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カラオケの楽しみ方

 さて、カラオケに来るのもほとんど初めてなのだが。ぼっちは人前で歌ったりできないのだ。現に俺も綾香さんもデンモクを前に固まってしまった。それを見かねた愛奈さんがデンモクを手に取った。


「じゃあ私から歌っちゃおうかしら~」


 愛奈さんは流れるような所作でデンモクを操作し、曲を入れる。イントロが流れ始め、室内が盛り上がりを見せる。


「って、これゲームソングじゃん」

「そうよ~。やっぱりカラオケは好きな曲歌わないとね」


 愛奈さんが歌っているのは俺たちがプレイしているネトゲの主題歌だ。まさかカラオケに入っているとは。

 愛奈さんに誘われ、俺はマイクを握らされる。一緒に歌おうと愛奈さんがウインクしてくる。

 俺は恥ずかしさと好奇心の間で揺れる。正直、知っている歌だし歌ってみたい。だけど、人前で歌うのは恥ずかしい。

 心臓の鼓動がうるさい。俺は震える声で、愛奈さんと一緒に声を重ねた。


「がちがちじゃない」


 歌い終えると綾香さんにすぐ突っ込まれる。確かにものすごい緊張感だった。声は震えていたし、ほとんど裏返っていたように思う。だけど、不思議なことに悪い気はなしなかった。愛奈さんと一緒に歌えたことが嬉しかったし、楽しかった。


「綾香さんも歌うべきだよ、これは」

「私はいいわよ」


 そう拒絶する綾香さんに愛奈さんが再びデンモクを操作する。そうして流れたイントロは聞きなじみのないものだった。


「これは……⁉」


 綾香さんの目が見開かれる。綾香さんは俺を押しのけてマイクを握ると、いきなり熱唱し始めた。愛奈さんと一緒に歌っているが、かなり音を外している。綾香さんって音痴なのか。

 だが、音痴なことを気にする様子もなく、綾香さんは熱唱した。それはそれは楽しそうに歌うので、俺も思わず聞き入ってしまった。そうして歌い終えた綾香さんが我に帰り、顔を真っ赤に染める。


「音痴だったけどいい歌いっぷりだったよ」

「それ褒めてないわよね⁉」


 綾香さんが俺を睨んでくる。つい綾香さんはいじりたくなってしまうんだよな。


「でも、ママ、どうしてこの曲を知ってたの」

「綾香にBLを教えたのは誰だと思っているのよ」


 なるほど。BLの曲だったか。どうりで綾香さんがノリノリで歌うわけだ。しかし、俺たち二人ともまんまと愛奈さんに乗せられたな。あれほど人前では歌わないと誓っていた俺たち二人が、気付けば熱唱していたのだから。


「カラオケはね。上手い下手じゃないの。自分の好きな曲を目一杯歌うのが醍醐味なのよ」


 なるほど。確かにこれは少し楽しいかもしれない。何曲か歌ううちにどんどん声も出るようになってきた。人前で歌うのにもだんだんと慣れてきて、楽しむ余裕が生まれてきた。

 愛奈さんの言う通り、好きな曲を全力で歌うと爽快だ。


「なんであなたさっきから昭和の歌謡曲ばっかり歌うのよ」

「いいだろ。昔の曲好きなんだよ。そういう綾香さんはアニソンばっかりだね」

「アニソンは乗れるじゃない。盛り上がるでしょ」


 ちなみに俺たち二人とも、最近の歌はあまり歌わない。というより歌えない。最近の流行りの曲は、キーが高かったり複雑だったりで俺たち初心者には難しいのだ。だが、愛奈さんは違った。愛奈さんは最近の流行りの曲を難なく歌いこなしていた。

 この人、ちょっと超人すぎやしないか?


「凄いわ、ママ!」

「ありがとう。綾香と唯斗くんもいい感じよ」


 愛奈さんは地声が高いので、キーが高い歌でも上手に歌いこなせる。俺も少し愛奈さんのように歌いたいと憧れるけど、俺はそんなに高い声は出ない。

 そうして二時間ほどカラオケで楽しんだ俺たちは会計を済ませて部屋を出る。


「楽しかったわね」

「なんだかあっという間だったね」


 施設の外に出ると日は傾き始めていた。こんなに時間が過ぎるのが早かったのは初めてのことだ。


「綾香さんどうだった。何か参考になった?」

「わからないわ。でも陽キャたちがこういうところで遊ぶ理由が少しわかったかもしれないわね」

「俺もだよ。確かに楽しかった」


 俺は基本的に家でゲームばかりしている人間だ。外に出て誰かと遊ぶのがこんなに楽しいものだとは思わなかった。


「二人とも、たまにはこうやって遊ぶのも楽しいでしょ」


 愛奈さんが俺たち二人を見て微笑んでいる。今日は愛奈さんについてきてもらってよかった。俺たちふたりだけなら、右往左往してこんなに楽しめなかっただろうから。


「友達と遊べば、もっと楽しいわよ」


 愛奈さんの言葉に、綾香さんが頷く。


「そうね。友達、作ってみようかしら」


 綾香さんが前を向いた。俺はどうするのだろう。俺も友達を作るべきなのだろうか。だけど、今さらどうやって作ると言うのだ。

 俺と綾香さんは男女だ。やっぱり好きなものも違うし、感性だって違う。だから同性の友達を作りたいが、作り方がわからない。


「道のりは長いな」


 俺は溜め息をつきながら、伊原親子と一緒に帰路に就く。すると、綾香さんが俺の隣に立った。


「今日は付き合ってくれてありがとう」

「俺の方こそ。楽しかったよ」

「ええ。私もよ」


 こうやって素直な気持ちを口にできたなら、綾香さんはすぐに友達を作れるだろう。そうなると少しだけ寂しいなと思った。

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