初めての友達
愛奈さんの家で、俺と愛奈さんはゲームの話題に興じる。一方、綾香さんはゲームをしないので、話題についてこれないようだ。
「そういえば唯斗くんこの間私にレアアイテムくれたわよね」
「俺のジョブより愛奈さんのジョブの方が活かせるから」
そんな会話をしていると、綾香さんがジト目で俺たちを見てくる。
「まさかママがネトゲなんてやってたなんて」
「いいでしょ~。ママだって趣味の一つや二つぐらい楽しみたいの」
「それでこんな根暗男と仲良くなるなんて」
綾香さんは歯ぎしりしている。愛奈さんを俺に取られたのが余程悔しいのか、俺を睨んでいる。
「ママ、目を覚まして。こいつはママの体を狙ってる」
「あら~。ずいぶんおませなことを言うようになったわね。でも大丈夫よ。唯斗くんはそんな目的で私と仲良くしてくれてるんじゃないから」
慈愛の目で俺を見てくる愛奈さん。もちろん、俺は愛奈さんのことを親友だと思っている。初めて話した時のことを思い出す。
愛奈さんはゲームを始めたばかりの初心者プレイヤーだった。俺はそんな愛奈さんに声をかけて、ゲームをレクチャーした。
「すごいなぁ、たまるは。めちゃくちゃレベルが高いじゃん」
「まあずっとこのゲームを遊んでるからね」
「でも、友達はいないんだね」
初めて会った時、俺は愛奈さんに痛いところを突かれた。現実でも友達がいない俺は、ネトゲの世界でも友達がいなかった。画面越しの人とはいえ、どう接したらいいのかわからなかったのだ。
だが、愛奈さん、ハムスケさんはそんな俺を見て、友達になってくれた。俺に取って初めての友達だった。だから愛奈さんのことは凄く大事だし、誰よりも優先したいと思っている。
「私も唯斗くんがフレンドになってくれてすごく嬉しかったのよ~。私も現実じゃ友達がいなかったから」
「それはママのせいじゃないじゃん」
綾香さんが苦しそうな顔を浮かべる。確かに愛奈さんはこれまでずっと子育てに従事してきたのだろう。もともとは専業主婦だったって言ってたから、慣れないバイトをしながら、家事をして大変な毎日を送っていたはずだ。そんな愛奈さんを間近で見て、綾香さんも感謝しているのだろう。
「ママ、こいつからは私が守ってあげるわ。こいつを惚れさせて、私と付き合わせるの」
「あらあら。綾香は唯斗くんのことが好きなのかしら」
「そ、そんなわけないでしょ! 誰がこんな根暗男を! ただママを守るために仕方なく……」
「ふふ、綾香も唯斗くんの良さがきっとわかるわ。私としては二人が仲良くしてくれるなら友達も恋人でもどちらでもかまわないのよ~」
「勘弁してよ愛奈さん」
俺は苦笑する。人付き合いが苦手な俺に誰かと恋愛をするなんてハードルが高すぎる。綾香さんが危惧しているようなことは起こらないし、綾香さんが俺と付き合う必要なんてないんだけどな。俺は愛奈さんとは友達だし。
「唯斗くん、綾香はモテるのよ~。優良物件だと思うわよ」
「でも、性格がな~」
「こう見えてめちゃくちゃ甘えたがりだから、付き合ったらめっちゃ甘えてくるわよ~」
「ちょっとママ!」
甘えてくる綾香さんか。確かにそれは少し見てみたさはある。
でもこの年でマザコンって珍しいな。普通は俺たちぐらいの年頃になると親に反発しがちなのに。
「綾香は反抗期もなかったわよね」
「大好きなママに反抗するなんてありえないわ」
「だから喧嘩もしたことないのよ」
ある意味、羨ましい親子だ。俺は親に対して複雑な感情があるから、どうしても二人が羨ましく思えてくる。
俺に取り得なんてない。得意なことも何もない。人間として不良品。それが俺だ。
「唯斗くん、ご飯食べていくわよね」
「いいの?」
「あたりまえよ。私、男の子が欲しかったの~。だから唯斗くんにはたくさんうちに出入りしてもらわなきゃ」
楽しそうに愛奈さんが笑っている。そう言ってキッチンに向かっていった。部屋に取り残された俺と綾香さんは互いに顔を見合わせる。
「その、ありがと」
「どうしたの急に」
「悔しいけど、ママがあんなに笑ってるのって珍しいから。あなたのおかげなのかなって」
珍しく綾香さんが素直だ。それだけ愛奈さんが笑顔でいることが珍しいのだろう。
「ママ、ずっと辛そうな顔してた。私の前では平気みたいな顔してたけど、パパに先立たれていっつも部屋でこっそり泣いてたから」
「そうだったんだね」
最愛の人に先立たれるってどんな気持ちなのだろう。俺には計りかねる。
「でも、あなたのことは認めないわ。あなたは私と付き合いなさい」
「だから付き合わないって」
「なんでよ! 私こんなに可愛いのに」
「性格が可愛くないじゃん」
「そんなことないでしょ⁉」
家での綾香さんはころころといろんな表情を浮かべる。学校での鉄面皮の荊姫とは雲泥の差だ。少しだけ、綾香さんに興味が湧いてきた。
「綾香さんとは付き合わないけど、友達にならなってあげるよ」
「何を調子に乗っているの。私とあなたが友達?」
「だって綾香さん、ぼっちだし」
「ぼっちのあなたに言われたくないわ⁉」
「俺は愛奈さんって友達がいるからぼっちじゃないよ」
俺がそう言い返すと綾香さんは歯噛みした。
「まあ正真正銘ぼっちの綾香さんには、友達なんて作れないんだろうけど」
「馬鹿にしたわね。私だって友達ぐらいすぐ作れるわよ」
「じゃあ証明してみてよ」
「わかったわ。見ていなさい」
そう言って綾香さんは俺を睨めつけた。
これで綾香さんに友達ができれば愛奈さんも喜ぶだろう。




