『新宿2丁目高等学校BL部』臨時でラグビー部!タッチダウンで昇天する。
秋晴れの空は恐ろしいほどに青く高かった。 新宿2丁目高等学校のグラウンドは、普段であれば放課後の柔らかな日差しを浴びながら、園芸部が育てたバラの香りを漂わせているか、あるいは軽音部が奏でる甘いメロディに包まれている場所だ。 しかし今日、この地に異様な緊張感と、どこか不釣り合いな甘やかで芳醇な熱気が立ち込めていた。
「ねえちょっと……あのユニフォーム、生地が薄すぎない? 胸元も開きすぎじゃないかしら……!」 「何を言ってるのよレイジ! ラグビーっていうのはね、男と男の魂のぶつかり合いなのよ! 汗と筋肉の美学! この超Vネックの特注ジャージこそが、私たちの闘志の現れなの!」
そう叫んで己の胸筋を誇らしげに強調したのは、新宿2丁目高等学校「BL部」の部長、一条カオル(3年・自称:可憐な総受け)である。 彼らが身に纏うのは、校章の代わりに真っ赤なバラが刺繍された、体にぴったりとフィットするストレッチ素材の特注ラグビージャージ。ボトムスに至っては、グラウンドの風を直接感じられるほどのハイレグ仕様である。
事の始まりは三日前。校内の体育系部活がインフルエンザで壊滅状態に陥る中、隣町の硬派で知られる「黒鉄工業高校ラグビー部」から練習試合の申し込みがあったことだった。断れば廃部の危機と校長に泣きつかれたBL部一同は、部存続の危機を脱するため、そして何より**「合法的にガチムチな男子高校生たちと身体をぶつけ合える」**という邪心満載の下心をもって、臨時ラグビー部を結成したのである。
「部長……相手の黒鉄工業の人たち、みんな体が丸太みたいですよ……? 僕、あんな大きな人たちに組み付かれたら、色んな意味でバラバラになっちゃいます……」
オドオドと膝を震わせているのは、1年生マネージャー兼部員のミチル。華奢な体躯に大きすぎるヘッドギアをちょこんと乗せた姿は、まるで子リスのようだ。
「甘いわよミチルちゃん!」 副部長の真壁(3年・ドS攻め担当)が、眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせながらミチルの肩を抱いた。 「いい? ラグビーの基本は『一人はみんなのために、みんなは一人のために(One for all, All for one)』。でも私たちのルールは違う。『一人は男のために、男は私たちのために』よ! タックルされたら、そのまま相手の胸板に顔を埋める! モールで揉みくちゃになったら、さりげなく相手の腹筋の数をカウントする! これが勝利へのトライ(昇天)よ!」
「「「「おーっ!!!」」」」
BL部員10名の雄叫びが秋空に響き渡る。 そこに、地面を揺らすような重厚な足音が近づいてきた。
「おいおい……マジかよ。あいつらが今日の相手か?」
現れたのは、黒鉄工業高校ラグビー部の面々だった。平均身長180センチオーバー、体重は全員90キロ近い。日焼けした肌、鋭い眼光、そして分厚い胸板。まさに男の汗と泥を煮詰めたような、硬派を絵に描いたようなラガーマンたちだ。 主将の剛田(3年・無骨なフォワード)が、BL部の面々を見下ろしながら眉をひそめた。
「新宿2丁目高校BL部……噂には聞いていたが、なんだその格好は! ラグビーを舐めているのか!」
剛田の威圧感あふれる一喝。だが、カオル部長の瞳には、それが恐怖ではなく至高の「ご馳走」として映っていた。
「あら嫌だ、剛田キャプテンったら、声が低くて素敵……! 舐めてなんてないわよ? 私たち、今日は全身全霊であなたたちを『受け止める』覚悟で来てるんだから。ね、みんな?」
「はいっ! 優しくしてくださいね!」 「手加減は無用です! でも、抱きしめる時は力強くお願いします!」
口々に叫ぶBL部員たち。黒鉄工業の部員たちは、未だかつて経験したことのない恐怖に直面し、一歩退いた。
「な、なんだこのアウェー感は……! 怯むな野郎ども! 相手がどんな奇策を使おうと、俺たちのラグビーは変わらん! 圧倒的なパワーで潰すぞ!」 「「「おー!!」」」
審判(体育の教師・事態を全く把握していない)が笛を口にくわえた。 ピィィィィィッ!
新宿2丁目高校BL部対黒鉄工業高校、下心と硬派が激突する地獄の(あるいは天国の)練習試合が、今キックオフされた!
