↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/100

第99話 壁一面の数字

 アルディスの住まいは、港の裏の、荷役夫の宿だった。


 三階建ての、木造。


 一部屋に、四人が寝る。


 ――彼は、四階の物置に住んでいた。


「四階って、三階建てですよね」


「――屋根裏だ」


 彼は、あっさり言った。


「――家賃が、半分になる」


「立てますか、天井」


「――立てん」


   ◇


 俺は、梯子を上った。


 ――暗かった。


 窓が、一つ。


 寝床は、藁だった。


 ――そして、壁が。


 壁一面に、数字が書いてあった。


 炭で、直接。


 柱にも、梁にも、屋根の裏にも。


 ――びっしり。


 同じ字が、何度も重ねて書いてあった。


 ――消して、書き直した跡だ。


 炭が、指で擦られていた。


 窓の下だけ、白かった。


 ――そこにだけ、何も書いていない。


 書く場所が、足りなかったらしい。


「――アルディスさん」


「なんだ」


「――これ、なんですか」


   ◇


 彼は、梯子を上ってきた。


 頭を下げたまま、部屋に入った。


「――お前だ」


 俺は、その壁を、もう一度見た。


『広場・二十七回・平均立ち上がり四秒一』


『予選・四十七分・待機中の呼吸、毎分十四』


『階段・九万九千九百九十九段・所要十一時間四十分』


『浮島・八十九回・最終六秒二』


「全部、俺ですか」


「――全部だ」


   ◇


 彼は、藁の上に座った。


「三か月、集めた」


 彼は、そう言った。


「船乗りに聞いた。観客に聞いた。予選を見に行った奴に、酒を奢って聞いた」


「――酒代は」


「――日当の、半分だ」


 彼は、あっさり言った。


「――三か月で、四十二回だ」


 彼は、言った。


「――浮島の分は、降りてきた候補者に聞いた」


「――誰に聞いたんですか」


「鎧の男だ」


 俺は、思い当たった。


「――ドルガさんですか」


「――名は聞いていない。『あいつは四十回転んで四十回立った。平均二秒九だ』と言われた」


   ◇


 俺は、その壁を見た。


 ――二秒九、と書いてあった。


「アルディスさん」


「なんだ」


「俺、自分の記録、知らないです」


「知っている」


 彼は、あっさり言った。


「知っていたら、お前はもっと弱い」


「え?」


「数を知ると、人は、そこで止まる」


 彼は、壁を指した。


「三十七枚あった頃、俺は自分の才能の数を知っていた」


 彼は、言った。


「――三十七だ。だから、三十七で足りると思っていた」


「――足りると思うと、どうなるんですか」


「――増やさん」


 彼は、あっさり言った。


「――十年、一枚も増やさんかった」


   ◇


 彼は、拳を握った。


 親指を、外に。


 ――俺が教えた握り方だ。


「――足りなかった」


   ◇


 俺は、その部屋に、しばらく座っていた。


 天井が低いので、あぐらをかいた。


「――アルディスさん」


「なんだ」


「これ、勝つために書いたんですよね」


「――そうだ」


「――でも、俺に見せましたよね」


   ◇


 アルディスの動きが、止まった。


「見せたら、対策されますよ」


 彼は、しばらく答えなかった。


 それから、言った。


「対策しろ」


「え?」


「――対策して、来い。三か月分を、対策しろ」


 俺は、その言葉を、聞いていた。


   ◇


「俺は、三か月前、三十七枚で負けた」


 彼は、そう言った。


「――あの時、お前は、俺の三十七枚を、全部調べてきていた」


「――調べました」


「――どうやった」


「――フィナさんが、三日で仕様書を書きました」


 彼は、俺を見た。


「――俺は、お前の一枚も調べなかった」


 彼は、壁を見上げた。


「今度は、逆だ」


   ◇


 俺は、梯子を降りた。


 降りる途中で、上から声がした。


「ロイ」


「はい」


「一つ、書いていない数字がある」


「――なんですか」


 アルディスは、暗い屋根裏から、言った。


「お前が、皿を何枚割ったかだ」


「――四百四十二枚です」


 上で、炭を擦る音がした。


 ――書いているらしい。


「――ロイ」


「はい」


「――割った数を、覚えとるのか」


「――おばさんが、数えてます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。