第11話:敵陣潜入と、死の足音
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国境の危機に際し、自ら敵陣へと単身潜入した主人公・空。
敵連合軍のキャンプが広がるザッソウ周辺で、影の貴公子がどのように敵の首魁を追い詰めるのか。
神に禁じられた暗殺術が冴え渡る潜入劇を、今回もぜひお楽しみください!
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国境の要衝ザッソウの周辺に広がる、広大な丘陵地帯。
そこはかつて穏やかな牧草地だったが、現在はペコペコ王国やマケマケ王国の残党、そして謎の傭兵団からなる敵連合軍の巨大なテント村へと変貌していた。
無数の焚き火が夜の闇を赤く照らし、武装した兵士たちが慌ただしく動き回っている。
「おい、見張りをもっと増やせ! モクモク王国の軍がいつ奇襲を仕掛けてくるか分からんぞ!」
「大丈夫だ、我が軍には帝国の特務部隊が提供してくれた『完全な進軍ルート』がある。相手の防衛網の隙を突いて、一気に首都まで突き進むのさ!」
兵士たちの威勢のいい声が、夜風に乗ってあちこちから聞こえてくる。
彼らは自分たちがモクモク王国内部の裏切り者によって手引きされていることを知っており、勝利を確信して浮かれていた。
だが――そのキャンプのすぐ足元、誰一人として気づかない漆黒の影が一つ、地面を滑るように進んでいた。
——連才空、十二歳。
空は敵の哨戒兵の視線や、魔導探知の網をまるで水が流れるようにすり抜け、何の抵抗もなく敵陣のまっただ中へと入り込んでいた。足音はもちろん、体温や呼吸の気配すらも、自らの「黒い魔力」で完全に遮断している。
(防衛網の隙を突いた進軍ルートね……。グレアム侯爵があの老いぼれめ、よくもここまで正確に国の情報を売り渡してくれたものだ)
空は冷ややかに心の中で吐き捨てながら、敵陣の中心部、ひときわ大きく豪華な天幕を見据えた。
あそこにいる。今回の連合軍を実質的に束ねている首魁、そして背後にいるスズメスズメ帝国の特務指揮官が。
連合軍の総司令官テント。
その内部では、屈強な体格をした他国の将軍と、帝国から派遣されたという不気味な雰囲気を纏う男が地図を囲んで話し合っていた。
「計画通りだな、指揮官殿。モクモク王国の防衛網は完全に我が軍の手の内にある。明日の一斉進軍で、王都を一気に陥落させるぞ」
将軍が酒杯を傾けながら笑うと、帝国からの使者である男――全身を灰色のローブで包んだ痩せた男が、不気味に唇を歪めた。
「フフフ……油断は禁物ですぞ、将軍。モクモク王国には、我が帝国の暗殺ギルド『黒曜の巣』ですら手を焼いている『連才』の一族がいる。あいつらの存在だけは、いかに防衛網を熟知していようとも厄介な変数になり得る」
「連才だと? ふん、所詮は地方の貴族のガキどもだろう。数千の兵力で押し潰せば、いくら暗殺術に優れていようと逃げ場などないわ!」
テントの外で、その会話を完全に聞き届けていた空は、ふっと冷ややかな笑みを漏らした。
(数千の兵力で押し潰す、か。……愚かだな。僕を目の前にしながら、まだそんな幻想を抱いているとは)
空がテントの布地にそっと手を触れ、いつでも中の人間を葬るための黒い魔力を指先に集中させた、その時だった。
ピリッ、と空気が異様な緊張感で張り詰めた。
「――ん?」
空の足が、反射的に止まる。
周囲の魔力の流れが、ほんの一瞬だけ不自然に歪んだ。
「……そこにいるのは、誰だ?」
テントの中から発せられたのは、将軍の声ではなく、灰色のローブを着た帝国の使者の乾いた声だった。
次の瞬間、テントの布地が内側から放たれた鋭い魔力の刃によってズタズタに切り裂かれ、強烈な衝撃波が周囲へと放射された。
ドォン! と、テントのあった場所が爆発するように吹き飛ぶ。
「ほう……。我が警戒魔法の結界を触れずにすり抜けるとはな。ただの斥候ではなさそうだ」
灰色のローブの男が、闇夜の中に冷たい視線を向けながらゆっくりと姿を現した。その両手には、青白く不気味に発光する奇妙な呪術の紋様が浮かび上がっている。
「……気づくのが少し遅かったね」
闇の中から、空が静かに姿を現した。
フードを脱ぎ捨てた十二歳の少年が、漆黒の正装でぽつんと立っているのを見て、総司令官の将軍は目を疑うように見開いた。
「なっ……なんだこのガキは!? どこから入り込んだ!」
「ガキ、か」
空は冷ややかな瞳で将軍を一瞥し、それから目の前の灰色のローブの男へと視線を戻した。
「帝国の特務指揮官だっけ。君のその感知能力、なかなか面白かったよ」
灰色のローブの男は、目の前の少年が放つ「ただ者ではない気配」を感じ取り、わずかに表情を引き締めた。
「お前……まさか、噂の『連才』の長男か? この年齢で、これほどの呪詛の魔力を纏っているとは……聞いていた話以上だな」
「褒めても何も出ないよ。ただ、僕の邪魔をするなら、君たちもペコペコ王国の騎士と同じように消えてもらうだけだ」
「生意気な口を……! 我が『死霊呪術』の前で、その余裕がどこまで持つか試してやるわ!」
男が両手を掲げた瞬間、周囲の地面から無数の黒い呪怨の手が飛び出し、空の足元へと絡みついた。人間であれば、それに触れた瞬間に魂を吸い取られ、ミイラのように干からびてしまう強力な呪いの技だった。
だが――。
空は微動だにせず、ただ冷ややかにその光景を見下ろしていた。
「遅い」
空の身体から放たれた「黒い魔力」が爆発的に広がり、周囲の呪怨の手をまるで霧のように一瞬でかき消した。それどころか、逆にその呪力の圧倒的な重圧が、灰色のローブの男の身体を押し潰すように襲いかかる。
「ぐっ……なっ……なんだこの魔力は……!?」
男の顔から血の気が引いた。自分が使ってきた呪術など比較にならないほどの、本物の「死の理」が目の前の少年の身体から溢れ出している。
「神に禁じられた業を舐めないことだね」
空が指先を軽く一閃させると、黒い魔力の刃が音もなく闇を切り裂いた。
帝国の特務指揮官が何かを言いかける間もなく、その喉元が正確に貫かれ、男はそのまま地面へと崩れ落ちた。
総司令官の将軍は、その信じられない光景を目の当たりにして、恐怖で腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「ば、化け物め……こいつは……本当の化け物だ……!」
逃げようと這いずる将軍の背中に、冷たい影が覆い被さる。
ザッソウの夜空の下で、連合軍の崩壊は、すでに音もなく始まっていた。
第11話をお読みいただき、ありがとうございました!
敵陣の奥深くへ単身潜入した空。帝国の特務指揮官が放つ呪術を圧倒的な魔力で一蹴し、総司令官を追い詰める圧倒的な無双劇となりました!
次回、いよいよ国境の敵軍を完全に沈黙させ、王都の裏切り者へ本当の恐怖を思い知らせる展開へ……!




