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入学初日

翌日、レンは学園長に連れて行かれ、転入生であることを紹介された。

「何かと分からない事も多いでしょうから、皆さんでサポートしてあげてくださいね」

その言葉の後に、レンは指定された自分の席に着席した。


「やぁ転入生。俺はセザール・ジャイルズ。セザールって呼んでくれ」

席に座ると、隣りに座っていた青年がレンに話しかけてきた。

「ボクはレン・モーリス。レンでいいよ」


二人は軽く握手を交わし、挨拶をする。短髪で身長もそれなりに高く、親しみやすい笑顔が彼の性格を伺わされた。

「ところで、この学校で転入生なんて初めてだって聞いたが、どういう訳で入ってきたんだ?」

前例のない転入は興味を惹くのだろう、セザールはレンに尋ねる。


「実は学園長のちょっとした知り合いだったんだよ。それで来ないかって誘われたんだ」

ウソではないが、当たり障りのない理由を話す。

「へぇ、学園長が。ってことは、実技の方もかなりの腕前だったりするのか?」


「残念ながら普通だよ。家柄がいいってわけでもないしね」

そう言ってレンは自分の腰に差している人工魔具を指差す。

「そうなのか。学園長直々のオファーって相当だと思うけどな」


セザールの言う通り、このバエス魔道学園は、今まで転入というシステムを採用していなかった。

理由としては、名高い魔道士の家系も多い中で、一貫した教育を施したいというものと、単純に魔道士は己のレベルに合わせた魔道学園に入学するからだ。

魔道学園は、国からの補助金も多く、金銭面的な苦労はほとんど存在しない。そのため、貧乏でも実力があれば自由に学園に入ることが出来るのだ。


学園を卒業できれば高給な就職先も多く、魔法の素質があれば予め魔道学園に入るのが一般的だ。

加えてバエス魔道学園は帝国に数ある魔道学園の中でもトップクラスの魔道学園であり、そもそも入学前から志望する魔道士も多い。

つまり、レンのような特殊な事情がない限りは、転入という事は起こりえないのであった。


「では、転入生の方もいらっしゃるようなので、最初に魔法の基礎から軽くおさらいしていきましょうか」

レンが転入したクラスの講師が、講義を始める。

「魔法とは、一部の人間に備わっている魔力と呼ばれるエネルギーを使って、現状自然には起こりえない現象を起こすことを指します」


「魔具と呼ばれる道具に、魔力と共に原魔法、魔法の源となるものを注入することで、魔具から魔法が発動されます。ここまでは問題ありませんね?」

講師はレンの方を見て、当然知っているだろうといった様子で説明を続ける。

「魔具は、具体的な原因は明らかになっていませんが、武器や宝石、貴金属が魔力と反応して力を持ったものとされています。自然的にこれが起きたものが天然魔具、人工的に起こしたものが人工魔具とされています。天然魔具は非常に希少価値の高いもので、人工魔具にはない、それぞれ固有の特殊な能力があるとされています」


この学園にも、天然魔具を持っているものは少なくない。高値で取引されているものを購入したものか、家系に代々伝わっているものなのだろう。

「固有の能力は魔具によって様々で、特定の魔法を発動する際に通常ではあり得ない出力で魔法が発動したり、特殊な付加効果をもたらしたりなど、様々です」

つまり、天然魔具を持っているというだけで魔道士にとってはアドバンテージであり、ステータスでもある。


「このクラスにも天然魔具を持っている生徒がいらっしゃいますね。どうせなら見せていただきましょうか。天然魔具を持っている方はいらっしゃいますか?」

すると、一人の男子生徒が手を挙げる。

「アレク・マクファーソンくん。それでは、教壇の方に来て頂けますか?


