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『宮女朱華』鳳凰(ほうおう)の揺り籠

あらすじ

高校3年生。高橋ひなの恋は終わっていなかった。

ひなは両親に掛け合い。更なる勉学の頂点を目指す口実で、

『ヴァーチャル・ダイブ』の契約をR15指定から

オールフリープランに変更するよう懇願したのであった。

高校3年生

高橋ひなの恋は終わっていなかった。

大華帝国の宮女となり、皇太子李蓮リレンの妻となった自分。

残念な事に『ヴァーチャル・ダイブ』では、

R15指定の契約でプレイしていた。

あまりにも多幸感を感じてしまい「自我の不測の補完」、

簡単に言えばリミッターが働き、

強制的にあの世界とお別れさせられてしまったのだ。

彼女は『ヴァーチャル』モードから

『スタディー』モードに切り替え、鬼神のごとく受験勉強した。

そして大手予備校グループの全国統一模試に挑んだのであった。

結果全国3位。日本最高学府合格率AAAを獲得した。

ひなはすぐさま両親に掛け合い。

更なる勉学の頂点を目指す口実で、

『ヴァーチャル・ダイブ』の契約を、

R15指定からオールフリープランに変更するよう懇願したのであった。

その様子を各種データから追跡し、

それを把握している人物が遠く離れた北海道にいた。

天才脳科学者であり、『Juringエンタ研究所』所長チェ・ウニョンである。

高橋ひなの脳波データは興味深いものがあった。

当初IQなどは平均的で目立った結果は得られなかったのだが、

その後から、リミッターを振り切る事例が多発したのである。

結果自動的に『自我の不測の補完』対象となってしまったのであった。

チェ・ウニョンの言葉で表現すると、

人類で数少ない『イブを超越した女性』。

つまり旧約聖書では、

人間として女性として人類で最初に誕生したのは、

『イブ』となっているが、

その彼女よりも先に人間として、女性として幸せを感じれた女性。

そのうちの一人に高橋ひなはなれたと定義づけられる。

チェ・ウニョンは研究者として、彼女のその先が知りたくなった。

契約変更に伴い、

データー復帰と再接続の処理をほどこしたのであった。


大極殿たいきょくでんの裏手に広がる、牡丹が咲き誇る東宮の庭園。

若き皇太子・李蓮リレンは、

差し出された茶器を受け取りながら、ふっと美しい唇を綻ばせた。

身分なき平民出身の宮女から、数々の困難を乗り越え、

ついに正式な皇太子妃の座へと登り詰めた朱華。

今の彼女は一国の東宮を支える確固たる伴侶となっていた。


「殿下、本日のお茶は、いつもより少し甘みを足しております。連日の閣僚たちとの政争でお疲れでしょう?」


「フッ、お前には何でもお見通しだな。左相国の一派を排斥したとはいえ、朝廷の狐どもは次から次へと湧いて出る。だが、お前が淹れてくれるこの『銀針ぎんしん』を飲んでいる時だけは、張り詰めた糸が緩むのを感じるよ」


深い蒼の龍袍りゅうほうを纏った李蓮は、茶器を置くと、

朱華の細い手をそっと我が手で包み込んだ。

その手の温もり、確かな熱量は、やはり現実と何の遜色もない。


「朱華、お前が私の傍にいてくれるからこそ、私はこの冷徹な宮廷で正気を保っていられる。お前なしの未来など、やはり私には意味がないのだ」


「殿下……」


見つめ合う二人の間に、心地よい風が吹き抜け、

真珠や翡翠をあしらった朱華の鳳凰の冠がシャラシャラと清らかな音を立てた。

しかし、朱華の胸には、喜びと共に、ある一つの小さな緊張が走っていた。

ここ数日、朝起きるたびに感じる奇妙な体の気だるさと、

お茶の香りに敏感に反応してしまう鼻腔。


(まさか、とは思うけれど……)


