電脳のエレメンタル・スター
あらすじ
小学生のあかりは、理想の世界を完全生成してくれる最新VR装置を使い、念願の「魔法少女になって異世界に行く」夢を叶えます。彼女が訪れたのは、おやつのプリンの切り分け方で喧嘩をするような、優しくてゆるいモンスターたちが暮らす平和な世界でした。あかりは誰も傷つけない可愛い魔法で彼らを楽しくおしおきし、最後はみんなで特大プリンを分け合って食べます。
「リンク、スタート……って、これで合ってるのかな?」
鈴木あかり(小学生)は、
頭に装着したVRヘッドギア「フルダイブ・バルブ」の
感触を確かめながら、一人自室でつぶやいた。
期末テストも終わり、待望の夏休み。あかりには密かな夢があった。
それは「異世界に行って魔法少女になること」。
もちろん現実にそんな都合の良い話はない。
けれど、最近話題のフル体験型VRゲーム
『ヴァーチャル・ダイブ』なら、その夢を完璧に叶えてくれるというのだ。
あらかじめ設定した「理想のシチュエーション」を
AIが完全生成してくれる機能を使って、
あかりは入念に設定を仕込んでおいた。
『世界観:魔法と冒険の異世界』
『設定:伝説の魔法少女』
『敵:倒しても罪悪感のない、ゆるくて可愛いモンスター』
視界が真っ白な光に包まれ、浮遊感が全身を駆け巡る。
風の匂いが変わった。潮風と、少し甘い花のような香り。
あかりがそっと目を開けると、
そこには見たこともない景色が広がっていた。
見渡す限りの青い空、浮かぶ二つの月、
そしてピンクとエメラルドグリーンに彩られた、
見たこともない植物が生い茂る森。
「すご……! 本物みたい……!」
自分の手を見る。制服姿だったはずの服は、
いつの間にかフリルとレースがふんだんにあしらわれた、
パステルピンクとホワイトの可愛らしいドレスに変わっていた。
髪も少し伸びて、サイドでツインテールにまとめられている。
手元には、先端に大きな星の宝石が嵌め込まれた、キラキラと輝くステッキ。
「私、本当に魔法少女になってる……!」
あかりは思わずその場でくるりと一回転した。
スカートの裾がふわっと広がり、光の粒が舞い散る。
これだ。ずっと憧れていた、アニメで見たあの変身姿そのものだった。
その時、森の奥から草木をかき分ける音が聞こえてきた。
「むにゅ……むにゅ……」
奇妙な効果音とともに姿を現したのは、
体長50センチほどの黄色いモチのような生き物だった。
つぶらな瞳でこちらを見つめ、ぷよぷよと体を上下に揺らしている。
あかりの事前に設定した通り、
実に「ゆるいモンスター」だ。
名札のようなステータス表示には『ポヨン・スライム』と書かれている。
「出たわね、異世界の悪党!」
あかりは右足を少し引き、
ステッキをピシッとポヨン・スライムに向けた。
格好良い決めポーズの予行練習はバッチリだ。
「さあ、おとなしく投降しなさい! さもないと……愛と正義の魔法でおしおきよ!」
ポヨン・スライムは「ぽよ?」と首(と思われる部分)をかしげると、
あかりに向かってのっそりと進んできた。
そのスピードは、歩くお亀さんよりも遅い。
攻撃する気があるのかどうかも怪しいレベルだが、モンスターはモンスターだ。
「行くわよ! 『ステラ・ブラスト』!」
あかりが叫ぶと同時にステッキを振ると、
先端の星から眩いピンク色の光弾が飛び出した。
光弾は空を切って進み、ポヨン・スライムの目の前に着弾する。
バフッ!