第二章:ファーストコンタクトは密着の香り
試合開始の笛とともに、黒鉄工業のキッカーが楕円形のボールを高く蹴り上げた。 ボールはきれいな弧を描いて、BL部の陣地に落ちてくる。
「キャッチするのは私よーッ!」
カオル部長が優雅なバレリーナのようなジャンプでボールをキャッチした。しかし、ラグビーはボールを持った瞬間に相手の標的となるスポーツである。 正面から、黒鉄工業の巨漢フランカー・岩鉄がダンプカーのような勢いで猛チャージをかけてきた。
「死ねぇぇぇッ! ド派手にタックルだぁぁ!」 「きゃああっ! 来たわぁぁぁん!」
ドガッ!!!
すさまじい衝撃音がグラウンドに響き渡る。岩鉄の分厚い肩が、カオルの腰元に完璧なフォームで突き刺さった。本来ならば激痛に絶叫し、地面に叩きつけられる場面である。 しかし、カオル部長は違った。
「あんっ……! なんて力強いタックル……! 固い胸板……っ!」
カオルは倒されながらも、岩鉄の首骨に両腕を回し、まるで映画のワンシーンのように相手を抱き寄せた。二人は芝生の上をゴロゴロと転がる。
「なっ……!? お前、なんで抱きついて……ぐっ!?」 「離さないわ……! あなたの心臓の鼓動、私にダイレクトに伝わってる……っ! これがラグビーの、身体と身体のぶつかり合いなのね……!」 「ひっ……離せ! 審判、これノット・リリース・ザ・ボールじゃないですか!?」
岩鉄が青ざめた顔で審判にアピールするが、カオルはうっとりと目をつむり、岩鉄の胸元に頬をすり寄せていた。
「審判! 彼は私を力強く抱きしめてくれたの! これは反則ではなく、愛の証明よ!」 「ち、ちがう! こいつが離さないんだ!」
審判は首をひねりながら、「プレイオン(続行)!」と叫んだ。
ボールが地面に転がる。それを見たBL部副部長の真壁が、不敵な笑みを浮かべた。
「フフフ……スキありだ!」
真壁は素早くボールを拾うと、相手のディフェンスラインへと走り出した。目の前に立ち塞がったのは、黒鉄工業のウイング・佐藤(2年・ウブな美少年ラガーマン)。
「止め、止めるぞ!」 佐藤が両手を広げて真壁に立ち向かう。真壁はフッと息を漏らすと、佐藤の直前で急ストップし、至近距離で佐藤の瞳を覗き込んだ。
「いい目だ……。純粋で、まっすぐで……壊したくなる」 「えっ!?」 「君のタックル、僕の全身で受け止めてあげるよ。さあ、おいで……!」
真壁は両腕を広げ、無防備な姿で佐藤を迎え入れた。 佐藤はパニックになり、「うわぁぁぁ!」と叫びながら真壁の胸に飛び込んだ。二人はもつれ合うようにして地面に倒れ込む。
「ふふ……いいタックルだ。でも、甘いな」 真壁は倒れた姿勢のまま、佐藤の耳元で低く囁いた。 「君の吐息が、僕の首筋にかかっているよ……」 「ひゃんっ!?」
佐藤はまるで電気ショックを受けたかのように跳ね起き、真っ赤な顔で耳を押さえた。
「な、なにをするんですか! 変な声出ちゃったじゃないですか!」 「ハプニングは試合の醍醐味さ。さあ、次の攻防を楽しもうか」
黒鉄工業の選手たちは混乱に陥っていた。 タックルをするたびに、相手から歓声や吐息、あるいは甘い囁きが返ってくるのだ。普段の泥臭い試合とはあまりにも違いすぎる精神的攻撃に、彼らの剛健な肉体と精神は急速に削られていった。
第三章:密接! モールとスクラムの官能美
「落ち着けみんな! 惑わされるな!」 主将の剛田が声を張り上げる。 「奴らはラグビーの素人だ! 正攻法のパワーで押し潰せば勝てる! 次はスクラムだ!」
審判の合図で、両チームのフォワード陣が集まった。 ラグビーにおけるスクラム。それは、両チームの男たちが肩を組み、頭を突き合わせ、数トンもの圧力をかけ合う、最も肉体的な攻防である。
BL部のフォワード陣(筋肉フェチのタチ担当、細マッチョのネコ担当など様々)が、目をギラギラさせてスクラムの体勢に入った。
「まさか……合法的に男たちと首をすげ替えるように密着できるなんて……」 「あのフォワードの人、太ももの筋肉が素晴らしいわ……」
「エンゲージ(組め)!」
ドスッ!!!