ダイブしているこの仮想世界は、五感のすべてが本物として処理される。

日本の高校生としての意識が頭の片隅にありながらも、

この世界での「朱華の肉体」が発しているサインを、

彼女は見逃せなかった。


数日後、東宮お抱えの老御医(宮廷医)が、

震える手で朱華の手首から脈を取った。

李蓮は隣で、今にも剣を抜きそうなほど険しい表情でそれを見守っている。


「……御医、どうなのだ。朱華の体調が優れないのは、何かの病か? それとも、また誰ぞが毒でも盛ったというのか!?」


緊迫した李蓮の声が室内に響く。

かつて暗殺未遂の冤罪をかけられた苦い記憶があるだけに、

彼は朱華の健康に対して異常なほど神経質になっていた。

御医は静かに手を離すと、深く床に平伏した。


「皇太子殿下、お喜び申し上げます。……皇太子妃殿下のご懐妊にございます。脈行は極めて滑らか。間違いなく、新たな御命おのちが宿っておられます」


「な……」


李蓮の動きが完全に止まった。

あの冷徹で、どんな政敵の前でも眉一つ動かさない皇太子が、

クラスの男子のように呆然と口を開けている。


「殿下?」


朱華がそっと声をかけると、李蓮は弾かれたように彼女を抱きしめた。

その腕の力強さは、これまでのどんな抱擁よりも熱く、

そしてどこか震えていた。


「朱華! 本当か……私と、お前の、子供が……?」


「はい、殿下。私の中に、小さな命が確かに息づいています」


「ああ、天よ……! これ以上の幸福があろうか。私は必ず、この子を守る。お前と、この国を継ぐ我が子を、命に代えても守り抜いてみせる!」


滅多に感情を爆発させない李蓮が、子供のように大喜びし、

朱華の額や頬に幾度も口づけを落とした。

東宮の宮女たちも涙を流して崩御を祝い、

その日の東宮は、まるで国中のお祭りが集まったかのような歓喜に包まれた。

しかし、朱華の心の奥底には、冷ややかな現実の意識が、

警鐘を鳴らすように頭をもたげていた。

ここは後宮。一国の皇太子の正妻が、平民の身分から這い上がり、

さらに世継ぎとなる第一子を身籠ったのだ。

これが何を意味するか、歴史ドラマの知識を持ち、

この宮廷の恐ろしさを身を以て知っている彼女には、

痛いほど理解できていた。


「……喜ぶのは、まだ早いわね」


朱華は静かに、まだ平らなお腹に手を当て、自らの心を鋼のように引き締めた。



皇太子妃懐妊の報せは、

瞬く間に紫禁城しきんじょうの隅々にまで行き渡った。

皇帝は大いに喜び、東宮へ山のような祝い品と

、厳重な警護の兵を送り込んできた。

しかし、光が強くなればなるほど、その影に潜む闇もまた、

深く、濃くなっていく。


「平民上がりの小娘が、皇太子妃の座に収まるだけでも忌々しいというのに、まさか世継ぎまで身籠るとはな」


豪奢な装飾が施された西宮の一室。

格式高い貴族の出身であり、

皇帝の寵愛を受ける高級妃のひとり、麗妃れいひは、

美しい爪を噛みながら冷酷な声を漏らしていた。

彼女の背後には、朝廷で今なお根を張る有力貴族たちの思惑が蠢いている。

大華帝国において、皇太子の第一子は、

将来の皇帝となる可能性が最も高い「至宝」である。

それが、後ろ盾を一切持たない朱華から生まれるということは、

既存の貴族たちにとって、自らの権益を根底から覆される脅威に他ならなかった。


「麗妃様、すでに東宮の食事や衣服は、皇太子殿下の息がかかった者たちで厳重に管理されております。直接の手出しは容易ではございませぬ」


側近の宮女が耳元で囁く。


「ふん、力任せに毒を盛るなど、三流のすること。あの娘を精神的に追い詰め、自滅させる方法はいくらでもある。まずは、あの『孤立無援』の恐怖を思い出させてやりましょう」


