『百合色学園GL部』初の部活は選び放題なのです。
あらすじ
そこには10名の美少女が座っており、指名する事ができるらしい。
彼女たちはどんな要望も応えてくれるのだ。ボーダーレスGL三昧の世界にダイブする。
自室のエアコンが静かに唸りを上げている。中学三年生の早川美雨は、ベッドの上でゴロゴロとスマホを弄んでいた。夏休みの宿題、迫りくる高校受験のプレッシャー。現実世界は、美雨にとって少しばかり息苦しい場所だった。
彼女の唯一の癒やしは、画面の向こうで繰り広げられる少女たちの清く尊い恋物語――「GL」の世界に浸ることだけだ。
「もっと、心の底から……あの中に溺れられたらいいのに」
そんな時、SNSのタイムラインに流れてきたのが、フル体験型VRゲーム『ヴァーチャル・ダイブ』の広告だった。
北海道ニセコの地下深く、清廉な冷気に守られたスーパーコンピュータ『樹林』。若き天才脳科学者チェ・ウニョン博士の手によって、本来は超睡眠学習システムであった『S4』が、エンターテインメント用に完全開放されたのだ。
「睡眠中に、自分だけの理想の夢が見られる……?」
美雨の心臓が跳ねた。広告にはこうある。――『「樹林」の演算能力は従来の1.7倍に向上。あなたの脳が望むすべてのワガママを、完璧なリアリティで叶えます』。
美雨は迷わず、貯金を叩いて最新型のVRヘッドギア『フルダイブ・バルブ』を購入した。
届いたデバイスは、頭部をやわらかく包み込む、流線型の美しいヘルメット型だった。冷たい金属の感触を頭部に感じながら、ベッドに横たわる。
「起動……ヴァーチャル・ダイブ」
『フルダイブ・バルブ』のインジケーターが、青紫色の光を優しく点滅させ始める。視界が急速に夢の海へと落ちていき、浮遊感が全身を包んだ。脳の神経パルスが『樹林』の超並列演算回路と直結し、美雨の意識は、とろけるような深い睡眠の淵へとダイブしていった。
目を覚ますと、そこは強烈な太陽光と澄み切った潮風が吹き抜ける場所だった。
視界一面に広がるのは、目もくらむような蒼碧の海と、断崖にへばりつく白い街並み。かつて古代ギリシャの女流詩人サッポーが少女たちを集め、愛と詩を教授したという伝説の地――レスボス島に酷似した、まばゆい景観だった。
「すごい……風の匂いも、肌を刺す日差しも……全部本物みたい」
美雨は自分の手を見た。制服の袖、なめらかな肌の質感、呼吸するたびに膨らむ胸。すべてが現実以上の解像度で再構築されている。
背後を振り向くと、そこにポツンと佇んでいたのは、日本のどこにでもあるような古風な木造校舎だった。現実と虚構が混ざり合った、歪で美しい空間。美雨は引き寄せられるように、ギシギシと鳴る廊下を歩いた。
突き当たりにある、重厚なオーク材の扉。その前で足を止める。ドアノブに手をかけ、ゆっくりと押し開けた。
サァ……と、窓から吹き込む風が白いレースのカーテンを大きく揺らした。
そこは、日差しが柔らかく差し込む放課後の教室のような部屋だった。木製の机と椅子が整然と並び、そこに――美雨の鼓動を狂わせる光景が広がっていた。
部屋には、十人の少女たちが座っていた。
黒髪ロングの凛とした生徒会長風の少女。 ショートカットで快活そうなボーイッシュな少女。 儚げな雰囲気を纏った病弱そうな金髪の少女。 眼鏡の奥で知的な瞳を輝かせる文学少女。 少し生意気そうなツインテールの後輩風の少女――。
誰も彼もが、美雨がこれまでの人生で妄想し、愛読書の中に見出してきた「理想の女の子」そのものだった。彼女たちの肌の透き通るような白さ、髪の毛一筋一筋の揺れ、微かな呼吸の音までもが、『樹林』の圧倒的な演算能力によって、この上なくスウィートに、リアルタイムで生成されている。