アレクと呼ばれた生徒が教壇に現れる。

「では、マクファーソンくんの天然魔具の能力を教えて頂けますか?」

「俺の魔具の効果は魔法の威力向上。同じ原魔法を注入しても、人工魔具とはケタ違いの威力を発揮することが出来ます」


魔法の威力向上はオーソドックスな天然魔具の効果だ。だがその向上率には魔具ごとに大きな違いが出る。

ただ、彼が持っている剣の魔具は、相当な一品なのだろう。レンは見ただけでその魔具の完成度の高さを感じていた。


「ありがとうございます。ただ、見ただけでは分かりづらいでしょうから、転入してきたモーリスくんにその魔具の力を試させては頂けませんか?」

そう言うと、アレクはレンを、正確にはレンの腰に差してある魔具を一瞥した後、講師に向き直る。

「すみません。この天然魔具はマクファーソン家に代々伝わる由緒正しい魔具。どこの馬の骨とも分からない輩にお貸しすることは出来ません」


「あ、あはは、そうですよね。天然魔具は貴重なものですからね。すみません、私が図々しい事を言い出したばかりに」

講師はアレクとレンにペコリと頭を下げ、アレクを席に戻らせた。

当然の理屈だ。魔具を人に貸すなどよっぽどの理由がない限り行うべきではない。レンはそう思っていたため、彼の皮肉には気づかなかった。


「それでは、原魔法の説明に移りましょうか。原魔法とは魔法の設計図のようなもの。いくら魔力を注ぎ込んでも原魔法が正しくないと、魔法は発動しません」

魔法において、魔道士の能力次第で大きく効果が変わるのが原魔法だ。魔具が劣っていても、原魔法さえ正しく注入すれば、魔法は発動する。

「では試しに魔法を発動させてみましょう。”シャイン”」


講師の身につけていた指輪型の魔具から、光の球が現れる。

「私が付けているのは購買でも買える基礎練習用の魔具ですが、このように問題なく魔法を発動することが出来ます。勿論威力や効果はグレードの高いものには及びませんけれど」

「あなた方学園生に学んでいただきたいのは、魔法の威力でなく、正しく適切な魔法を適切な場面で発動すればいいのだということです。血気盛んな年頃だとは思いますが、その点だけは注意して頂きたいと思います」


そう言ったところで、終業のチャイムが鳴った。

「今回はここまでにします。次からは通常通り授業を行いますので、モーリスくんは予習をしっかりとしてきてくださいね」

講師は一礼をすると、教室を出ていった。


「どうよ、初授業の感想は」

隣りのセザールがレンに話しかけてくる。

「授業ってのは普通こんな感じなのかな? 学園というのは初めてだから、新鮮だったよ」


レンは義務教育どころか、通常の教育を受けていない。そのため、為になるかは置いておいて、こうして同年代の人間と講義を受けるのは悪くないと思った。

「普通も何も、基本は話を聞いているだけだぜ。退屈ったらありゃしねぇ」

「でも、色々な事を教えてもらえるのは面白いことだと思うよ」


レンは戦闘、暗殺に必要な知識は叩き込まれているが、それ以外は全くと言っていいほど無知である。勉学の場は素直にありがたいと思っている。

「あと、随分な言われようだったな」

「言われよう?」


「アレクのことさ。あくまで平民を相手にするような口ぶりでさ」

「あぁ、でもむやみやたらに人に魔具を貸すものではないし、あれは講師も悪いと思うよ」

「それにしてもさ。どこの馬の骨とも~とか言われてカチンと来なかったのか?」


セザールはあたかも自分が言われたかのように文句を垂れている。

「彼は有名な生まれなのかい?」

「知らないのか!? 現七賢人(セブンス)の一人、レナード・マクファーソンの弟だよ。ほら、どことなく顔も似ているだろ?」


「そういえば。マクファーソンと聞いて聞き覚えがあったと思ったら、彼の弟だったのか」

言われてみれば兄の方にも似たような言動を受けていた記憶がある。

「彼って知り合いみたいな言い方だな」


「まさか。天下の七賢人と知り合いだなんて、そんなに顔は広くないよ」

七賢人と知り合いという情報は隠しておいた方が良いと考え、レンは嘘をつく。

「だよなー。ただ、学園長と知り合いっぽかったし、もしかしたらって思ってな」


「別に学園長ともそれほど親しい繋がりってわけじゃないから」

最強魔道士育成プログラム、その時の軽い面識程度しかない。

「ふーん、確かに魔具を見る限りは、悪いけど金持ちってわけじゃなさそうだしな」


レンが腰に差しているのは魔具を扱う店であればどこでも購入ができる基礎練習用の量産型魔具と同様の形をしている。

グレードにもよるが魔具にしては破格の価格で購入できるものだ。

「ウチも天然とは言わないまでもかなり奮発して専用の人工魔具を買ったからな。正直身の丈には合ってないと思うよ」


セザールは自分の杖型の人工魔具をプラプラとさせている。

人工魔具にも専用品と量産品がある。裕福な家庭以外は奮発して人工の専用品を買うのがよくある話である。

「いい魔具じゃないか。使い方次第で天然魔具にも劣らない性能を発揮できると思うよ」


お世辞を抜きにしても、セザールが持っている人工魔具は悪くない一品であった。

「ありがとな。ってなんで俺が慰められてるみたいになってんだ?」

「あはは」


「ま、午後は実技演習だ。レンの実力も見せてもらおうじゃないの」

気合の入った表情で準備をするセザール。やはり学園生にとっては実技の方が重要度は高いらしい。

「お手柔らかに頼むよ」

レンはそう言って、実技演習場へと向かった。


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