数日後、朱華のもとに、後宮の妃嬪ひひんたちが集まる

「お茶会」への招待状が届いた。

表向きは皇太子妃の懐妊を祝う席であるが、

それが罠であることは火を見るより明らかだった。


「朱華、行く必要はない。私が体調不良を理由に断る」


李蓮は招待状を見るなり、不快感を露わにして破り捨てようとした。

しかし、朱華はそっと彼の腕を制した。


「いいえ、殿下。参ります。ここで逃げれば、『平民出身の皇太子妃は、怯えて引きこもっている』と、朝廷の臣下たちに格好の口実を与えてしまいます。私は殿下の正妻です。彼らの前に堂々と立ち、この子が受けるべき祝福を勝ち取らねばなりません」


「だが、お前の体に万が一のことがあれば……」


「大丈夫です。殿下が私を信じてくださるなら、私はどんな陰謀にも屈しません」


朱華のまっすぐな瞳に宿る覚悟を見て、

李蓮は深くため息をつき、彼女の頬を優しく撫でた。


「……分かった。だが、私の息がかかった護衛を必ず影に潜ませる。決して無理はするな」


当日、西宮の麗麗たる庭園には、

色鮮やかな衣装を纏った妃たちが集まっていた。

朱華が姿を現すと、一瞬で周囲の空気が凍りつくような静寂に包まれる。


「おや、皇太子妃殿下。よくぞお越しくださいました。お体に障るのではないかと、皆で心配しておりましたのよ」


麗妃が、仮面のような美しい微笑を浮かべて朱華を迎えた。


「麗妃様、お招きいただき感謝いたします。殿下も、皆様のお心遣いに深く感謝しておりました」


朱華は、教えられた通りの完璧な宮廷の礼をとり、席に着いた。

お茶会が始まると、妃たちの執拗な「口撃」が始まった。


「それにしても、皇太子妃殿下のご実家は、どちらの地方の、どのような高名な家柄なのでしょう? 私共、お恥ずかしながら存じ上げなくて」


「まぁ、あなた、皇太子妃殿下は『お家』を持たない、天涯孤独の身の上だということをご存知ないの? 素晴らしいことですわね。後ろ盾がないということは、朝廷の派閥争いに巻き込まれる心配もないということですもの」


クスクスと、袖で口元を隠しながら嘲笑う妃たち。彼女たちは、

朱華の「身分の低さ」を徹底的に突き、

彼女がこの場にふさわしくない異分子であることを印象付けようとしていた。

精神的なストレスを与え、胎内の子供に悪影響を及ぼそうという、

陰湿な算段である。

しかし、朱華は動じなかった。彼女の頭の中には、

かつて現実世界で読んだ歴史の知識や、

ゲームのイベントデータが冷静に展開されていた。


「皆様、お言葉ですが」


朱華は凛とした声で遮った。


「私は確かに、皆様のような立派な家柄も、朝廷を動かす後ろ盾も持たぬ身にございます。しかし、大華帝国の祖であられる初代皇帝陛下は、かつて平民の身から身を起こし、この偉大なる帝国を築き上げられたと聞き及んでおります。陛下が求めたのは、血筋の傲慢さではなく、民を想う誠実な心。我が夫・李蓮殿下が私を妻として選んでくださったのも、その『民の心』を常に忘高貴な志ゆえ。私が宿したこの命は、特定の貴族のためのものではなく、この帝国のすべての民のために捧げられるべき光にございます」


その堂々たる反論に、妃たちは一斉に息を呑んだ。

初代皇帝の歴史を引き合いに出されては、誰も反論できない。

朱華の言葉は、

彼女たちの血筋自慢がいかにちっぽけなものであるかを、

痛烈に批判していた。

麗妃は顔を青くし、不快そうに扇子を握りしめた。


「……ふん、口の減らない娘。ですが、言葉だけでこの後宮を生き抜けると思わないことですこと」


初戦は朱華の完全な勝利に終わった。

しかし、これがさらに陰惨な、物理的な罠への呼び水となることを、

朱華はまだ知らなかった。


お茶会から数週間が経ち、朱華のお腹は少しずつ丸みを帯び始めていた。

李蓮の過保護ぶりは日に日に増し、

東宮のすべての入り口には厳重な検問が敷かれていた。

衣服はすべて裏地まで調べられ、

食事は毒見役が三度変わる徹底ぶりだった。


(ここまで警戒していれば、そう簡単には手出しできないはず……)


