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『百合色学園GL部』秘密の花園。無人島合宿!

「みなさん! 本日は絶好のサバイバル日和ですわ!」

抜けるような青空と、どこまでも広がるコバルトブルーの海。私立百合色学園の制服を着崩した少女たちが集まっていたのは、港でもキャンプ場でもなく、プライベートヘリのヘリポートだった。

「ねえ薫ちゃん……『無人島に合宿に行く』って聞いてたけど、なんでチャーターヘリなの? しかもサバイバルって……」

天宮さくらは、風にスカートをなびかせながら、隣に立つ西園寺薫に問いかけた。薫は扇子をパッと広げ、高らかに微笑む。

「おーほほほ! ただのキャンプなど、我が百合色学園GL部(Girls Love部、あるいはガールズ・ライフ研究部)の合宿にはぬるすぎますわ! 現代社会の文明を捨て、自然の中で極限状態に陥ったとき……乙女たちの絆はより深く、重く、尊く昇華するのです! これぞ『意図的無人島遭難サバイバル』!」

「遭難を意図的にやるな」

即座に突っ込んだのは、副部長の神崎葵だ。黒髪を揺らしながら冷ややかな視線を送るが、薫の隣に控える専属メイドの小条めぐみは、すでに巨大なサバイバルキット(なぜか銀のスープチュリーンまで入っている)を両手に抱えて頭を下げていた。

「大丈夫でございます、葵様。お嬢様が『遭難したい』とおっしゃられたので、衛星電話とGPS発信機を(お嬢様にバレないよう)完備し、救助艇も沖合10キロに待機させております」

「完全なマッチポンプじゃないの……」

葵は溜息をついたが、すでに部員たちのテンションは最高潮だった。

前部長の白雪恋は、凛々しい男装の鳳凛に腕を絡め、「凛、無人島にはどんな毒草が生えているのかしら? 楽しみね」と微笑み、凛は「恋、変なものは絶対に口にするなよ」と顔を赤くしながら世話を焼いている。

1年生ペアの橘柚子と星野ひかりは、すでに水着に着替える気満々でビーチボールを膨らませており、中等部ペアの黒羽宵と白羽朝は、日傘をさしながら「無人島……古の呪いが眠る場所……」「お姉ちゃん、日焼け止め塗ってあげるね」と独特の空間を作り出していた。

かくして、百合色学園GL部の10人は、2泊3日の「無人島遭難合宿」へと飛び立ったのである。


ヘリから降ろされたのは、周囲数キロほどの無人の離島。白い砂浜と密林が広がる、まさに南国のパラダイスだ。ヘリが去り、風が止むと、波の音だけが響く。

「よしっ! 全員揃ってるわね!」

部長のさくらが、流木の上に立ちあがって宣言する。

「GL部無人島サバイバル、スタート! 目的はただひとつ、2泊3日を無事に生き抜き、絆を深めること! それじゃあまずは基地作りと、食料調達チームに分かれましょう!」

「さくら、張り切るのはいいけれど、まずは日陰を確保しないと熱中症になるわ」 葵が冷涼な声でフォローを入れる。

「ふふ、基地ならお任せくださいませ」 薫が胸を張る。「めぐみ! 例のものを!」

「かしこまりました、お嬢様」 めぐみが取り出したのは、ワンタッチで広がる超大型のミリタリーテント……ではなく、シルク調のピンク地の豪華なグランドシートと、組み立て式のタープだった。

