↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無才の俺の文字化け才能は、勝つたびに名前が変わる ~【諦めない】から始まる、天才百人喰いの成り上がり~  作者: 燈野いさり
第1章 文字化けの一文字目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/100

第85話 そのうち読める

 決闘の朝、俺はまず、ガルド爺の店に寄った。


 木箱を、抱えていた。


「――爺さん」


「なんだ、朝から」


「これ」


 俺は、箱を、床几に置いた。


 爺さんは、鎚を持ったまま、それを見た。


 ――しばらく、見ていた。


「――なんだ、これは」


「――才牌です」


「誰のだ」


   ◇


 俺は、少し迷った。


 ――迷っても、言うしかなかった。


「――ガルド・オルグレンさんのです」


 爺さんの手から、鎚が落ちた。


 ――床に転がった。


 爺さんは、それを拾わなかった。


「――……親父の」


「はい」


「どこにあった」


「才市です」


「――……才市か」


 彼は、そう言った。


「――そんなところに、おったのか」


「――百年、流れてたそうです」


「――近いな」


 彼は、あっさり言った。


「歩いて、二十分だ」


   ◇


 爺さんは、床几に座った。


 座ってから、箱を開けた。


 ――黄ばんだ才牌が、一枚。


 彼は、それを、手に取った。


 両手で持った。


 ――小さかった。


 六十七歳の男の手のひらの中で、その才牌は、ずいぶん小さく見えた。


   ◇


「銘が」


 彼は、言った。


「読めん」


「削られてます」


「削られとる」


   ◇


 彼は、指で、その削り跡をなぞった。


 何度も、なぞった。


「――親父はな」


 彼は、言った。


「――会戦から帰ってきた時、才牌がなかった」


「全部、取られたって聞きました」


「――そう言っとった」


 彼は、そう言った。


「――嘘だったんだな」


「――一枚、持って帰ったんですね」


「持って帰った」


 彼は、その札を見ていた。


「――そして、銘を削った」


「なんでですかね」


   ◇


 爺さんは、答えなかった。


 長いこと、答えなかった。


 それから、言った。


「わしに、渡さんためだろう」


「え?」


「才牌は、譲渡できる。お前が、そう証明したろうが」


 俺は、頷いた。


「――親父が生きとった頃、うちは貧乏でな」


 爺さんは、言った。


「わしが十五で、才牌を三枚もらった時、親父は何も言わんかった」


 彼は、その札を撫でた。


「――自分は、ゼロだと言っとった」


 彼は、そこで、少し黙った。


「――授才の儀の日にな。わしの三枚を、並べて見とった」


「――なんて言ってました」


「――『上等だ』とだけな」


「でも、一枚あったんですね」


「あった」


「なんで、渡さなかったんですかね」


 爺さんは、そこで、少しだけ笑った。


「――渡したら、わしが打つのをやめると思ったんだろう」


   ◇


 俺は、その言葉を、聞いた。


「――親父はな、才能なしで、三十年打った。わしに、それを見せとった」


 彼は、その札を、胸に当てた。


 ――何も、起きなかった。


 光らなかった。沈まなかった。


 ――名前がないからだ。


「入らんな」


「――……はい」


「名前がないと、入らんのか」


「たぶん」


   ◇


 爺さんは、それを、木箱に戻した。


 蓋を閉めた。


 ――そして、棚の、いちばん上に置いた。


「――しまうんですか」


「しまう」


「読めるようにしないんですか」


「そのうち読める」


   ◇


 彼は、あっさり言った。


「――なんで、そう思うんですか」


「――お前のが、読めたからだ」


 俺は、胸元に触れた。


 【不撓不屈】。


 ――五つの升目が、全部繋がっている。


「十五年かかりました」


「――そうだな」


「爺さんの、あと何年かかりますかね」


「――知らん」


 彼は、鎚を拾った。


「――だが、わしは六十七だ。そう長くは待てん。急いでくれ」


   ◇


 俺は、笑った。


「急ぎます」


「――今日、決闘だろうが」


「はい」


「――勝てるか」


   ◇


 俺は、少し考えた。


「――わからないです」


「そうか」


 爺さんは、炉に鉄を入れた。


「――なら、行け」


   ◇


 俺は、店を出た。


 出るときに、後ろから声がした。


「――坊主」


「はい」


「四百四十二枚目は、まだ割っとらんのか」


「まだです」


「そうか」


 爺さんは、鎚を振り下ろした。


「――今日、割ってこい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。