そう安堵しかけた矢先、事件は「音」もなく訪れた。

ある日の夕暮れ。李蓮は皇帝との長時間の政務のため、

大極殿から戻っていなかった。

朱華は少し火照った体を休めるため、

東宮の奥深くにある、普段は人が立ち入らない書庫へと足を運んでいた。

そこには、李蓮が幼少期に読んだとされる古い兵法書や、

各地の地誌が保管されており、

彼の過去に触れられる朱華のお気に入りの場所だった。


「皇太子妃殿下、お足元がお暗くなってまいりました。ランタンをお持ちいたします」


付き添っていた若い宮女が、部屋の隅へ明かりを取りに向かった。

その刹那。朱華の鼻腔を、妙に甘ったるい、

しかしどこか焦げ臭い奇妙な香りがくすぐった。


(……え? この匂い、どこかで……)


五感が極限までリアルなこのバーチャル世界において、

匂いは重要な情報だ。

朱華は瞬時に、かつてゲームの仕様書、あるいは前世の記憶の中で見た

「ある禁忌の薬品」の存在を思い出した。


麝香じゃこうと、夾竹桃きょうちくとうの……燻香!?」


それは、妊婦に対して極めて強い毒性を持ち、

吸い込み続ければ確実に流産を引き起こすという、

後宮秘伝の禁薬だった。

見れば、書庫の古い換気口から、かすかに白い煙が流れ込んできている。


「いけない、部屋を出ないと……!」


朱華は叫ぼうとしたが、すでに薬物の効果が体に回りはじめていた。

急激な目眩めまいが彼女を襲い、下腹部にずしりとした重い痛みが走る。


「うっ……!」


朱華はその場に崩れ落ちた。冷たい床の感触。


「殿下……! 誰か、誰か来て!」


声をあげようとするが、喉がヒリヒリと焼けるように痛み、声にならない。

付き添いの宮女を探そうと視線を巡らせるが、

先ほどランタンを取りにいったはずの彼女の姿はどこにもなかった。

最初から仕組まれていたのだ。

朱華をこの密室に誘い込み、誰にも気づかれずに処理するための、

麗妃たちの完璧な陰謀。


(だめ……こんなところで、終われない……!)


日本の高校生としての冷ややかな意識が、

恐怖でパニックになりかける自分を必死に繋ぎ止める。


(私はゲームのヒロインじゃない、李蓮の妻よ! この子を、彼が命がけで愛してくれたこの命を、絶対に消させない!)