激しい爆発音……ではなく、
まるで巨大なクラッカーが弾けたような可愛らしい音とともに、
カラフルな紙吹雪と甘いイチゴの香りが周囲に広がった。
「ぽよ〜〜〜っ!?」
ポヨン・スライムは派手に吹っ飛び、
クルクルと空中で三回転して草むらにポチャンと落ちた。
そして、目を回したマーク(@_@)を浮かべながら、
そのまま「すやすや……」と小さな寝息を立て始めた。
「ふふん、懲らしめてあげたわ!」
あかりはステッキをクルクルと回して胸の前でポーズを決めた。
手応え(というか達成感)は抜群だ。
誰も傷つかない、誰も悲しまない。
これぞあかりの求めていた理想の魔法少女体験だった。
◇
ポヨン・スライムを(優しく)撃退したあかりは、
さらに森の奥へと進んだ。
せっかくのバーチャル体験なのだから、
もっとたくさんのモンスターを「懲らしめたい」という欲が出てきたのだ。
少し歩くと、小さな開けた広場に出た。
そこでは、何やら怪しげな(そしてゆるい)集会が開かれていた。
集まっているのは三種類のモンスターたち。
一つ目は、先ほどのポヨン・スライムの親玉らしき、
少し大きめの紫色のスライム『デカポヨン』。
二つ目は、二足歩行で二頭身の、
段ボールをかぶったような謎の小鬼『ダンボール・ゴブリン』。
手にはプラスチック製のおもちゃの剣を持っている。
三つ目は、コウモリのような羽を生やした、
まんまるな猫のような生き物『ネコバット』。
彼らは円になって座り、
中心に置かれた「大きなプリン」を囲んで何やら揉めていた。
「むにゃむにゃ(俺が一番でかいやつ食べるんだポヨ)!」 「ゴブゴブ(いや、一番年上の俺様が先だゴブ)!」 「シャーッ(ジャンケンで決めろニャ)!」
……どうやら、おやつのプリンの切り分け方で喧嘩をしているらしい。
「見つけたわ! 異世界の平和を脅かす悪の秘密集会ね!」
あかりは木陰から飛び出し、ジャンプして広場の中央に降り立った。
フリルがふんわりと揺れ、足元に魔法陣の演出が広がる。
「待ちなさい、いたずらモンスターたち!」
モンスターたちは一斉にあかりを振り返った。
「ポヨ? 新しいおやつポヨ?」
「ゴブ! なんかキラキラした人間が来たゴブ!」
「ニャー! 邪魔する奴はパンチだニャ!」
ダンボール・ゴブリンがおもちゃの剣を振りかざし、
短い足でテケテケと走ってきた。
ネコバットはパタパタと不器用に空を飛び、
上空から毛玉を落として攻撃してくる。
デカポヨンは「ぬ〜〜っ」と体を膨らませて威嚇してきた。
「ふふ、束になってかかってきても無駄よ! 私の真の力を思い知りなさい!」
あかりは両手を広げ、ステッキを頭上に掲げた。
『ヴァーチャル・ダイブ』のシステムが、
あかりの脳内イメージを読み取り、派手な演出エフェクトを生成していく。
「集いし星の光よ、我が糧となりて悪を打ち払え! エレメンタル・スター・チェンジ!」
あかりの衣服が光を放ち、
パステルピンクから爽やかなスカイブルーのドレスへと、
瞬時に衣装替え(フォームチェンジ)した。
手元のステッキも、水と風の属性を宿した流線型のデザインへと変化する。
「まずはそっちの空飛ぶ猫ちゃんからよ! 『アクア・バブル・シャワー』!」
あかりがステッキを一閃すると、無数の巨大なシャボン玉が湧き出し、
上空のネコバットへ向かって飛んでいった。
「ニャッ!? なんだニャこれ——!?」
ポン、ポン、ポンッ!