両チームの頭部と肩が激しく衝突した。 黒鉄工業の圧倒的なパワーがBL部を押し込もうとする。しかし、BL部員たちの足は地面に固く根を張っていた。なぜなら、**「押されたらこの密着時間が終わってしまう」**という執念が、彼らに人外の踏ん張り力を与えていたからだ。
「ぐぐぐっ……! なんだこの重さは!? こいつら、全く押し戻せないぞ!」 剛田が歯を食いしばりながら汗を流す。彼の顔のすぐ横には、カオル部長の顔があった。距離、わずか3センチ。
「剛田くん……すごい汗ね」 カオルがハァハァと息を荒らげながら囁く。 「あなたの汗の匂い……嫌いじゃないわ。むしろ、野生の香りがして……クラクラしちゃう……」
「お、お前……! 前を見ろ前を! スクラム集中しろ!」 「集中してるわよ? あなたの肉体にね……! ほら、もっと押してきて! あなたの全力で、私を押し潰してぇぇぇっ!」
「ひぃぃぃっ! 気味が悪すぎるだろこのチーム!」
剛田の精神が限界に達した瞬間、スクラムが崩れた。 地面に雪崩れ込む両チームの男たち。そこはまさに、男と男が入り乱れる混沌の空間であった。
「ああっ! 誰かの手が私のウエストに……!?」 「すみません! 抜けないんです!」 「いいのよ、そのままにして……! ああ、でもそこは感触が……!」 「うわぁぁぁ! 助けてくれ監督!」
審判の笛が鳴る。「コラ! スクラム崩れ! 早く離れなさい!」
しかし、解かれた体勢から立ち上がる黒鉄工業の選手たちは、全員がまるで激しい心理戦を戦い抜いたかのように疲弊し、息を切らしていた。一方、BL部の面々は頬を桜色に染め、目を輝かせて元気に満ちあふれていた。
試合は一進一退(というか、精神攻撃と物理攻撃の押し引き)のまま、いよいよ後半戦の終了間際へと向かっていく。
第四章:試練のラストプレイ! 走れ、愛を抱えて
スコアは 12 対 12 の同点。 残された時間はあとわずか。
黒鉄工業のベンチでは、監督が頭を抱えていた。 「なんという恐ろしい相手だ……! 物理的な攻撃が一切効かないどころか、すべてを快楽に変換している……! だが、我が黒鉄工業ラグビー部のプライドにかけて、負けるわけにはいかん!」
グラウンド上では、最後のラインアウト(サッカーでいうスローイン)が行われようとしていた。
ボールを投げるのはBL部のミチル。 「ぼ、僕……うまく投げられるかな……」
「大丈夫よミチルちゃん!」 後ろからカオルが励ます。 「あなたの投げたボールなら、私たちがどこまでも追いかけるわ! さあ、私たちの愛の結晶を、あのグラウンドの彼方へ放つのよ!」
「はいっ……! えいっ!」
ミチルが投げた楕円のボールは、きれいな放物線を描いて空中へ舞い上がった。 それをめがけて跳躍したのは、黒鉄工業主将の剛田と、BL部副部長の真壁だった。
「このボールは渡さんッ!」 剛田が圧倒的なジャンプ力でボールを叩き落とそうとする。しかし、真壁は空中であえて剛田と体を接触させ、バランスを崩しながらもボールをキャッチした。
「キャッチしたぞ! カオル、受け取れぇぇぇっ!」
地面に落下しながら、真壁はバックパスを放った。 ボールはカオル部長の手元へ。
「受け取ったわ! みんな、私についてきなさい!」
カオルがインゴール(ゴールラインの向こう側)へ向かって猛ダッシュを開始した。 敵のディフェンス陣が立ちはだかる。
「させるかぁぁぁっ!」
黒鉄工業のバックス陣が3人がかりでカオルに襲いかかる。 まさに絶体絶命。しかし、ここでBL部の真骨頂である「絆(下心)」が発揮された。
「部長は行かせないわ!」 「私たちの妄想の力、見せてあげる!」
部員たちが次々とカオルの盾となって敵選手に飛び込んでいく。
「キャッ! 私をタックルするなら、優しく押し倒してね!」 「うわぁっ! 邪魔だ退け!」 「退かないわ! あなたの腕の中で果てるまで!」
次々と倒れていく部員たち。それはまるで、愛する者を先へ進ませるための壮絶な散り際(ただし全員めちゃくちゃ楽しそう)であった。
ついに、残る障害は主将の剛田ただ一人となった。
「最後は俺が止める! 来い、一条カオル!!」 剛田が腰を落とし、完璧なタックル体勢をとる。
カオルは走りながら、自分の胸に手を当てた。 (ああ……なんて素晴らしい男。私の全身の細胞が、あの男に向かって叫んでいるわ。ぶつかり合いたい。彼と、一つになりたい……!)
