シーズン2:第3話:アワアワ迷宮都市と、歓迎の罠
『戦火の絶えぬモクモク王国で、暗殺稼業の成り上がり貴族の長男に転生した』第2シーズン第3話をご覧いただきありがとうございます!
道中で現れた暗殺ギルドの刺客を秒殺し、ついに大陸全土の陰謀が交差する中立地帯「アワアワ迷宮都市」へと到着した主人公・空。
華やかな表の顔の裏で、街の空腹な闇が少年を待ち構えていて……!?
新たな舞台での駆け引きを描く第3話、今回もぜひお楽しみください!
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荒涼とした街道を抜けた先、地平線の向こう側に突如として巨大な都市のシルエットが姿を現した。
それが、ペコペコ帝国、マケマケ皇国、そして我がモクモク王国をはじめとする周辺諸国の中立地帯――『アワアワ迷宮都市』だ。
都市の周囲は高さ数十メートルの白亜の壁で幾重にも囲まれ、その名の通り、街全体が常にほんのりと温かい魔力の泡と湯気のような霧に包まれている。表向きは古代遺跡から発掘される希少な魔導資源と自由貿易で栄える一大商業都市だが、その実態は大陸中の裏社会、賞金稼ぎ、スパイ、そして闇の組織が入り乱れる文字通りの「魔窟」だった。
我が家の特製馬車が、街の巨大な正門をくぐる。
「ほう……想像していた以上に、色々な国の空気が混ざり合っているね」
馬車の窓から外を眺めながら、僕は小さく呟いた。
石畳の通りには、人間の商人に混じって獣人の戦士や魔導ギルドのローブを着た魔術師、さらには顔をすっぽりと隠した怪しげな影たちが忙しそうに行き交っている。街のあちこちに設置された魔導掲示板には、高額な賞金首のポスターや、危険な遺跡探索の求人が貼られていた。
「若君、すでに王宮の特使から連絡が入っております。今回の会議の主催者側が用意してくれた滞在先は、市街地の一等地にある高級迎賓館とのことです」
向かい側の席で地図を広げながら、側近の影が淡々と告げた。
「高級迎賓館、ねえ」
僕は冷ややかに鼻で笑った。
「周辺諸国の外交官や、僕たちのような他国の代表を招く施設か。……どうせ、表面上の立派な建物の裏側では、各国のスパイが毒を盛ったり、暗殺の罠を仕掛けたりするお決まりの歓迎パーティーでも準備しているんだろうね」
「警戒を怠りません。すでに迎賓館の周辺には、我が家の情報網を通じて先回りした者の影を配置しております」
「うん、それでいいさ。わざわざ歓迎してくれるというのなら、そのお返しに僕たちの『挨拶』をたっぷり返してあげないとね」
夜のとばりが下り、アワアワ迷宮都市全体が怪しげな魔導の光に包まれる頃。
私たちは街の中心部にそびえる、白亜の豪奢な迎賓館へと到着した。
案内された一室は、貴族の邸宅をも凌ぐ広さと豪華さを誇り、テーブルの上には見たこともないような高級ワインや、色鮮やかな料理の数々が並べられている。
「ふむ。見栄えだけは一丁前だね」
僕はソファに腰掛け、冷ややかな瞳でテーブルの上の料理を一瞥した。
「若君、このワインと肉料理から、微かに『死霊系の神経毒』の反応があります。口にした者を三日以内に全身の血を凍らせて死に至らしめる、マケマケ皇国製の厄介な代物ですね」
側近が手際よく銀の短剣をワインに浸すと、刃の色がスッと不気味な紫色に変色した。
「やっぱりね。わざわざご丁寧に、僕たちを歓迎するための『毒入りの晩餐』を用意してくれていたというわけだ」
僕はグラスを持ち上げ、ワインの表面に揺らめく怪しい紫色の光を冷ややかに見つめた。
「歓迎の挨拶代わりに毒を盛るとは、マケマケ皇国の使者もなかなかユーモアのセンスがあるじゃないか。……でも、おもてなしの作法としては少し点数が低いね」
コン、コン――。
その時、私たちが滞在する部屋の扉が、上品なノックの音とともに軽く叩かれた。
「失礼いたします。モクモク王国の代表としてお越しの、連才様でいらっしゃいますか?」
外から聞こえてきたのは、やけに猫をかぶったような、甘ったるい男の声だった。
僕は立ち上がり、漆黒の外套の裾を整えながら、側近に目配せをした。
「おや、さっそく『おもてなしの感想』を聞きに、ご本人がご到着のようだよ。扉を開けてあげなさい」
側近が重厚な扉を勢いよく開けると、そこに立っていたのは、銀色の刺繍が入った豪華な皇国の礼服を纏った、切れ長の目の男だった。
彼はマケマケ皇国の外交特使を名乗る男――レイモンド・フォン・シルク。その顔には貼り付けたような薄ら笑いが浮かんでいた。
「これはこれは、モクモク王国の若き英雄、連才空様とお見受けする。遠路はるばるアワアワ迷宮都市へ――」
レイモンドは丁寧にお辞儀をしながら部屋の中へと足を踏み入れたが、テーブルの上に置かれた「毒入りのワイングラス」がそのまま手つかずで放置されているのを見ると、わずかに目を細めた。
「おや? 我が国からの心づくしのおもてなしに、お気に召さない点でもございましたかな?」
「心づくし、ねえ」
僕はソファに座ったまま、冷ややかな黒髪の隙間から彼を見据えた。
「全身の血を凍らせて苦しませるマケマケ皇国特製の神経毒を、わざわざ海外からのゲストに振る舞うなんて、君たちの国ではそれが最高のマナーなのかな?」
レイモンドの顔から、一瞬にして作り物の笑みが消え去った。
「……ほう。毒が仕込まれていると気づいていながら、その余裕の態度は何だね」
「余裕というより、呆れているのさ」
僕が指先を軽く動かした瞬間、部屋全体の空気が一気に凍りついた。
霊圧のような強烈な「黒い魔力」が室内に充満し、レイモンドの身体をまるで数トンの重りが乗ったかのように強烈に押し潰す。
「ぐっ……!? な、なんだこの魔力は……! まるで底知れぬ深淵の……!」
レイモンドは冷や汗を流し、膝から崩れ落ちそうになりながら必死に踏みとどまった。
「僕たちを歓迎するつもりで毒を盛ったのなら、そのお返しをしないわけにはいかないだろう?」
僕はゆっくりと立ち上がり、彼の目の前へと歩み寄った。
「国際会議の前にモクモク王国の代表を暗殺し、我が国の発言権を奪おうとした。……その企み、君一人の独断かい? それとも、皇国全体の方針かな?」
「ふ、ふざけるな……! 私はマケマケ皇国の外交官だぞ! 私を害すれば、国際問題に――」
「国際問題?」
僕はクスリと冷たく笑った。
「ここは法の及ばぬ中立の迷宮都市。しかも、暗殺を仕掛けたのはそちら側だ。ここで君がどうなろうと、誰も文句は言えないはずだよ」
レイモンドの瞳に、本物の絶望と恐怖の色が浮かび上がった。
影の貴公子が仕掛ける大陸規模のゲームの第1幕は、早くも最初の犠牲者を迎えようとしていた。
第2シーズン・第3話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに中立地帯「アワアワ迷宮都市」に到着した主人公・空。迎賓館で待ち受けていたマケマケ皇国の使者による「毒殺の罠」に対し、空は圧倒的な魔力で返り討ちの制裁を仕掛けます!
次回、いよいよ国際会議の舞台裏で繰り広げられる、影の駆け引きの行方は――?