「……遭難の悲壮感がゼロね」と葵が呟く。

作業は分担して行われることになった。

【テント設営&薪集めチーム】 さくら、葵、薫、めぐみ

【食料調達(海)チーム】 柚子、ひかり

【食料調達(森)&探検チーム】 恋、凛、宵、朝

海のハプニング

浜辺では、1年生ペアの柚子とひかりが浅瀬で魚を探していた。 柚子は制服の裾を極限までまくり上げ、モリを手に目を輝かせている。

「ひかり! 見て、あそこに大きな魚が……きゃっ!?」

足をとられた柚子が派手に転倒。勢い余って、後ろにいたひかりを巻き込んで海へ飛び込んだ。

「冷た……! ちょっと、柚子! 急に転ばないでよ!」

濡れネズミになったひかりが怒るが、透けたブラウスと、水に濡れて肌に張り付く髪を見た柚子は、思わず顔を真っ赤にする。

「あ、あのさ……ひかり……なんか、その……すごく、かわいいというか……」

「な、何言ってるのよバカ! 水着に着替えてからやればよかったのに……もう!」

ひかりは照れ隠しに柚子へバシャバシャと水をかける。二人は結局、魚を突くのも忘れて水鉄砲ならぬ水掛け合いっこを始め、甘酸っぱい空間を作り出していた。

森の怪事

一方、鬱蒼とした森の中を進むのは恋、凛、宵、朝の4人。

「恋、足元に気をつけろ。根っこが出ている」 凛が恋の手をしっかりと握りしめる。恋はくすくすと微笑んだ。

「ありがとう、凛。でも大丈夫よ。ほら見て、このキノコ……とっても綺麗な紫色。きっと食べたら素敵な夢が見られるわ」

「絶対食べるな! 毒キノコの典型的な色だろうが!」

凛が必死に止める横で、中等部の宵がボソリと呟く。

「……感じるわ。この木々の隙間から……私たちを見つめる、無数の視線を……」

「お姉ちゃん、それはただのフナムシだよ。気持ち悪いから踏みつぶそうか?」 朝が真顔でエグいことを言う。

「……違う。これは、この島に散った哀しき乙女たちの霊……」

宵が怪しげな儀式を始めようとした瞬間、森の奥から「ガサガサッ!」と大きな音が響いた。

「きゃああっ!?」

凛が真っ先に恋を抱きかかえ、身構える。 現れたのは——大きなウミガメだった。産卵のために陸に上がっていたらしい。

「まあ、可愛いお客様ね」 恋が微笑むと、凛は赤面して恋を降ろした。「お、脅かすなよな……」

こうして、各チーム(遊んでいた者もいたが)それなりに獲物を持ち寄り、夜を迎えることとなった。


日が沈むと、無人島は完全な闇に包まれた。 だが、GL部のキャンプ地は、めぐみが起こした美しい焚き火と、薫が持参したランタンの明かりで暖かく照らされていた。

夕食は、めぐみが流木と鉄板で見事につくりあげた「野草と魚介のムニエル(隠し味:薫の持参した高級ハーブ塩)」。サバイバルとは思えない豪華さである。

「う〜ん! 美味しいっ! めぐみちゃん、お嫁さんにしたい!」 さくらが口いっぱいに魚をほお張りながら叫ぶ。

「さくら、行儀が悪いわ。口を開けて喋らないの」 葵がナプキンでさくらの口元を拭いてあげる。

「えへへ、葵ちゃん優しい〜」

「……別に、汚いから拭いただけよ」 顔を背ける葵の耳が赤いのを、部員全員が見逃さなかった。

食事が終わり、波の音を聞きながら夜が更けていく。 ランタンの光の下、誰かが言った。

「ねえ……せっかくの無人島の夜だし、サマー合宿っぽいことしない?」 柚子が提案する。

「サマー合宿っぽいこと……? 枕投げか?」と凛。 「ここはテントですわ。枕などありません」と薫。

そこで宵が、暗闇の中からスッと一本の木の枝を取り出した。

「……王様ゲーム。闇の契約のもと、王の命令は絶対……」

「いいわね! やりましょう!」 さくらが即座に乗っかった。「ルールは簡単! 枝の端にマークがついているのを引いた人が『王様』! 王様は命令できる!」

クジ引きが始まった。 最初の王様は……なんと白雪恋。

「あら、私ですわね」 おっとりとした笑みを浮かべる恋。一番怒らせてはいけない人物が王様になってしまった。

「恋先輩……手加減してくださいね……?」 冷や汗をかく柚子。

恋は顎に手を当て、少し考えてから言った。

「では……『3番』の人が、『5番』の人の膝の上に乗って、耳元で愛の告白をすること」

「「えっ!?」」

番号を確認する部員たち。 手を挙げたのは……

3番:鳳凛(顔面蒼白) 5番:神崎葵フリーズ

「ちょっと待ってくれ恋! 相手は葵だぞ!?」 「私も辞退したいのだが……!」

「王様の命令は絶対ですわ〜?」 恋がにっこりと微笑む。その笑顔には一切の反論を許さない圧があった。

凛は腹をくくり、葵の前に膝立ちになった。葵も腹をくくり、自分の膝を叩く。

「……失礼する、葵」 「……早く済ませて」

男装の麗人・凛が、クールな副部長・葵の膝の上にチョコンと乗る。シュールすぎる光景に、周囲は息を飲む。

凛は顔を真っ赤にしながら、葵の耳元に顔を近づけた。

「……葵。お前のその、いつも冷静で……部を支えてくれているところ……嫌いじゃないぞ」

「……っ!!」

葵の顔が爆発したように真っ赤になる。 「り、凛……! あんた、真面目な顔で言うんじゃないわよ!」

「言わされたんだよ! 恋、これで満足か!?」

「ふふ、ごちそうさまでした」 恋は満足そうに微笑んだ。横でさくらが「葵ちゃんが浮気したー!」と騒ぎ、朝が「お姉ちゃん、私にも耳元で告白して」と宵にねだり、現場はカオスと化した。

