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将来診断

 愛奈さんに手招かれて愛奈さんの部屋に行くと、愛奈さんのパソコンのモニターがついていた。


「何かやりたいことを探してみる?」

「やりたいことか」

「やりたいことってすごく大事なのよ。生きがいになるし、夢中になれる」


 確かに、俺にはやりたいことなんて何もない。ただ毎日をだらだらと生きているだけだ。

 正直、好きなものといえばゲームぐらいで、そのゲームも強くなりたいとは思うものの、プロになりたいとまでは思わない。


「この将来診断ってのをやってみたらどうかしら」

「将来診断ね」


 確かに、自分の将来を考えるきっかけになるかもしれない。俺はパソコンの前に座ると、将来診断を始める。

 質問に直感で答えていく。結構設問数は多い。十五分ほど質問に答えていくと、診断結果が出た。


「クリエイティブなことが向いているって出たけど」

「あら、いいじゃない」


 クリエイティブなことってなんだ。創作活動のことだろうか。生まれてこの方創作活動なんてしたことがないんだが。どうしてこうなった。


「興味があるものを作ってみたらいいんじゃないかしら」

「興味があるもの?」

「そう、たとえば難しいけどゲームとか」

「ゲームを作る……おもしろそうだな」


 確かに自分の手でゲームを作るというのはおもしろそうだ。頭の中にイメージがどんどんと湧いてくる。

 だけど、ふと冷静になる。俺は話も作れないし、絵も描けない。プログラミングもできない。何もできない男だ。


「俺には無理だよ」

「そんなことないわよ。本気で作りたいなら、頑張れるはずよ」

「いやいや、絵も描けないし、プログラミングもできないんだけど」

「絵は才能じゃなく努力だし、プログラミングも同じよ」


 絵が才能じゃないというのはいまいち信じられない。

 それにプログラミングと同時に勉強することは難しいだろう。


「やっぱりゲームは難しいと思う。もっと他のものじゃないと」

「だったら漫画はどうかしら」

「漫画……」


 正直、漫画は割と読む方だ。だから興味がないわけじゃない。でも、漫画は画力だけでは作れない。お話を作る才能が必要だ。


「自信ないなぁ」

「だったら綾香と組んでやってみたら」

「綾香さんと?」

「ええ。綾香は小説を書いているでしょ? お話を作るのは得意なはずよ」

「でも綾香さんがなんていうか」

「綾香なら、唯斗くんがやりたいことを見つけたって言ったら喜ぶと思うわよ」


 やりたいことか。確かにこれまでの人生、何もない人生だった。何かに本気で打ち込んだこともないし、夢中になったこともない。その寂しさが俺の中には常にあった。


「わかった。やってみるよ」

「そうね。頑張って。応援するわ」


 俺は決意をした。絵に本気で取り組むと。正直、現状の俺の絵は小学生とそう変わらない。美術の成績だっていい方じゃない。でも、愛奈さんの言葉なら信じられる。絵は才能じゃなく努力。不思議と自分の胸の内にすっと入ってきた。


「ただいま」


 綾香さんがバイトを終えて帰ってきた。俺はさっそく綾香さんのもとに向かう。


「綾香さん、俺、漫画の勉強することにした」

「は? いきなりどうしたの?」

「自分でも愛奈さんに乗せられてるなってわかってるんだけど、なんだか無性に挑戦したくなって」

「漫画って、あなた絵が描けるの?」

「めっちゃ下手だよ」

「それなのに漫画?」

「ああ。まだ俺は十代だし、挑戦できると思うんだ」


 世の中には三十歳を超えてから、新しいことにチャレンジする人だって大勢いる。その人たちに比べれば、俺はまだまだ若い。


「なんだかよくわからないけど、良かったわね。やりたいことが見つかって」

「ああ。今凄くやりたい欲求がみなぎっている」

「なんかいい顔をしてるわよ」

「それと綾香さん、昼間のお弁当ありがとう。まさか綾香さんが作ってくれていたなんて思わなかったよ」

「ちょっ……えっ、ママ⁉」


 綾香さんが顔を真っ赤にして振り返る。そして俺の顔を見ると、赤い顔のまま俯いた。


「綾香さんも初めてのことに挑戦しているんだって思ったら、俺も刺激を受けちゃって」

「言わないでよ。へたくそなんだから」

「なんで? 美味しかったよ?」

「あなたは、お世辞を言ってるだけでしょ」

「綾香さん自身も食べてたじゃないか。美味しかったでしょ?」

「それは……」


 綾香さんが視線を泳がせる。綾香さんが自分で作ったってことを言わなかったのは自信がなかったからだろう。でも、俺はそんな綾香さんの努力がとても愛しく思える。


「できたら今後も綾香さんのお弁当食べたいな」

「わかった。わかったから! 作るから」


 綾香さんはそう言って頬を紅潮させた。


「ママ、もっと料理教えて」

「ええ。任せて頂戴。綾香が唯斗くんの胃袋を掴めるように応援するわ」

「そういうのじゃないから!」


 やっぱり俺は二人のことが好きだ。恋愛感情とかそういうのじゃなくて、人として好きだ。これが家族の温かみってやつなのか。とても眩しく見える。

 うちとは大違いだ。本当に羨ましい。俺は二人の仲睦まじい様子を見ながら、気付けば破顔していた。

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