朱華は這うようにして、書庫の重い木製の扉へと手を伸ばした。

しかし、意識は急速に遠のいていく。

視界が激しく揺れ、血の気が引いていくのが分かった。

その時。

ドォン!! と、書庫の厚い扉が、

凄まじい音を立てて内側へと蹴り破られた。


「朱華―――っ!!」


現れたのは、剣を握りしめ、髪を振り乱した李蓮だった。

彼の瞳は、かつてないほどの怒りと、恐怖で血走っていた。

政務の最中、東宮の不審な動きを察知し、

すべての儀礼を投げ打って駆けつけたのだ。


「殿、下……」


朱華が力なくその名を呼ぶと

李蓮はすぐさま彼女を横抱きにし、汚染された書庫から外へと飛び出した。


「御医を呼べ! 東宮の兵をすべて集めろ! 呼吸をしている者は誰一人としてここから出すな! 動くものはすべて斬れ!」


李蓮の、地鳴りのような咆哮が夜の宮廷に響き渡る。

寝所に連れ戻された朱華は、

ベッドに横たえられ、駆けつけた御医たちによる必死の治療が始まった。

李蓮は朱華の手を握りしめ、その額に幾度も幾度も口づけを落としながら、

祈るように呟き続けた。


「朱華、しっかりしろ。私の名を呼んでくれ。お前を失うくらいなら、私はこの皇太子の地位も、帝国も、何もかもいらない。だから、私を置いていかないでくれ……!」


彼の強い眼差しと、自分を握りしめる手の力強さに、

遠のきかけていた朱華の意識が奇跡的に繋ぎ止められた。

下腹部の激痛が、御医が処方した薬のおかげで、徐々に和らいでいく。

数時間の死闘の末、御医が深く息を吐き、汗を拭った。


「……奇跡にございます。皇太子妃殿下の強い御意志が、お薬の効果を呼び込みました。御子みこの脈は、しっかりと力強さを取り戻しております」


その言葉を聞いた瞬間、李蓮の目から、堰を切ったように涙が溢れ出た。

彼は朱華の胸に顔を埋め、声をあげて泣いた。

一国の皇太子が、誰の目を気にするでもなく、

ただ一人の女性の無事を泣いて喜んでいる。

朱華は、まだ震えている李蓮の漆黒の髪を、優しく撫でた。


「殿下……私は、大丈夫です。この子も、ちゃんと生きています。私、あなたについていきます、どこまでも……とお約束したでしょう?」


「ああ……ああ、朱華。すまない、私の不徳ゆえに、お前をこんな目に……」


「いいえ、私を救ってくれたのは、あなたです」


二人は静かな夜の闇の中で、

互いの存在と、守り抜いた小さな命の鼓動を確かめ合うように、

いつまでも寄り添い続けた。


大華帝国の朝廷は、未曾有の嵐に見舞われていた。

「皇太子妃暗殺未遂」の決定的な証拠――使用された禁薬の流通経路、

そして現場から逃亡しようとした宮女の身元――を、

李蓮の密偵が完璧に突き止めていたのだ。

その糸の先は、西宮の麗妃、

そして彼女を操っていた朝廷の有力貴族たちへと直接繋がっていた。


「案ずるな、朱華。我が妃を、我が子を害しようとした者は、たとえ国家の重臣であっても、この私が地球の果てまで追い詰めて容赦なく破滅させる」


その言葉通り、李蓮の復讐は迅速かつ冷徹極まりないものだった。

皇帝の裁可を得た李蓮は、自ら近衛兵を率いて西宮へ乱入。

麗妃を即座に廃位し、

冷宮(罪を犯した妃が幽閉される場所)へと連行した。

さらに、彼女の実家である貴族一派の官職をすべて剥奪し、

全財産を没収、一族郎党を辺境へと流刑に処したのである。

朝廷の臣下たちは、李蓮の凄まじい怒りと、

一分の隙もない権力掌握の手腕に恐れおののき、

誰一人として朱華に異議を唱える者は、

守護者ファンすらもいなくなった。

身分という壁は、李蓮の圧倒的な力と、

朱華自身の賢さによって、完全に粉砕されたのだ。

数ヶ月後。

大華帝国の空は、雲一つない快晴だった。

激しい宮廷闘争の嵐を乗り越え、

朱華のお腹は誰の目にも明らかなほどに大きく、立派に膨らんでいた。

本日は、皇帝の命により、

改めて「皇太子妃・朱華」の地位を国内外に誇示するための、

盛大なる宮廷の儀式が執り行われていた。

大極殿へと続く巨大な階段には、数百人もの文武百官が整列し、

絢爛豪華な旗が風になびいている。

太鼓と管楽器が織りなす荘厳な雅楽が響き渡り、

空間全体が、かつての敵意を一切排除した、

圧倒的な祝福の熱気に包まれていた。

朱華は、金糸で鳳凰の模様が眩いばかりに縫い上げられた、

鮮やかな朱色の婚礼衣装(鳳冠霞帔)を再び纏い、

階段の頂点へと歩みを進めていた。

一歩歩くたびに、