カオルはスピードを緩めるどころか、さらに加速した。
「剛田くぅぅぅぅん!! 私を受け止めてぇぇぇぇっ!!」 「うおおぉぉぉぉっ!! 止まってくれぇぇぇぇっ!!」
ドォォォォンッ!!!!
本日一番のすさまじい衝突音がグラウンド全体に響き渡った。 カオルの体と、剛田の巨体が激しくぶつかり合う。 二人の汗が飛散し、夕日に照らされてキラキラと輝いた。
剛田の強力なタックルがカオルの体に食い込む。激痛。しかし、カオルの脳内には快楽の物質が溢れ出していた。
「あぁぁぁぁっ……! これよ……これがラグビー……! これが、男と男のロマンなのねぇぇぇっ!!」
カオルは剛田に抱きついたまま、二人でインゴールへとなだれ込んだ。 芝生の上をゴロゴロと転がり、そのままカオルの体が地面に叩きつけられる。
カオルの腕からこぼれ落ちた楕円のボールが、インゴールの芝生の上に静かに接地した。
「タ……タッチダウン(トライ)……ッ!!!」
カオルは天を仰ぎ、うっとりとした表情で叫んだ。
「昇天……ッ(パタリ)」
そのままカオルは、満足感に満ちあふれた笑顔で気を失った。
ピィィィィィッ! ピィッ! ピィィィィィッ!
審判の笛が長々と響き渡る。
「ノーサイド(試合終了)! 17 対 12! 勝者、新宿2丁目高等学校BL部!」
第五章:ノーサイドの誓い
静寂がグラウンドを包んだ。 夕日が真っ赤にグラウンドを染め上げている。
倒れていた剛田が、ゆっくりと体を起こした。 その顔には疲労困憊のの色が濃かったが、どこか清々しい表情でもあった。 隣では、カオルが「はぁ……素敵な夢を見たわ……」と目を覚まそうとしていた。
剛田は立ち上がると、カオルに向かって大きな手を差し出した。
「負けたよ……。俺たちの負けだ」
カオルは目を丸くし、その手を見つめた。
「剛田くん……」
「お前たちのラグビーは……正直、意味が分からんかった。精神的に死ぬかと思った。だが……最後のお前の突進。痛みを恐れず、真っ直ぐに俺に向かってきたあの目……本物だった」
剛田は苦笑いを浮かべた。
「ラグビーではな、試合が終われば敵も味方もない。『ノーサイド』だ。お前たちは立派なラガーマンだよ」
カオルはその手をしっかりと握り返した。剛田の分厚い手のひらの温もりが伝わってくる。
「剛田くん……ありがとう。でもね」 カオルは首をかしげ、いたずらっぽく微笑んだ。
「『ノーサイド』になったってことは……私とあなた、ただの『男と男』になれたってことじゃないかしら?」
「えっ」
「さあみんな! 試合が終わったからには、懇親会よーッ! 黒鉄工業の素敵なラガーマンたちを、心ゆくまでおもてなしするわよーッ!」
「「「「おーっ!!!!」」」」
倒れていたBL部員たちが、まるでゾンビのように一斉に跳ね起きた。 その目は、試合前よりもさらに怪しく、妖艶に光り輝いていた。
「ひっ……! 逃げろ野郎ども! アフターマッチファンクションは辞退だぁぁぁっ!」 「待ちなさいよぉ〜! 逃げる男ほど燃えるのよ〜!」 「待って! 僕のヘッドギア返してください〜!」
赤く染まるグラウンドを、逃げ惑う黒鉄工業ラグビー部と、それを笑顔で追いかける新宿2丁目高校BL部の面々が駆け抜けていく。
身体と身体のぶつかり合い。 それは果てしないロマン。 ハプニングだらけの臨時ラグビー部の挑戦は、こうして甘く、熱く、そしてちょっぴりカオスな青春の一ページとして刻まれたのであった。
(完)