その後も王様ゲームは続き、 「柚子がひかりにアーンしてあげる」 「薫様がめぐみに『いつもありがとう』と抱きつく(めぐみ尊死)」 など、甘いハプニングが続出し、無人島の夜は更けていった。



2日目の朝。 天気予報では晴れのはずだったが、昼過ぎから急速に空が陰り始めた。どんよりとした湿った風が吹き抜け、波が高くなっていく。

「……まずいな。低気圧が接近している。急なスコールが来るぞ」 凛が空を見上げて眉をひそめた。

「みなさん! 一旦テントに退避しましょう!」 さくらの指示で、全員が荷物をまとめ始めたその時——。

「大変です! ひかり様と柚子様が、島の裏側の入江へ貝殻拾いに行ったまま戻られていません!」 めぐみが叫んだ。

「なんですって!?」

ポツリ、と大きな雨粒がさくらの頬を打った。あっという間に激しいスコールが島を襲う。

「私が行ってくる!」 さくらが走り出そうとすると、葵がその腕を強く掴んだ。

「待ちなさい、さくら! 一人で行く気!? 私も行くわ!」

「でも葵ちゃん、雨が……!」

「一人で危険な目に行かせられるわけないでしょ!GL部の副部長として……ううん、あなたのパートナーとして!」

葵の強い瞳に、さくらはコクリと頷いた。 「うん! 一緒に行こう!」

二人は雨の中、島の裏手へと走った。 幸いにも、途中の岩陰で、雨宿りをしていた柚子とひかりを発見した。二人は足をすべらせて軽いくじきを負っていたが、大きな怪我はなかった。

「部長! 葵先輩! ごめんなさい……っ」 涙目の柚子。

「無事でよかったわ。薫たちに連絡して、めぐみちゃんに迎えに来てもらうから、二人はここで待っていなさい」

葵が無線で本隊に連絡を入れ、二人を保護させた。 しかし——その直後、さらに激しい雷雨が襲いかかり、土砂崩れによってさくらと葵の戻るルートが塞がれてしまった。

「きゃああっ!?」

「さくら! こっちへ!」

葵はさくらの手を引き、近くにあった小さな天然の洞窟へと滑り込んだ。

ゴォォォォ……!

外は豪雨と雷鳴が轟いている。 狭い洞窟の中、雨音だけが異常なほど大きく響いていた。

洞窟の中の静寂

二人はずぶ濡れだった。寒さでさくらの体が震える。

「さくら、大丈夫……? 寒いでしょう」

葵は自分の上着を脱ぎ、さくらの肩にかけた。そして、さくらを温めるように、ぎゅっと抱きしめる。

「あ、葵ちゃん……濡れちゃうよ……」

「いいの。私だって濡れてるんだから。……それより、こうしていれば温かいでしょう?」

密着する体温。暗闇の中で、お互いの息遣いと心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。 さくらは葵の胸に顔を埋めた。

