第7話:地下迷宮の粛清者
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大陸最大の暗殺ギルド『黒曜の巣』の国内アジトを突き止めた空。防戦ではなく先制攻撃を選ぶ連才家の血筋らしく、いよいよ主人公が敵の巣窟へと単身(あるいは影の潜入で)足を踏み入れます。
敵の縄張りで繰り広げられる、圧倒的かつ冷徹な「暗殺劇」の幕開けです。今回もぜひお楽しみください!
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首都の華やかな表通りから、馬車で数十分離れた外れ。
かつて鉱山の採掘や下水の排水路として使われていたが、現在は王国の拡張計画から外れ、治安維持組織すら足を踏み入れない「死の区画」と呼ばれる地下迷宮があった。
深夜零時。
その錆びついた鉄格子の扉の前に、一人の影が立っていた。
——連才空、十二歳。
漆黒の外套に身を包み、顔の大部分をフードで覆ったその姿は、周囲の闇と完全に一体化していた。彼の発する気配はゼロであり、近くを通りかかる夜の獣や魔物すら、そこに人間がいることに気づかない。
(ここだな、『黒曜の巣』の国内拠点)
空は魔導石が示した反応を思い出しながら、冷たく湿った地下通路へと足を踏み入れた。
足音は一切しない。空気の振動すらも自らの魔力で完璧にコントロールし、まるで水面を滑るように石畳の通路を進んでいく。
地下道を進むにつれて、空気の質が変わっていった。
ただの湿気ではない。微量の毒気が混じり、周囲の魔力が澱んでいる。プロの殺し屋たちが好んで隠れ家にするだけのことはあった。通常の騎士や兵士であれば、ここに足を踏み入れた瞬間に呼吸器を冒され、意識を失うか、あるいはあちこちに仕掛けられたトラップの餌食になっていただろう。
だが、幼い頃から毒の種類や罠の構造を遊び道具のようにして育った空にとって、この程度の罠は子供の玩具の延長線上に過ぎなかった。
(あそこに隠し罠の魔導線。……こっちには、足を踏み踏みすると神経毒の針が飛んでくる仕組みか)
空は一切の迷いなく、罠の隙間を縫うようにひらりと身をかわしていく。触れることすらない。まるで幽霊のように、敵の縄張りの深部へと近づいていった。
通路の奥から、かすかな光と話し声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? 王宮の夜会に送り込んだ斥候が、昨日の夜から連絡が途絶えているらしい」
「また例の『連才』のガキの仕業か? たかが十二歳の坊っちゃんに、うちのエースがやられるわけが……」
「だが、あの家のやり口は尋常じゃない。モクモク王国の要人たちを次々と葬ってきた連中だ。気を抜くなよ」
石造りの広い空間。焚き火の囲まれた簡易的な拠点で、二人の男が酒を飲みながら雑談していた。
どちらも全身に暗殺用の武器を仕込み、一目で百戦錬磨の殺し屋だと分かる猛者だった。だが、彼らが油断していようがいなかろうが、結果に何の影響もなかった。
(——遅い)
空は音もなく、焚き火の光が届かない天井の梁の上から影のように滑り降りた。
気配はゼロ。殺気すらも意図的に完全に遮断されていたため、男たちがそれに気づいたのは、すでに空の足が地面に着地した瞬間だった。
「なっ……!?」
男の一人が振り返り、反射的に腰の短剣に手をかけようとしたが、遅すぎた。
空の右手から放たれた黒い魔力が、鞭のようにしなり、一瞬で二人の喉元を正確に貫いた。
血飛沫すら上がらない。魔力の刃が音もなく急所をえぐり、神経を焼き切ったことで、男たちは声すら上げることもできず、そのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「ふう……」
空は冷たい視線で足元に転がる二人の死体を見下ろした。
これが『黒曜の巣』の殺し屋の腕前か。そう心の中で値踏みし、空は微かに首を横に振った。
「名前ばかりが先行して、中身はただの雑魚だな」
