「まあまあ! みんな最高に良い体験ができたじゃないか!」 陸斗は満足そうに笑うと、隣に立つ龍二の肩をガシッと抱き寄せた。
「おい離せ陸斗! 現実に戻ったら覚えてろよ!」 「ハハハ! VRの余韻は現実まで持ち越すのがBL部のルールだろ?」
「そんなルールねえよ!」
現実世界の『新宿2丁目高等学校BL部』の部室。 ヘッドギア『フルダイブ・バルブ』を外した10人の男子生徒たちは、互いの顔を見合わせて一斉に笑い出した。
窓の外には、夏の夜空に輝く満月。 仮想空間の恐怖と、現実で深まった熱い絆。 彼らの怪しくも賑やかな夏の夜は、まだまだ明ける気配を見せないのだった。