「葵ちゃん……」

「何?」

「……私、ちょっと怖かった。嵐もそうだけど……GL部の部長として、みんなをこんな目に遭わせちゃったのかなって」

さくらの声が少し震えていた。いつも明るく振る舞っているさくらの、ふと見せた弱音。

葵は優しく、さくらの頭を撫でた。

「バカね。提案したのは薫だし、誰もあなたを責めたりしないわ。……それに、さくらがいつも太陽みたいに明るくいてくれるから、みんなついて行くのよ。私も……」

「葵ちゃん……?」

葵は少し顔を赤くし、視線を泳がせながら呟いた。

「私も……あなたのその笑顔に、何度も救われてるんだから。だから、自分を責めないで」

「葵ちゃん……っ!」

さくらは感極まって、葵の首に抱きついた。

「大好き! やっぱり私、葵ちゃんが世界で一番大好き!」

「ちょっと、急に抱きつかないで……! 狭いんだから!」

照れて怒る葵。だが、突き放すことはしなかった。 二人は互いの体温を感じ合いながら、嵐が過ぎ去るのを静かに待った。

薄暗い洞窟の中、触れ合う唇と唇の距離は、ほんの数センチまで近づいていたが……。

「さくら様ー! 葵様ー! ご無事ですかー!?」

外からめぐみの声と、重機のエンジン音(薫が救援隊に手配した削岩機)が響き渡り、ロマンチックな雰囲気は見事に打ち破られたのだった。


翌朝。 昨日の嵐が嘘のように、島は抜けるような快晴に包まれていた。

2泊3日の無人島サバイバルも、いよいよ終わりの時間を迎えようとしている。 沖合には、薫の家が手配した豪華クルーザーが停泊していた。

砂浜には、撤収作業を終えた10人の姿があった。

「あーあ、終わっちゃうと寂しいねえ」 さくらが青空を見上げて息を吐く。

「散々な目にあいましたわ……でも、悪くありませんでしたわね」 薫が扇子で優雅に風を送る。隣でめぐみが「お嬢様の日焼けの手入れをせねば」と美顔器を準備している。

「ひかり、足、もう痛くない?」 柚子が心配そうに覗き込むと、ひかりは少し照れながら言った。 「うん、大丈夫。柚子が背負ってくれたおかげ。……ありがとね」 「へへっ、任せといてよ!」

「恋、怪我はなかったか?」 「ええ、凛がずっと守ってくれたもの。でも、あの紫色のおキノコ、一口食べてみたかったわ」 「ダメだと言っているだろう!」

「……無人島……また一つ、闇の記憶が刻まれた……」 「お姉ちゃん、帰ったら一緒にアルバム作ろうね」

それぞれのペアが、それぞれの時間を慈しんでいる。

葵はさくらの隣に歩み寄り、そっと手を繋いだ。

「さくら」

「ん? なに、葵ちゃん?」

葵は遠くの水平線を見つめながら、静かに言った。

「いろいろあったけど……来てよかったわね。GL部の合宿」

「うん! 私、もっとみんなのことが好きになったし、葵ちゃんとの秘密も増えたし!」

「ひ、秘密って何よ……洞窟でのこと?」

「えへへ〜、秘密だから教えなーい!」

さくらはケラケラと笑い、繋いだ手をキュッと握りしめた。 葵も呆れたように溜息をつきながら、握り返す力を強くする。

「全員、乗船の準備が整いましたわ!」 薫の声が響く。

「よーし! それじゃあみんな、GL部無人島合宿、無事終了! 学園へ帰りましょう!」

さくらの号令とともに、10人はクルーザーへと歩き出した。 打ち寄せる波が、少女たちの足跡を優しく消していく。 だが、この無人島で深まった彼女たちの「絆」と「秘密の花園」の思い出は、決して消えることはない。

青い海と空の下、乙女たちの笑い声が、いつまでもどこまでも響き渡っていた。


天宮 さくら(あまみや さくら):高等部2年。GL部部長。太陽のように明るくポジティブだが、お調子者で天然。副部長の葵が大好き。

神崎かんざき あおい:高等部2年。GL部副部長。クールで知的な黒髪乙女。さくらのブレーキ役であり、影の支配者(?)。

白雪しらゆき れん:高等部3年。前部長。おっとり優雅なお嬢様。なぜかサバイバル知識(主に毒物と雑草)に詳しい。

おおとり りん:高等部3年。生徒会長兼任。凛々しい男装の麗人。恋の幼馴染で、彼女の世話を焼くのが日課。

たちばな 柚子ゆず:高等部1年。元気いっぱいの運動神経抜群女子。ひかりと幼馴染で、いつも突っ走る。

星野 ひかり(ほしの ひかり):高等部1年。図書委員兼任のインドア派。柚子に引っ張り回されるが、実はかなり頑固。

黒羽くろばね よい:中等部3年。ミステリアスなゴスロリ少女。オカルト好きで、夜の海で怪談を語りたがる。

白羽しらは あさ:中等部3年。宵の双子の妹。天使のような見た目だが、毒舌。宵のことが大好き。

西園寺さいおんじ かおる:高等部2年。富豪の令嬢。ヘリで無人島に来た張本人。「遭難体験」にあこがれて部活に資金を提供。

小条 めぐみ(こじょう めぐみ):高等部2年。薫の専属メイド兼部員。主人の無茶振りに完璧に応える万能メイド。

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