手際よく死体を物陰に引きずり込み、血の痕跡を自らの魔力できれいに消し去ると、空はさらに地下の奥深くへと歩を進めた。ここから先が、このアジトの本当の中心部、首領がいる部屋に違いない。
さらに地下へ降りた通路の突き当たりに、重厚な鉄の扉があった。
部屋の隙間から、わずかに明かりが漏れている。中からは、低く唸るような男の話し声が聞こえていた。
「……計画に狂いが生じた。モクモク王国を内部から崩すはずだったバルトロの計画も、あの連才のガキに一蹴されたそうだ。我がギルドの面目丸つぶれだな」
「ですが、首領。どうしますか? これ以上あの家を放置すれば、我が組織の国内ネットワークがすべて根絶やしにされます」
「ふん、所詮は地方の成り上がり貴族のガキだ。いくら特異な魔力を持っていようと、このアジトの奥深くまで単身で入り込めるほどのバカではまいし――」
ガチャン、と。
唐突に、その重い鉄の扉が音もなく内側から押し開けられた。
「――誰だ!」
部屋の中にいた屈強な大男――『黒曜の巣』の国内支部長である首領が、反射的に立ち上がり、愛用の巨大な仕込み剣を抜いた。その周囲には、護衛の精鋭たちが一斉に武器を構えて扉の方に殺気を向ける。
しかし、そこに立っていたのは、大軍でも凄腕の傭兵団でもなかった。
ただの一人。
漆黒の外套を纏った、まだあどけなさが残る十二歳の少年だった。
「……お前、は……?」
支部長の男は、目の前の光景が信じられないというように目を大きく見開いた。
この地下迷宮の複雑な罠、入り口を守る精鋭たちをすべて突破し、いつの間に自分たちの目の前まで到達していたというのか。しかも、その少年は恐怖の色どころか、まるでゴミを見るような冷ややかな目で自分たちを見下ろしていた。
「僕を待っていたのかな?」
空は静かに一歩、部屋の中に足を踏み入れた。
「『黒曜の巣』の国内支部長さん。君たちが我が家に差し向けた刺客のお礼に、こうして挨拶に来てあげたよ」
「ふざけるな……! ガキ一人で、我がアジトのど真ん中に乗り込んでくるとは、いい度胸だ! お前たち、蜂の巣にしてやれ!」
支部長の怒号とともに、部屋にいた数名の精鋭たちが一斉に飛びかかった。
四方八方から放たれる無数の暗器、毒針、そして死角を突く剣撃。それは人間を確実に屠るための完璧な殺戮のコンビネーションだった。
だが――。
空は動かなかった。
正確には、動く必要すらなかった。
彼を中心に、まるで漆黒の嵐のような禍々しい魔力が一気に爆発した。
ドォン、と重苦しい衝撃波が地下室全体を揺るがす。神が禁じ、邪神が与えたとされる禁忌の魔力。それは物理的な衝撃だけでなく、相手の精神や魔力そのものを強制的に押し潰す「圧倒的な死の重圧」だった。
「ぐっ……な、なんだこの魔力は……!?」
「身体が……動かない……息が……!」
飛びかかった精鋭たちは、空に触れることすらなかった。
空中で魔力の重圧に押し潰され、全員がまるで鉛の塊のように床へと叩きつけられた。口から血を流し、意識を失う者、そのまま動かなくなる者。一瞬にして、部屋の制圧が完了した。
残されたのは、支部長の男だけだった。
男は冷や汗をダラダラと流し、手にした剣を支えに辛うじて立っていたが、その足は恐怖で激しく震えていた。
「き、貴様……化け物め……! 本当に、十二歳なのか……!?」
「年齢なんてものは、意味のない数字だよ」
空は冷ややかに微笑みながら、男の目の前へと一瞬で間合いを詰めた。
「さあ、教えてもらおうか。君たちの本拠地がどこにあるのか、そして他に誰が我が家を狙っているのかをね」
地下迷宮の闇の中で、少年の黒い魔力が、さらなる獲物を求めて静かに蠢いていた。
第7話をお読みいただき、ありがとうございました!
単身で暗殺ギルド『黒曜の巣』の国内アジトに潜入した空。罠を軽々と躱し、護衛の精鋭たちを圧倒的な「黒い魔力」の重圧で一網打尽にする圧倒的な無双劇となりました!
次回、いよいよ支部長から全ての情報を引き出し、組織の根源へと迫る展開になります。