シャボン玉に包まれたネコバットは、
そのままふわふわと空中に浮かび上がってしまった。
いくら羽をパタパタさせても、シャボン玉の中ではうまく飛べない。
「ふわ〜〜〜、気持ちいいニャ〜〜……じゃなくて、出せニャ〜〜!」
次は地上のダンボール・ゴブリンだ。
おもちゃの剣を振り回して近づいてくる。
「ゴブー! 突撃ゴブー!」
「遅いわ! 『ウィンド・ステップ』!」
あかりは風の力を借りて軽やかにジャンプ。
ゴブリンの頭上を華麗に飛び越え、背後に着地した。
「えっ、どこ行ったゴブ……あ」
振り返ったダンボール・ゴブリンに向かって、
あかりはニヤリと微笑み、ステッキの先でゴブリンの段ボールを突いた。
「『ペタペタ・フォース』!」
「ゴブッ!?」
魔法の力でダンボールの開口部が自動的に閉じ、
ゴブリンは段ボールの中にすっぽりと閉じ込められてしまった。
中で「出せゴブー! 狭いゴブー!」と暴れているが、
転がる箱の姿はどう見てもコミカルなだけだ。
「残るはあなただけね、デカポヨン!」
あかりは最後に、ドスンと構えるデカポヨンに向き直った。
デカポヨンは不敵な笑みを浮かべ(ているように見え)、
巨体を揺らしてあかりに押し潰し攻撃を仕掛けようとしていた。
「ポヨォォォン!」
「ふふ、大物にはとっておきのフィニッシュを決めてあげる!」
あかりは再びステッキを掲げ、
全身の魔力を練り上げる(イメージをする)。
周囲に星型の光が渦巻き、
BGMが盛り上がるような熱いアニメの主題歌風サウンドがどこからか流れ始めた。
システムが場の盛り上がりを最高潮に引き上げているのだ。
「輝け、乙女の純真! 駆け抜けろ、希望の彗星! 喰らいなさい……『スターライト・メガ・ディザスター』!!!」
あかりが全身全霊で放ったのは、
極太のピンク色と金色が混ざり合った超絶ド派手な光線だった。
光線は地面を削る勢い(演出)で進み、デカポヨンを呑み込んだ。
ドカーーーーーーーン!!!
地響きのような効果音とともに、まばゆい光が広場全体を包み込む。
光が収まった後。
そこには、すっかり小さくなって手のひらサイズ、
(元の10分の1)になったデカポヨンが、
涙目になりながら「ぽよん……」と力なく丸くなっていた。
シャボン玉から解放されたネコバットは、
地面で目を回して「目が回るニャ〜」とゴロゴロ転がっている。
段ボールから抜け出したゴブリンは、
おもちゃの剣を放り投げて「降参ゴブ〜!」と手を挙げていた。
あかりはステッキをチャキンと腰のホルスター
(いつの間にか生えていた)に収め、胸を張った。
「ふぅ……今日も異世界の平和を守っちゃったわね!」
◇
戦闘が終わると、システムメッセージが空中に浮かび上がった。
『クエストクリア! クエスト報酬:特大プリン×1、異世界の平和』
集会の中心にあったプリンが光り、あかりの目の前にふわっと移動してきた。
あかりは膝をつき、
倒れている(というか反省している)ゆるモンスターたちを見つめた。
「あなたたち、もう喧嘩しちゃダメよ? プリンなら、みんなで分け合って食べればいいじゃない」
あかりは魔法で氷のナイフと皿を作り出すと、
特大プリンを四等分にして、小さな皿に盛り付けた。
そして、スライム、ゴブリン、ネコバットの前に置いてあげる。
モンスターたちは顔を見合わせると、嬉しそうに目を輝かせた。
「ポヨ! (ありがとうポヨ!)」
「ゴブー! (美味しそうだゴブ!)」
「ニャ〜ン! (お姉ちゃん優しいニャ!)」
夢中でプリンにむしゃぶりつくモンスターたち。
その姿は、さっきまで「懲らしめた」はずなのに、
まるでペットの飼育日記のようだった。
あかりも自分のお皿のプリンを一口すくって口運んだ。
「ん〜〜〜! 甘くて美味しい! VRなのに味まで完璧だなんて、最新技術って凄すぎる……!」
木漏れ日が降り注ぐ異世界の森で、
魔法少女とゆるいモンスターたちが輪になってプリンを食べる。
なんとも平和で、シュールで、けれど最高に幸せな時間が流れていた。
小学生、鈴木あかり。 日常の不満や不安は、
この最高のバーチャル体験ですっかり吹き飛んでしまった。
「よし、次はもっと強い(そしてもっとゆるい)魔王を倒しに行こうかな!」
あかりは空に向かってステッキを掲げ、爛々と目を輝かせた。
あかりの「異世界魔法少女ライフ」は、夏休みが終わるまでまだまだ続きそうだった。
