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部活

 昼休み、俺は綾香さんと一緒に屋上に出る。綾香さんがまた緊張したような面持ちでもじもじしている。


「今日も綾香さんがお弁当を作ってきてくれたの?」

「そうだけど……」

「ありがとう。俺は料理ができないから助かるよ」

「私だって料理は得意じゃないわよ」


 それでもきちんと食べられるものを作れるだけ、素質はあると思う。


「どうよ?」

「美味いよ」

「そ、そう」


 綾香さんが嬉しそうだ。わかりやすい人だな。


「それで、どうするのよ」

「何が?」

「漫画よ。独学でするには難しいと思うけど」

「確かに独学でするには難しいかもね」

「部活とかには入らないの?」


 一応、うちの高校には漫画研究会という部活がある。だが、コミュ障の俺が今更部活に入ってうまくやっていく自信がない。


「やっぱり部活に入るべきだと思う?」

「バイトもしていないのだから、部活に入るべきなんじゃない? うちで部活をしていない人ってほとんどの人はバイトをしているし」


 確かに、俺はコミュニティに馴染める気がしなくて部活を敬遠していた。だが、変わると決めたのだから、この考えも変えていく必要があるかもしれない。


「まあじゃあ見学行ってみるよ」

「それがいいわ」


 一応、うちの高校は部活に入ることを推奨されている。部活にも力を入れている高校だから、部活への入部率も高い。


「綾香さんはどうして部活よりバイトを選んだの」

「そんなのママを助けるために決まってるじゃない」


 どこまでもぶれない人だ。だが、綾香さんの動機はともかく、行動は褒められるべきものだ。親を助けたいからバイトをするなんて、俺たちの年齢でそう簡単にできることじゃない。

 それに綾香さんは苦手なことにも挑戦している。苦手な料理も愛奈さんに教えてもらいながら頑張っている。綾香さんの友達でいるために、俺も変わっていく必要があるだろう。


「でも、あなたが部活で友達ができたら、ちょっと寂しいわね」

「いやいや、俺だよ? 俺に友達ができると思う?」

「なんでそんなに自信がないのよ。思うわ。だってあなた、普通にいい人だもの」


 綾香さんがこんなにも素直に俺のことを褒めるのは珍しい。いったいどういう風の吹き回しだろう。


「ありがとう。でも、どうしたの綾香さん。俺を褒めるなんて」

「別に。思ったことを言っただけよ」

「でも、俺、すぐに余計な事を言っちゃうからなあ」

「確かにそれはあなたの悪いところかもしれないけど、いいところでもあると思っているわ」

「いいところ?」

「ええ。本音でぶつかってきてくれるって案外嬉しいものよ」


 綾香さんはそう言って薄く微笑むと、俺を見つめた。


「それにあなたは誠実だしね。そういうところを好ましく思う人はきっといるわ」

「本当にどうしたの? 今日はやけに褒め語殺しにしてくるじゃん」

「あなたに前に進んでほしいのよ。悩んでたこと、ママから聞いたわ」


 その言葉に、俺は苦笑する。


「そっか。愛奈さん口が軽いなぁ」

「ママを責めないで。ママは私があなたの友達だから教えてくれたの」

「わかってるよ。別に嫌だったわけじゃないし。綾香さんが俺の事考えてくれたの、嬉しいし」


 俺の悩みなんて、綾香さんからすれば鼻で笑うようなことだ。それでも、綾香さんは俺に向き合ってくれる。本当に優しい人だ。男子たちの噂で聞いていたイメージと全然違う人だったな。


「綾香さんって優しいよね」

「そんなことないわ。私は冷たい人間よ」

「それこそなんでそう思うのさ。綾香さん、愛奈さんのことすごく思ってるじゃん。優しいよ」

「それを言うならあなただって優しいじゃない」

「俺優しいか?」


 そんなことを言われたのは初めてだ。


「優しいわよ。面倒な女の私に合わせて友達になってくれたじゃない」

「まあ確かに綾香さんは面倒な女だけど」

「そういう思ったことをすぐ口に出すところがあなたよね」


 綾香さんは苦笑する。


「私、わかっているのよ。自分が面倒な女だって。あなたにいきなり付き合えって言いだしたり、ママから遠ざけようとしたり」

「まあでもそれが綾香さんの魅力だよ」

「あなたの褒め言葉って、嘘がないから響くのよね」


 綾香さんは愛奈さんのことが大好きで、行動の中心が愛奈さんだ。だけど、最近は俺のことも考えてくれるようになってきたという自負がある。綾香さんの友達として、認められてきたのだという実感がある。

 だからこそ、綾香さんの隣に並び立てる人間になりたい。今まで何も頑張ってこなかった俺が、ようやく頑張れることを見つけた。あとはそれを継続して、成果を出すことだ。


「まああなたならきっとすぐに友達ができるわよ。私が太鼓判を押してあげる」

「ありがとう、綾香さん」


 綾香さんが俺の悩みを知って、俺のことを気遣ってくれている。その優しさが胸に染みてくる。コミュニティに馴染めるかはわからないけど、自分を変えるために部活に入ることを決めた。昼休みのこの時間も、今の俺にとっては大切な時間だ。これからもこの時間が続けられるように、綾香さんと仲良くしていきたい。

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