第96話 白いままの升目
授才の儀は、年に一度ある。
その年に十五になった者が、街の広間に集められる。
――俺も、三か月前に、そこに立った。
今年の儀は、俺たちの決闘の四日後だった。
俺は、見に行った。
――ピノが、行きたいと言ったからだ。
◇
「ピノ、お前まだ十歳だろ」
「――下見だよ」
「――五年後の下見か」
「そう」
彼は、あっさり言った。
「――何枚くらい出るのか、見とく」
「――見ても、変わらんぞ」
「――変わらないの?」
「変わらん」
俺は、そう言った。
「――俺は、一枚だった」
「――知ってる」
◇
広間は、いっぱいだった。
十五になった子供が、四十人ほど。
その親と、兄弟と、近所の連中。
――三か月前と、同じ光景だった。
◇
俺は、三か月前のことを思い出した。
――俺の前の順番は、肉屋のセドだった。
【怪力】【健脚】【値切り】の三枚。
――広間中が、拍手をした。
――あいつの母ちゃんが、泣いていた。
そして、俺の番だった。
――才牌が、一枚。
――【■■■■■】。
――誰も、拍手をしなかった。
儀式が、始まった。
神官が、名前を呼ぶ。
子供が前に出る。
胸に、光が沈む。
――才牌が、生まれる。
一人目。三枚。
二人目。二枚。
三人目。四枚。
――普通の年だった。
十一人目で、止まった。
女の子だった。
前に出て、目を閉じて、待った。
――光が、沈んだ。
――才牌が、生まれた。
彼女は、それを、胸から出した。
――一枚。
広間が、ざわめいた。
一枚は、少ない。
――でも、ゼロではない。
彼女は、それを見た。
――見て、動かなくなった。
◇
「――なんて書いてあるの」
誰かが、聞いた。
彼女は、答えなかった。
答えられなかった。
神官が、その才牌を、覗き込んだ。
――そして、顔色を変えた。
「――白い」
◇
俺は、その言葉を、聞いた。
「ピノ、ちょっと肩貸せ」
「ええ?」
俺は、ピノの肩に手をついて、伸び上がった。
――見えた。
五つの升目。
――全部、白い。
黒く塗り潰されているんじゃない。
文字化けですらない。
――何も、書かれていない。
俺は、自分の胸に触れた。
――俺の才牌は、黒かった。
三か月前、五つとも、黒く塗り潰されていた。
――それでも、何かがそこにあった。
――あの子のは、ない。
◇
「――ロイ兄」
ピノが、俺の袖を引いた。
「なんだ」
「――あれ、ハズレなの?」
俺は、答えなかった。
――ハズレですらなかった。
◇
その日、四十人のうち、三人が白紙だった。
俺は、儀式が終わるのを待たずに、外に出た。
フィナが、追ってきた。
「ロイさん」
「――フィナさん、あれ」
「見ました」
◇
彼女は、走りながら紙束を開いていた。
「――過去の記録を、確認します」
「――前例あるんですか」
「ありません」
◇
彼女は、あっさり言った。
「才能を授からない例は、記録上、四百年で十一件です」
彼女は、言った。
「――全て、儀式の直前に死亡した者です」
「――生きてる人は」
「いません」
「今日、三人出ました」
「――出ました」
◇
俺たちは、走った。
王都の中央の、鑑定士協会まで。
――フィナの師匠の店だ。
着いた時、店の前に、人だかりができていた。
――親が、子供を連れて並んでいた。
全員、才牌を握っていた。
フィナが、人をかき分けて入った。
俺も、続いた。
店の中で、彼女の師匠が、才牌を見ていた。
六十くらいの、痩せた男だ。
「――師匠」
「フィナか」
彼は、顔を上げなかった。
「――何枚、来てますか」
◇
師匠は、才牌を置いた。
そして、言った。
「――今朝から、三十七枚だ」




