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協力プレイ

 人生ゲームを終えた俺たちはそれぞれリラックスして過ごしていた。愛奈さんは夕食の準備にとりかかっており、俺と綾香さんは部屋でくつろいでいる。


「ふーん、これがあなたとママが一緒にやってるゲームなのね」

「そう。ネトゲだから、協力するのが醍醐味なんだ」

「他人と協力なんて私にはよくわからない感覚ね」


 綾香さんはそう言うと、愛奈さんのキャラクターを開いた。


「完全に男の子キャラね」

「まあ愛奈さんは女ばれしないようにしてたからね」

「そこまで配慮してゲームってしたいものなのかしら」

「綾香さんもゲームの楽しさは理解しただろ」

「確かに楽しかったけど、あなたみたいにはまってるわけじゃないわ」

「じゃあためしに協力ゲーをやってみない?」


 ちょうど愛奈さんがゲームソフトをいくつか持っていた。綾香さんは頷くと、目を輝かせる。


「家にゲームがあるのにゲームをしたことがない人って初めて見たよ」

「しかたないじゃない。興味なかったんだから」


 普通子供はゲームに夢中になるものだと思うが。そうして俺が選んだソフトは誰でも知ってるファミリー向けのゲームで、プレイヤー同士が協力してステージクリアを目指すというものだった。綾香さんはさっそくコントローラを握ると、説明書とにらめっこする。


「なるほど。比較的簡単な操作なのね」

「ファミリー向けだからね。まあやってみようか」


 俺はゲームを起動すると、最初のステージに挑む。綾香さんは雑魚キャラに苦戦していた。俺の協力を得て、なんとか雑魚キャラを倒す。


「いいよ綾香さん、その調子」

「なんだかコツがつかめてきたわ」


 実際はまだまだ不安定な操作だが、俺は綾香さんを肯定した。褒めて伸ばす作戦だ。綾香さんは俺と協力しながらステージを進めていく。そうして最初のステージを無事にクリアした。


「クリアしたの?」

「うん。無事にクリアだよ」

「初めてゲームをクリアしたわ」


 綾香さんの目は澄んでいた。とても純粋にゲームを楽しんでいるのがうかがえる。


「協力するのって案外悪くないわね」


 実際、綾香さんが俺のピンチを救ってくれた場面があった。まあ意図的にピンチを俺が演出したのだけど、綾香さんはそれに気付いた様子はない。お互い協力してゲームクリアを目指すゲームの醍醐味を知ってほしかったからだ。

 綾香さんは少しだけ嬉しそうに口の端を吊り上げた。

 それから綾香さんとしばらくの間ゲームに興じる。ステージが進んでいくと、さすがにクリアは難しくなってくる。結局、ゲームオーバーになってしまい、綾香さんが悔しそうに歯噛みする。


「ふたりとも~、ごはんできたわよ~」


 俺たちがゲームを楽しんでいる間に、愛奈さんが夕食を作り終えていた。綾香さんは名残惜しそうにコントローラーを離すと、一緒にダイニングに出る。


「綾香、ゲーム楽しかった?」

「うん。誰かと一緒に遊ぶのも悪くないわね」

「でしょ~。ママの趣味を理解してくれて嬉しいわ~」

「当たり前でしょ。私はママのこと全肯定なんだから」


 綾香さんの愛奈さんへの愛情は相当深い。この愛情をクラスの女子に少しでも向けることができたなら、友達はできると思うけどな。

 綾香さんと一緒に愛奈さんの手料理に舌鼓を打ちながら、雑談に興じる。俺が伊原家の食卓にいることも違和感がなくなってきた。それぐらい、俺はこの家に馴染んでいる。


「ていうかあなたの家の人は心配しないの。毎晩余所で夕飯を食べて」

「うちは父さんが仕事で忙しいから。帰ってくるのもいつも深夜だし」

「それに唯斗くんからは食費ももらってるしね~」


 父さんから預けられた食費を愛奈さんに横流ししている。俺としては栄養バランスの考えられた愛奈さんの手料理を食べられるのなら、安い買い物だ。

 正直、昼の弁当もずいぶん助かっている。


「ふーん、あなたママがいないんだ」

「まあな。離婚してて」

「ママに会いたいとか思わないの?」

「思わないな。母さんは俺が小さいときに家を出ていったし、向こうも俺に会いたいなんて思ってないだろ」

「なんだか寂しいわね。私だったら考えられないわ。ママに会えないなんて」


 母親の顔を俺はもう覚えていない。記憶にあるのは仕事を一生懸命頑張って俺を育ててくれた父さんの姿だけだ。

 だから俺は父さんに報いるためにも、せめて高校はきちんと卒業したい。


「でも俺テストがやばくて。毎回赤点すれすれなんだよなぁ。次の期末もちょっとやばいかも」

「情けないわね。勉強なんて普段からコツコツやってたら大丈夫でしょ」


 耳が痛い。俺は愛奈さんとゲームをするのに夢中で勉強はそっちのけだった。真面目な綾香さんからしたら信じられないだろう。


「まあ私は家から近い高校行くのにレベルを落として受験したから、今の高校の授業は余裕だけど」

「だよね。綾香さんぐらい頭良かったらもっと上の学校も狙えたはずだし」

「ママとの時間が減るのは嫌だからね」


 それでいいのか。この様子だと大学も家から通えるところを選びそうだ。


「でも、よかったら私が勉強教えてあげようか? その……友達、だし」

「いいの?」

「こういう時って力になるのが友達なんじゃないのかなって思うし」

「嬉しいよ」


 素直じゃない綾香さんを微笑ましく見守りながら、俺と愛奈さんは顔を見合わせて笑った。

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