第9話:王宮の微熱と、裏切り者の影
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暗殺ギルドのアジトを壊滅させ、王国内部に「裏切り者」がいるという重大な情報を手に入れた主人公・空。
今回は、その内部の敵をあぶり出すため、再び王宮の舞台へと足を踏み入れます。
影の貴公子が仕掛ける、巧妙かつ冷徹な罠と駆け引きをぜひお楽しみください!
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暗殺ギルド『黒曜の巣』の国内アジトを壊滅させてから数日。
連才家の豪邸の私室で、空は机の上に広げられた王宮の勢力図と貴族名簿をじっと見つめていた。
(スズメスズメ帝国に繋がる裏切り者……。モクモク王国内部で、我が家の存在を最も疎み、かつギルドに資金を流せる権力者)
条件は絞り込める。
表向きは連才家を讃えつつ、裏では王国の防衛網や外交の機密を他国に売り渡しているような者。宰相派のバルトロ伯爵のような露骨な小物ではなく、もっと上層部、あるいは王族に直接意見できるほどの地位にある人間だ。
コン、コン。
静かなノックの音とともに、重厚な扉が開き、父親が足音を忍ばせて入ってきた。
「空、調子はどうだ」
「順調です、父上。ギルドの支部長から得た情報の精査も終わりました」
空が名簿の一箇所を指し示すと、父親はわずかに目を細めた。
「ほう……そこに当たりをつけているのか」
「はい。王国内部で我が家の動向を最も正確に把握でき、かつ外部の組織と連絡を取れる立場にある者となると、自然と絞られてきます。……次の王宮の評議会、あるいは晩餐会を利用して、尻尾を掴むつもりです」
息子の冷徹で淀みのない計画を聞き、父親はどこか誇らしげな、それでいて不敵な笑みを浮かべた。
「いいだろう。お前のやりやすいように進めなさい。我が連才家を害する者に、慈悲など必要ない。たとえそれがどれほど高貴な身分であろうとな」
数日後の夜。
モクモク王国の王宮、その中でも限られた重鎮しか立ち入ることのできない小食堂で、非公式の晩餐会が開かれていた。
華やかな大広間の夜会とは異なり、参加者はわずか十数名。王国の宰相、軍の最高幹部、そして数名の有力貴族たちだけだった。
その末席に、次期当主として特別に招かれた連才空の姿があった。
「いやはや、連才の若君。先日の夜会では、バルトロ伯爵を相手に堂々たる振る舞いだったとか」
上品な笑みを浮かべながら空に声をかけてきたのは、王国の財務長官を務めるグレアム侯爵だった。初老の紳士であり、常に穏やかな物腰と温厚な人柄で王宮内からの信頼も厚い人物である。
だが、空の研ぎ澄ませた感覚は、グレアムの纏う香水の奥から、微かに「血と硝子の冷たい匂い」を嗅ぎ取っていた。
(この男だ)
空は心の中で静かに確信した。
表向きの温和な笑顔の裏で、このグレアム侯爵こそが、スズメスズメ帝国や暗殺ギルドと裏で手を結び、連才家を排除しようとしている王国内部の黒幕だった。
「お褒めいただき光栄です、グレアム侯爵。ですが、王国の平和を乱す不心得者がいる限り、我が家としては厳格に対処せざるを得ませんから」
空が穏やかな笑みを貼り付けたままそう返すと、グレアムの瞳の奥がほんの一瞬だけピクリと揺らぎた。
「ははは、頼もしい限りですな。……ですがね、若君。力というものは時として、使い所を誤ると自らを滅ぼす諸刃の剣になりかねません。影でどれほど優れた功績を上げようとも、陽の当たらない者は、いつか必ず光に焼かれるものです」
それは遠回しな、しかし明確な脅しだった。
周囲にいる他の貴族たちはワイングラスを傾けながら二人の会話に気づいていないが、グレアムの放つ殺気は確実に空を標的にしていた。
「光に焼かれる、ですか」
空はグラスを持ち上げ、その中をゆっくりと揺らした。赤ワインの液体が波打つ。
「侯爵、一つお尋ねしてもよろしいですか?」
「おや、なんでしょうか」
「影で国を守る者と、光の裏で私腹を肥やし、他国に国の機密を売り渡す者……どちらが本当に、このモクモク王国にとっての『害虫』だと思われますか?」
空のその言葉に、グレアムの表情から完璧だったはずの温和な笑みがわずかに消えかけた。
だが、長年王宮の権力闘争を生き抜いてきた古狸だけあって、男はすぐに涼しい顔を取り戻した。
「……若君は、少しお酒が過ぎたようですな。何を言っているのか、私には理解しかねますが」
「理解できなくていいのです。ただ、事実だけを確認しに来たので」
空はゆっくりと立ち上がり、グレアムの耳元へと顔を寄せた。
周囲の人間にはただの親愛のジェスチャーに見えたが、空の唇から発せられた声は、地獄の底から響くような凍てつく冷たさを帯びていた。
「『黒曜の巣』の国内支部長は、最後にこう言っていましたよ。……王国内部の高い地位にいる人間が、自分たちのスポンサーだったとね」
グレアムの全身から、一瞬にして血の気が引いた。
老いた身体が強烈な恐怖に硬直し、グラスを持つ手がわずかに震える。
「き、貴様……何を……!」
「ご心配なく。今日のところは証拠を突きつける気はありません。ですが……」
空は冷ややかに微笑み、グレアムの肩にそっと手を置いた。その瞬間、微量の黒い魔力がグレアムの衣服を通じて心臓の周辺へと密かに侵入した。
「次に我が家の邪魔をするような真似をすれば、次はペコペコ王国の特務騎士団長と同じ結末を迎えることになります。……せいぜい、残された時間を大切に過ごすことですね、侯爵」
それだけ言い残すと、空は返事も待たずに身を翻し、小食堂の扉へと歩み出した。
背後で、グレアム侯爵が冷や汗を流しながら荒い息を殺しているのが痛いほどによく分かった。
王宮の廊下を歩きながら、空は夜風の吹き抜ける窓の外を見上げた。
モクモク王国の内部に巣食う毒蛇の尻尾を、まずはしっかりと踏みつけた。だが、それは同時に、敵がさらに焦燥感を募らせ、より直接的で巨大な手段に出てくることを意味していた。
(裏切り者をあぶり出したことで、向こうも次の一手を急ぐはずだ。……さあ、次はどんな手で来るのかな)
神に禁じられた暗殺術を背負う少年は、静かに、しかし圧倒的な自信を湛えた笑みを浮かべた。
王国の運命を揺るがす巨大な陰謀の渦中で、影の貴公子の反撃は、いよいよ核心へと突入していく。
第9話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに王国内部の裏切り者であるグレアム侯爵に直接宣戦布告を行った空。追い詰められた裏切り者が次にどのような行動に出るのか……!
次回、いよいよ物語はさらなる大きなうねり、国を揺るがす激動の展開へと突入します!