重厚な鳳凰の冠に施された真珠や翡翠がシャラシャラと心地よい音を立てる。

その重みすらも、自分が今、この歴史の頂点に立ち、

愛する人と共に未来を創っているという実感を強めてくれた。

階段の上で待っていたのは、金糸の龍袍を纏った李蓮だった。

彼は歩み寄る朱華へ向け、

世界で最も優しい微笑みを浮かべながら、ゆっくりと手を差し伸べた。


「参ろう、私の唯一無二の妃よ」


「はい、殿下。どこまでも、あなたと共に」


朱華がその手を取った瞬間、

文武百官たちが一斉に膝をつき、地を揺るがすような歓声を上げた。


『皇太子殿下、太子妃殿下、千歳せんざい! 千歳! 千千歳せんせんざい!!』


地鳴りのような祝福の声の中、李蓮は朱華を引き寄せ

、臣下たちの前で堂々と彼女を抱きしめた。

視界いっぱいに広がる青空と、眼下に広がる壮大な宮殿。李蓮の温かい腕と、

そっと大きなお腹に添えられた彼の手の熱。


「朱華、永遠に私とともにお家(国)を治めよう。お前と、この子を、私は絶対に離さない」


耳元で囁かれる言葉に、朱華の心は、完璧な幸福感で満たされていた。

ここには、もう何の不安もない。

理不尽な陰謀も、彼女たちを引き裂く壁も、

二人の愛の前にはすべて塵に等しかった。

燦然と輝く太陽の光を浴びながら、二人はしっかりと手を握り合い、

輝かしい未来へと向かって、歩みを進めていくのだった。


(ああ……私、本当に幸せ。あなたに出会えて、本当によかった―――)


鳳凰の羽に守られた揺り籠の中で、

新しい命が、小さく、しかし力強く跳ねた。(終)


記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、


もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。


こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。


※短編『S4(エス・フォー)』Scientific Fantasy

※短編ユリン S4 Scientific Fantasy2

先行した2つの作品を読んでいただけますと、

わかりやすい内容になっています。

参考までに気が向いたらご覧ください。


登場人物


〇チェ・ウニョン

天才脳科学者、元高校教師

韓国脳科学会に「性善説でもなく性悪説でもない

『無による無』の論文を出して提唱したが、

女性である事とまだ若い事が遠因となって、

『無による無』は

『成り行き任せの論ずるに値しない学説』として

笑われ、学会を追放されてしまった。

世の中にあがらう事を諦め、

生活の為にソウルの高校にて教師をしていた。

大変な美人だが、脳科学者だけに脳に正直で、

普通の女性よりもほんの少し下品で、

ほんの少しビッチな発言もある。

大韓民国の『国民総教化計画』を阻止すべく、

『水霊』の破壊と『儒林』の消滅をやってのけた。



◯佐藤志乃

株式会社Juringエンター会長。

韓国の大女優ソン・インナ。

父親は韓国一の財閥を救った伝説の投資家。

Meteor shower signal reception。

流星群受信メテオラシャワーに投資して成功した。

スーパーコンピュータ『樹林』の建造と

フルVRゲームサービス『ヴァーチャル・ダイブ』の

運営の為にチェ・ウニョンをヘッドハンティングした。

息子は作家のユン・シウ。

息子の嫁はカン・サラン(ソン・カナン)

孫はユン・ソア



〇キム・ソヒョン

アトリエ・ノア会長室室長。

会長佐藤氏志乃の最側近(雑用係とも)

FGS(藤咲化粧品)korea第二営業企画部部長。

総合映像制作会社S.S.I社長ユン・ヒョヌの元恋人。

作家ユン・シウの元恋人。

他者肯定も少なく、

自己肯定も少ないので何かと苦労しがちな女性。

それはチェ・ウニョンの理論『無による無』と通じる素養をもっている。

元恋人のユン・シウは作家なだけに空即是色

(0から創作する )または(何気ない日常がドラマだ)と考える人間なので、

分かり合えるはずがなかったのかも知れない。


◯ユン・ソア

4歳。女の子。

韓国の売れっ子。子役俳優ソン・シア。

佐藤志乃の孫。

美男美女の両親から生まれた超絶美少女。

世界一、高慢で糞生意気な娘。

豪華客船をねだり、飛行機の方が安い理由から専用ジャンボジェット機を買ってもらった事がある(一度乗せて満足した所を見計らってすぐに売却された)



