張り合い
放課後、俺は綾香さんと帰路を同じくしていた。
「なんでついてくるのよ」
「今から愛奈さんに会いに行くからかな」
「またママに会うつもり⁉」
「うん、お誘いも受けてるからね」
俺はそう言って綾香さんと並んで歩く。別に一緒に帰っているわけではないのだけど、行き先が同じだから仕方がない。
「あんた、ママのことどう思ってるのよ」
綾香さんが不安そうに聞いてくる。
「素敵な人だと思っているよ。俺にとってかけがえのない人かな」
「あんたとママは十八歳差よ⁉ 正気なの⁉」
「俺は大まじめだよ」
本当に大切な友人だと思っている。俺にとっては初めてできた友達。かけがえのない友人だ。
「ママもどうしてこんな男なんかを」
「でも、綾香さんもおもしろい顔をするんだなって思ったよ」
「おもしろい顔なんかしてない」
「めちゃくちゃしてたよ? 顔真っ赤にしてむきーっていうところとか。ああいうところもっとみんなの前で見せたらいいのに」
「見せるわけないでしょ! てか、そんな顔してないわよ!」
今もしているんだよなぁ。まあ自覚はないのだろうけど。綾香さんが意外に表情豊かだということを知れたのは、今日の収穫だ。仲良くなるにはまず相手のことを知る必要があるからな。
そうして俺たちは愛奈さんの待つ家に到着する。俺はインターフォンを押すと、玄関のドアが開き、愛奈さんが姿を現した。
「あ、唯斗くん、いらっしゃい~」
「娘より先にその男に挨拶するの⁉」
綾香さんが表情を膨らませる。やきもちを妬くタイプだなんて思わなかったけど、案外綾香さんはやきもち妬きらしい。
「どう、綾香。学校で友達はできた?」
「ふん、友達なんて必要ないわ」
綾香さんはそう言って家の中に入る。
それを見送った俺と愛奈さんは顔を見合わせて溜め息をつく。
「困った子ね。コミュ障なところは相変わらずだわ」
「学校でもみんな綾香さんのことを怖がってるからね」
「まあそのへんは唯斗くんに期待しているわ」
「あはは……」
俺は苦笑する。
「それより、愛奈さん。今日お弁当ありがとう。美味しかったよ」
「あら、食べてくれたの~。綾香に唯斗くんに渡すように言づけたけど、ちゃんと渡してくれてほっとしたわ」
「まあ綾香さんは自分の手作りって言い張ってたけど」
「あらあら」
愛奈さんが口元に手を当てて笑う。
「とりあえず中に入って」
「お邪魔します」
俺は愛奈さんに招き入れられて中に入る。家は普通の一軒家。二階建てのおうちだった。
「一応結婚した時に家は買ったの。前の旦那はお金だけは持ってたから」
「なるほど」
「だから今もお金には困っていないわ。私もバイトするだけで生活できてるし」
確かに、旦那さんに先立たれて、一人で子育てをするというのは大変だろうと思っていたけど、そうでもないらしい。
「まあ私が綾香を甘やかしすぎたのがいけなかたのね。まさかあんなに私にべったりになるなんて」
「想像つかないけどなぁ。綾香さんが愛奈さんにべったりなんて」
とりあえず俺たちは愛奈さんの部屋でくつろぐ。愛奈さんがお茶を入れてくれたので、それを飲みながら一息つく。
「それより、唯斗くんはどういう女の子が好み?」
「それ聞く?」
「今までそういう話はしたことがなかったかしらと思って」
「まあ、俺は愛奈さんみたいなタイプが結構好みだよ」
「私? あらあらまあまあ」
愛奈さんはにやにやしながら俺を見る。
「私も唯斗くんみたいな男の子好きよ。前の旦那も唯斗くんみたいに可愛らしい顔をしていたのよ」
「そうなんだ。まあでもさすがに愛奈さんとは年が離れすぎてるからあれだけど」
「あら、そんなことないわよ。今時年の差恋愛なんて珍しいものでもないんだから」
「確かに」
「私と付き合ってみる?」
愛奈さんが悪戯っぽく微笑む。
「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
突然、綾香さんが部屋に飛び込んできた。
「びっくりした。綾香さんのぞき見してたの?」
「たまたまよ! たまたま部屋の前を通りかかったら聞こえてきただけだから!」
そう弁明してはいるが、部屋の外で覗き見てしていたのは明らかだ。
綾香さんは愛奈さんに抱き着きながら俺を睨む。
「あなたを惚れさせるのは私だから! ママは私のなの!」
「冗談だよ? そんなにムキにならなくても」
「どうだか。ママみたいなスタイルも良くて美人な年上の女性に恋焦がれない男がいるもんですか」
「それを言うなら綾香さんだって十分美人なんだから愛奈さんに負けてないと思うよ?」
「び、美人⁉ ふふ、あなたも本性を現したわね。私を褒めて、私と口説いているんでしょう?」
「いや、まったく」
「なんでよ!」
「だって俺綾香さんのことあんまり知らないし。その点愛奈さんのことなら結構知ってるから。たとえば、朝は洋食より和食派だとか、絶叫系が好きとか、ホラーが苦手だってこととか」
「なんでそんなに詳しいのよ⁉」
まあそりゃネトゲのチャットでいろいろお互いのことを話したし。
「私の方がママの事知ってるもん。ママはほうれん草が大好物だってこととか、お菓子作りが趣味ってこととか、韓国ドラマが好きってこととか!」
「それを言うなら愛奈さんは少女マンガも好きでしょ。韓国ドラマが好きなのは構造が少女マンガとよく似ているからって言ってたよ」
「ぐぬぬ……」
「何を張り合っているのよ」
愛奈さんは呆れ顔で俺たちを見る。だがこれは譲れない戦いだ。どちらがより詳しく愛奈さんのことを知っているかっていう。
「ふふ、でもあなたたち仲良くなれそうね。ママ安心したわ」
そう言って笑う愛奈さんに俺と綾香さんは同時に突っ込みをいれるのだった。