記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、
もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。
こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。
※短編『S4(エス・フォー)』Scientific Fantasy
※短編ユリン S4 Scientific Fantasy2
先行した2つの作品を読んでいただけますと、
わかりやすい内容になっています。
参考までに気が向いたらご覧ください。
登場人物
〇チェ・ウニョン
天才脳科学者、元高校教師
韓国脳科学会に「性善説でもなく性悪説でもない
『無による無』の論文を出して提唱したが、
女性である事とまだ若い事が遠因となって、
『無による無』は
『成り行き任せの論ずるに値しない学説』として
笑われ、学会を追放されてしまった。
世の中にあがらう事を諦め、
生活の為にソウルの高校にて教師をしていた。
大変な美人だが、脳科学者だけに脳に正直で、
普通の女性よりもほんの少し下品で、
ほんの少しビッチな発言もある。
大韓民国の『国民総教化計画』を阻止すべく、
『水霊』の破壊と『儒林』の消滅をやってのけた。
キム・ソヒョン
アトリエ・ノア会長室室長。
会長佐藤氏志乃の最側近(雑用係とも)
FGS(藤咲化粧品)korea第二営業企画部部長。
総合映像制作会社S.S.I社長ユン・ヒョヌの元恋人。
作家ユン・シウの元恋人。
他者肯定も少なく、
自己肯定も少ないので何かと苦労しがちな女性。
それはチェ・ウニョンの理論『無による無』と通じる素養をもっている。
元恋人のユン・シウは作家なだけに空即是色
(0から創作する )または(何気ない日常がドラマだ)と考える人間なので、
分かり合えるはずがなかったのかも知れない。
参考
※S4(エスフォー)
韓国で開発された超睡眠時学習システム
『Super・Sleep・Studying・Systems』
大韓構想にて国民総教化計画の一環で
表向きは若年世代の教育強化を目指した。
※水霊
韓国で大韓構想を元に開発されたスーパーコンピュータ。
『Super・Sleep・Studying・Systems』の頭脳。
※大韓構想
朝鮮半島の統一を果たした大韓民国が掲げた構想。
「世界で最も優秀で、最も繁栄した国家の構築」
※儒林
水霊の真の最終目標『全脳化計画』。
世界中のPC・タブレット・スマホを『CPU』として、
水霊を実体無くして最強であるものとする計画。
シナプスとして
流星群受信が用いられた。
※樹林
北海道ニセコにて佐藤志乃率いる
Juringエンタが開発したスーパーコンピュータ。
日本メーカーのゲーム機(一応、最高グレード)1万5千台を接続して、
30億円投資して完成させた。
ちなみに名前の由来は、数十年前に佐藤志乃が在籍した、
東京シルフィード歌劇団在籍時の舞台名
『天翔樹林』が元になっている。
(社名のJuringエンターテイメントも同様)
儒林と似ているがまったく関係ないネーミングであった。
表向きは『つぎはぎのポンコツ』とされているが、
実際は日本のフラッグシップ富岳と同等以上の性能を発揮し、
消費電力も3分の1となっており、
投下した資本からするとかなりコスパの良い設備である。
国内で騒がれない為に『山奥のポンコツ』と広めている。
冷却に降雪した雪を使用しており、融けてろ過した水は海外に売却してコストダウンしている。
※流星群受信
Meteor shower signal reception。
米国の富豪が打ち上げた精密な衛星通信網は、
自動帰還するロケットを用い、小型通信衛星を打ち上げるビジネスであったが、
日本のベンチャーがもっと安価に完全使い捨ての格安ロケットにて、
野球の球ほどの通信端末をドラム缶いっぱいに持っていき、
衛星軌道上でぶちまける事によって追い抜いた。
死角無しの衛星通信網である。
無計画に端末をぶちまく為、高頻度で大気圏に落下し、
流れ星が大量にみられる理由から、流星群受信と言われるようになった。
極めて大雑把で安価なベンチャービジネスで構築した、
地球全土を覆う死角なき通信ネットワークのその通信端末は、
現代のスマホが充電スタンドで置くだけで充電できるのと同じ仕組みで、
宇宙に漂う電磁波を表面で吸収し、半永久的に駆動する。




