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8/25

思い出

 放課後、今日も俺は綾香さんと一緒に愛奈さんのもとへ向かう。あのオフ会以降、愛奈さんは俺と遊びたいと言って俺を誘ってくる。家にお邪魔するとゲームや雑談などで盛り上がり、最終的には晩御飯まで一緒に食べて帰るようになった。

 綾香さんは不満そうだが、愛奈さんは楽しそうだ。キッチンに入るのもノリノリで楽しそうに調理している。


「なんかあなたが最近うちに来てからママに笑顔が増えたわ」

「そうなの。嬉しいなぁ」

「なんなのよあなた。どうしてママを笑顔にできるのよ」


 綾香さんは悔しそうに歯噛みする。


「そんなに敵意を向けないでよ。俺は綾香さんとも仲良くなりたいんだからさ」

「ふん、私と付き合う気になったのかしら」

「それはない」

「なんでよ!」


 こういうやりとりも日常的になってきた。愛奈さんのアドバイス通り、少し冷たく扱ってやると、綾香さんは食いついてくる。これまでの人生で雑に扱われることはなかったのだろう。

 だから綾香さんにとって俺という存在は新鮮なのだ。


「ママ、あなたのためにお弁当を作ってるの、すごく楽しそうよ」

「愛奈さんって本当に料理が上手いよね。あれは旦那さんも嬉しかっただろうなぁ」

「やっぱり、男の子って料理の上手い女の子が好きなの?」

「そりゃ好きだろうね。女の子の手料理って男の憧れでもあるから」

「あなたもそうなの?」

「そりゃあね」

「そう……」


 愛奈さんはゲームでもサポート役に徹する立ち回りをしている。そういう性分なのだろう。誰かを支えることが彼女の本質のように思える。

 そんな会話をしながら家に到着する。綾香さんが玄関を開けて中に入る。奥から愛奈さんが出てきた。


「おかえり二人とも~。今日は暑いわね」

「まあもうすぐ夏だからね」

「アイスあるわよ~」


 愛奈さんはそう言って俺たちを労う。家に帰ってこうして笑顔で迎えてもらえるのって、なんかいいな。

 うちは離婚していて、父さんは仕事で忙しいからあまり家にいない。お金だけは十分もらっているけど、寂しいと思うことも多い。


「それで綾香、友達はできた?」

「ママ、友達はいつでも作れるわ」

「できなかったのね」


 愛奈さんは額を押さえて溜め息をつく。


「友達はできたわ」


 綾香さんはそう言って俺の腕を掴む。


「こいつよ」

「あら、唯斗くんと仲良くなったの?」

「まあそんな感じ」


 さっきはお試しって言ってたのに。身代わりが早い子だなぁ。


「偉いわ、綾香。友達がちゃんと作れたのね。それも男の子よ、男の子」

「えへへ。もっと褒めてぇ」


 愛奈さんは綾香さんの頭を撫でている。綾香さんがマザコンになったのって、愛奈さんのせいじゃないかな。


「唯斗くん、綾香のことよろしくね」

「任せてよ。綾香さんがもっとたくさん友達が作れるように俺もサポートするし」

「そんなにたくさん友達はいらないわ」

「綾香。次は女の子の友達を連れていらっしゃい」

「う……」


 綾香さんが顔をしかめる。綾香さんは女子に怖がられている。少し声をかけただけで怯えられてしまうので、友達を作るのは至難の業だろう。それでも、綾香さんの素の顔を見れば、もっと人気者になると思うけどなぁ。


「そうだ。今日は三人でボードゲームをやりましょう」

「ボードゲーム」

「そう。二人でするにはちょっと味気ないし、綾香もやってくれたら嬉しいのだけど」

「やるわ!」


 愛奈さんに言われると即答で頷くなこの人。

 愛奈さんは俺たちを自分の部屋に連れていくと、人生ゲームを取り出した。


「昔、まだ綾香が小さかったころ、パパと三人でやったのよね」

「そうなの? 私覚えていないわ」

「まだ小さかったもの」


 愛奈さんが懐かしそうな顔を浮かべる。その頃は幸せだったのだろう。


「もしかして愛奈さん、寂しかったの?」

「え?」

「ネトゲを始めたのって、寂しかったからじゃないかなって思って」

「まったく、唯斗くんは鋭いわね」


 愛奈さんは苦笑いを浮かべると頷いた。


「そうよ。三人で遊んでた時の記憶がずっと残ってて、寂しくなっちゃったのよね」

「ママ、私がいても寂しかったの?」

「違うのよ。綾香は大事な娘だし、愛しているわ。でも、対等に遊べる友達が欲しかったの」

「私だって対等に遊べるわよ。ママが寂しかったんだとしたら私のせいだわ」

「ごめんね。そういうつもりじゃなかったんだけど」


 愛奈さんが困ったような顔を浮かべている。愛奈さんがネトゲを始めたのは、亡くなった旦那さんのことを忘れるためだろう。綾香さんと遊べばどうしても亡くなった旦那さんのことが頭に過る。それを言うわけにもいかないので困った顔をしているのだ。


「まあいいじゃん。今日は俺たちで遊べば」


 俺はそう言って人生ゲームの箱を開ける。


「こういうのってやったことないわね」

「綾香さんはあんまりゲームはしない感じ?」

「ゲームなんてくだらわないわ。何の生産性もない、時間の無駄よ」

「時間の無駄かどうか、試してみようじゃないか」


 俺はにやりと笑うと、愛奈さんとアイコンタクトを送る。

 綾香さんにゲームの楽しさを教えてやる。

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