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友達として

 翌日、学校に行くと真壁が俺に話しかけてきた。


「よっ、お前いろんなところで目撃情報出てるぞ」

「目撃情報って?」

「荊姫と一緒にいるところ」


 まあ確かに俺と綾香さんはだいたい一緒にいることが多い。昼休みは一緒にお弁当を食べているし、放課後は図書室で一緒に勉強している。帰りも一緒に愛奈さんのところへ行くから、だいたい一緒にいるだろう。


「お前ら、もしかして付き合ってるのか?」

「まさか。友達だよ」

「本当なんだな。あまりにも一緒にいるから、付き合ってるのだとばかり」

「まあ綾香さんに付き合ってと言われたことはあるけど」

「はあっ⁉ なんだそりゃ! それでなんで付き合ってないんだよ」

「断ったからに決まってるじゃないか」

「なんで断ってんだよ! あの荊姫だぞ!」


 どうして断ったと言われても理由は一つしかない。そもそも綾香さんは恋愛感情から俺に付き合ってと言ったわけではなかったから。あれは愛奈さんを俺に取られたくないが故の暴走に過ぎない。


「別に綾香さんは俺のことが好きってわけじゃなかったから」

「好きじゃないのに告白するか?」

「まあいろいろあるんだよ」


 さすがの俺も綾香さんの秘密を守ることぐらいはする。綾香さんがマザコンだということは、墓場まで持っていく秘密だ。


「真壁だから話したんだ。他の人に言いふらすなよ」

「わかってるって。そんなことしたら荊姫に殺されるわ」


 余程綾香さんに振られたことがトラウマになっているのか、身震いする真壁。

 そんな感じで朝の時間を過ごし、午前の授業に臨む。最近は綾香さんに勉強を見てもらっているからか、前より授業についていける。

 前までならすぐに飽きて、ゲームのことを考えていたのに、変わったものだ。

 そうして午前の授業が終わると、昼休みに入る。俺は教室を出て、綾香さんと一緒に屋上に向かう。


「今日のお弁当なんだけど……」


 綾香さんがしどろもどろになりながら上目遣いで俺を見る。


「ママがちょっと失敗しちゃったらしくて」

「全然大丈夫だよ。むしろいつも作ってくれたありがたいし」


 俺はそう言って弁当を受け取る。ふたを開けると、なるほど確かに見栄えはいつもより悪い。いつも完璧な愛奈さんらしくはないが、彼女でも失敗することぐらいあるだろう。

 俺は手を合わせて弁当に箸をつける。


「全然美味いよ?」

「そ、そう?」


 綾香さんの顔が華やぐ。それまで不安そうだった顔から一気に華やぎ、安堵したように胸をなでおろす。


「うん。美味い。見た目は確かにいつもより劣るけど、味の方は美味い」

「ありがとう。ママに伝えておくわ」


 綾香さんは上機嫌になると、自分もお弁当を食べ始める。


「それよりさ、今朝、真壁から聞いたんだけど、俺と綾香さん付き合ってるって思われてるっぽいよ?」

「そうなのね。私は全然問題ないわ。むしろあなたをママから引きはがすのが目的だし」

「今もその目的は変わってないんだね」

「当たり前じゃない。あなたをパパなんて絶対呼びたくないもの」

「だから俺と愛奈さんはそんな関係じゃないってば」


 どう考えれば十八歳年下の高校生と結婚するなんて話になるのだろうか。綾香さんは相変わらず想像力が豊かだ。


「あなたはそうでもママが、どう思ってるかわらかないじゃない」

「愛奈さんは俺のこと友達としか思ってないよ」

「でも、パパが死んでからママが男の人を私に紹介したの、あなたが初めてだったのよ?」

「紹介って、友達としてでしょ?」


 あの日、綾香さんがバイトしてたカフェで愛奈さんと初めて会った。綾香さんのお母さんだったのは驚いたけど、俺にとっては何も変わらない。愛奈さんはネトゲで仲良くしている親友、ハムスケさんだ。


「とにかく、綾香さんが心配するようなことは何もないから」

「そうだといいけど。まあ油断はしないでおくわ」


 最近は俺のことも少しは信頼してくれるようになったと思ったけど、まだまだみたいだ。やはり愛奈さんのことになると目の色が変わる。


「というか綾香さんは俺と付き合ったとして、それでいいわけ? 自己犠牲になるけど」

「どうして自己犠牲になるの?」

「好きでもない相手と付き合うって結構しんどいものだよ。綾香さんが考えているような生半可なものじゃない」

「それは……」

「ちゃんと好きな相手と付き合った方がいいよ」

「……バカ」


 何故か罵倒された。俺も綾香さんとはずいぶん仲良くなってきた。一緒にいる時間も増えたし、家で一緒に遊ぶことも増えた。綾香さんのBL小説だって読ませてもらっている。綾香さんの深い部分に触れている自覚はある。だけど、綾香さんが愛奈さんを守るために自分を犠牲にして俺と付き合うことを、俺は認めない。そんなの綾香さんの友達として許されることじゃない。

 だから俺は何度でも綾香さんのアプローチを断る。たとえ、ほんのわずかにだけど、綾香さんのことが好ましく思えてきたのだとしても。好きでもない相手と付き合うってそんなに簡単なことじゃない。俺の両親を見ていればわかる。どうせうまくいかないのだから。

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