◯カン・サラン

25歳

女優ソン・カナン。作家ユン・シウの妻。

ユン・ソアの母。佐藤志乃の息子嫁。

夫ユン・シウが思う世界一の美人。

チェ・ウニョンに協力して、韓国の全能化計画『儒林ユリン』の消滅を手伝った。

その時は、偽名を使っており、チェ・ウニョンはサランを『城北洞の女』とだけ、認識していた。

そんな理由からチェ・ウニョンはサランとの再会に驚き、サランの素性を知る事となる。

藤咲化粧品(F.G.S)の『ファイン・グロス・ファイネスト』の5年ほど専属モデルであり、『Cosme De Saran』のモデル兼プロデューサーなので日本国内でも、女性ならかなりの認知度がある。

得意技は10代の時に貧乏してバイトに明け暮れた為、包丁使いが超人であり、包丁を2丁使ってみじん切りをする時はチャド・スミスになる。サラン本人はレッドホットチリペッパーズもチャド・スミスも知らないが父の影響で数千回聴かされていた、キャントストップのリズムでみじん切りする。

機嫌が良いと所構わずミュージカルスターのように、歌いながらターンしたり、ステップ踏んだりする。Juringエンター研究所の社員食堂を占拠して、

包丁捌きを披露したり、メニューにオリジナル特製カレーライス。特製和風手ごねハンバーグ。冷やし山菜とろろ蕎麦。を強引に追加する。




参考


※S4(エスフォー)

韓国で開発された超睡眠時学習システム

『Super・Sleep・Studying・Systems』

大韓構想にて国民総教化計画の一環で

表向きは若年世代の教育強化を目指した。


水霊スリョン

韓国で大韓構想を元に開発されたスーパーコンピュータ。

『Super・Sleep・Studying・Systems』の頭脳。


※大韓構想

朝鮮半島の統一を果たした大韓民国が掲げた構想。

「世界で最も優秀で、最も繁栄した国家の構築」


儒林ユリン

水霊スリョンの真の最終目標『全脳化計画』。

世界中のPC・タブレット・スマホを『CPUニューロン』として、

水霊を実体無くして最強であるものとする計画。

シナプスとして

流星群受信メテオラシャワーが用いられた。


樹林ジュリン

北海道ニセコにて佐藤志乃率いる

Juringエンタが開発したスーパーコンピュータ。

日本メーカーのゲーム機(一応、最高グレード)1万5千台を接続して、

30億円投資して完成させた。

ちなみに名前の由来は、数十年前に佐藤志乃が在籍した、

東京シルフィード歌劇団在籍時の舞台名

天翔樹林あまかけじゅりん』が元になっている。

(社名のJuringエンターテイメントも同様)

儒林ユリンと似ているがまったく関係ないネーミングであった。

表向きは『つぎはぎのポンコツ』とされているが、

実際は日本のフラッグシップ富岳と同等以上の性能を発揮し、

消費電力も3分の1となっており、

投下した資本からするとかなりコスパの良い設備である。

国内で騒がれない為に『山奥のポンコツ』と広めている。

冷却に降雪した雪を使用しており、融けてろ過した水は海外に売却してコストダウンしている。

後日、魔改造が施されスペックが向上した。

エラーはほとんどなくなった。



流星群受信メテオラシャワー

Meteor shower signal reception。

米国の富豪が打ち上げた精密な衛星通信網は、

自動帰還するロケットを用い、小型通信衛星を打ち上げるビジネスであったが、

日本のベンチャーがもっと安価に完全使い捨ての格安ロケットにて、

野球の球ほどの通信端末をドラム缶いっぱいに持っていき、

衛星軌道上でぶちまける事によって追い抜いた。

死角無しの衛星通信網である。

無計画に端末をぶちまく為、高頻度で大気圏に落下し、

流れ星が大量にみられる理由から、流星群受信と言われるようになった。

極めて大雑把で安価なベンチャービジネスで構築した、

地球全土を覆う死角なき通信ネットワークのその通信端末は、

現代のスマホが充電スタンドで置くだけで充電できるのと同じ仕組みで、

宇宙に漂う電磁波を表面で吸収し、半永久的に駆動する。



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