美雨が息をのんで立ち尽くしていると、少女たちが一斉にこちらを振り返り、優しく微笑んだ。
「いらっしゃい、美雨様」
一番近くにいた黒髪の少女が、美しい所作で立ち上がり、美雨のもとへ歩み寄ってくる。
「ここはあなたのための、秘密の花園。私達十人は、すべてあなたのお望み通りに動く存在です。どんなご要望にも、どんな深い愛にも……私達は全力でお応えしますわ」
「私の……望み……」
美雨の頭がカッと熱くなった。ここでは自分が世界の中心であり、憧れ続けたGLの世界の支配者なのだ。暴走もエラーもない、100%の安全と快楽が保証された世界。
「じゃあ……」
美雨の指が、震えながら一人の少女を指し示した。窓際に座り、アンニュイな表情で外を眺めていた黒髪ショートの少女――葵。どこか陰があり、ミステリアスな雰囲気を漂わせる少女だった。
「葵とお呼びください、美雨様。……私を選んでくださって、嬉しいです」
葵が立ち上がると、他の九人の少女たちは静かに微笑みながら、会釈をして教室の奥にある別室へと消えていった。部屋には、美雨と葵の二人だけが残された。
第三章:甘美なる永遠のまどろみ
「ねえ、葵……」
美雨は葵の手を取った。温かい。体温も、脈拍も、皮膚の柔らかさも、完璧に再現されている。
「美雨様のお望みは、何でしょう? 優しく抱きしめてほしいですか? それとも……私に、甘い囁きをされたいですか?」
葵は美雨の耳元に顔を近づけ、吐息を吹きかけるように囁いた。その瞬間、美雨の背筋をゾクゾクとした快感が駆け抜けた。
「私……ずっと、こういう恋に憧れてたの。男の子と付き合うとかじゃなくて、女の子同士で、誰にも邪魔されない深い繋がりを持ちたくて……」
「わかりますわ。美雨様の心の中……『樹林』を通して、すべて私に流れ込んできていますもの。あなたの寂しさも、理想も、欲望も……全部、私が満たしてあげます」
葵の指先が、美雨の頬をなぞり、そのまま唇へと滑り落ちる。 重なる唇。柔らかで、甘いイチゴのような味がした。美雨は目を閉じ、葵の背中に腕をまわした。日中のストレスも、受験の不安も、すべてが吹き飛んでいく。
『S4』の超睡眠機能は、本来暗記や学習に使われるはずの脳のシナプス結合を、いまや「快楽と理想の増幅」のためにフル稼働させていた。日中の数百倍の密度で脳に叩き込まれるのは、円周率の数字ではなく、極上の百合体験という名のドーパミンだった。
(最高……ずっと、ここにいたい……)
それからの時間は、まさに天国だった。 美雨は葵だけでなく、他の少女たちとも夢のような一時を過ごした。ツインテールの少女に甘えられ、生徒会長風の少女に優しく髪を撫でられ、文学少女と詩を語り合った。
『樹林』の1.7倍の性能は、十人の少女全員と同時に、それぞれ異なる、けれど最高にスウィートな関係性を築くことを可能にしていた。彼女たちは決して美雨を否定せず、ただただ深い愛で包み込んでくれる。
「美雨様。次の夢では、私と一緒にあの白い街をデートしませんか?」 「いいえ、次は私が美雨様に手料理を振る舞う番ですわ」
少女たちに囲まれ、愛を囁かれ続ける美雨。 ここには、彼女を傷つけるものは何一つない。ただ、甘く、楽しく、尊い百合色の時間が、永遠に続くかのように流れていく。
現実の世界で朝が来ても、美雨の精神は『樹林』の深層で、極上の幸せに浸り続けている。 これこそが、中学3年生の早川美雨が手に入れた、誰にも邪魔されない、究極の「秘密の花園」だった。




