第9話 半人前同士
「解析、って……いいんですか? 相手は王族ですよ。手伝ったのがバレたら、フィナさんまで睨まれるかも」
「そこは考えました。一晩……じゃなくて今の五秒で」
「五秒」
「でも、あのですね。聞いてください」
フィナは書きかけの鑑定書をカウンターに置いて、ぽつぽつと話し始めた。
「私の実家、代々鑑定士なんです。兄も姉も強い【看破】持ちで、王宮出入りの資格まで持ってて。私だけ雨漏りで。十六にもなって見習いで。……家でも店でも、私の見立てって、誰にも最後まで聞いてもらえたことがないんです。『フィナのは参考程度』って、途中で遮られて終わり」
「……」
「さっき、あなた、最後まで聞いたじゃないですか。それどころか『信じます』って言ったじゃないですか。……あれ、私、初めてだったんです。視えたものを視えたって言って、まるごと受け取ってもらえたの」
フィナは、ぐっと拳を握った。
「だから、これは恩返しとかじゃなくて……証明なんです。私の【看破】は雨漏りでも、雨漏りは雨漏りなりに、屋根の穴の場所がわかるんだぞって。王都で一番大きな舞台で、証明したいんです。――半人前の見立てが、当てになるってこと」
半人前の証明。
ああ、それなら、話は早い。
「奇遇ですね。俺もなんです」
「え?」
「文字化けでも、決闘の舞台に立って、途中でやめなければ負けじゃないって証明したいんです。誰に頼まれたわけでもないですけど。……だから、俺たち、目的が一緒です」
俺は右手を差し出した。
「よろしくお願いします、参謀」
「さ、参謀」
「あ、嫌でした? 軍師のほうがかっこいいですか」
「いや、参謀でいいです! 参謀がいいです!」
フィナは慌てて俺の手を握った。握ってから、はっと真顔になった。
「……ちなみに確認ですけど、ロイさん、剣は」
「振ると飛びます」
「魔法は」
「才能がないので使えません」
「体術は」
「転ぶのは得意です」
「戦力ゼロじゃないですか!」
「はい。だから参謀が要るんです」
フィナは頭を抱えて、天井を仰いで、それから、観念したように笑った。
「……いいでしょう。ゼロなら、マイナスにはならないってことなので。参謀フィナ、就任します」
◇
その日の夕方、フィナは店じまいもそこそこに、奥の資料室から紙の束を抱えて戻ってきた。
どさり、どさり、どさり。カウンターに三つの山ができた。
「王立年鑑、御前試合の興行記録、それと新聞の切り抜き帳です。うち、貧乏なくせに記録だけは捨てない主義なので」
「これ全部、王子様の?」
「王族の才能は『国の看板』なので、披露式典のたびに大々的に公表されるんです。アルディス殿下、三十七才能。全部、名前だけなら公開されてます」
フィナは一番上の紙を広げた。
びっしりと、才能の名前が並んでいた。
【剣聖】【火焔】【雷鳴】【俊足】【鉄壁】【威圧】【千里眼】【治癒】【剛力】【氷結】――
読み上げていくフィナの声を聞きながら、俺は正直、途中で数えるのをやめた。一個一個が、下町なら英雄になれる才能だ。それが、三十七。
「……あの、参謀。今さらですけど」
「言わないでください。私も今、同じことを思ってます」
「これ、勝てるんですか?」
「勝てるわけないでしょう!」
参謀は断言した。断言してから、人差し指を立てた。
「――『このままなら』、ですけど」
「?」
「いいですか、ロイさん。鑑定士の基本を教えます。才能は、書かれた通りにしか働きません。つまり才能は――」
「……仕様、だ」
ガルド爺の煙管の煙が、頭の中でよぎった。
フィナは、我が意を得たりと頷いた。
「そうです。仕様です。そして仕様書が三十七枚もあれば、どこかに必ず、矛盾か、抜けか、穴がある。八日で、それを見つけます。――今夜から、徹夜です」




