第81話 条件
「条件を言おう」
クロトは、木箱を脇に置いた。
赤い布の上の、九十九枚を、手で示した。
「――この中から、本物を一枚、当ててもらう」
◇
フィナの肩が、動いた。
「――三年前と、同じですね」
「同じだ」
彼は、言った。
「――三年前の続きだ、と言った方が正しい」
「当てたら」
「――捨て札を一枚やる。それと」
彼は、木箱を叩いた。
「――これも、やる」
◇
俺は、その箱を見た。
「ガルドさんのですか」
「――親父さんのだ。値はつけていない。……百年、誰も買わなかったからだ」
彼は、言った。
「――外したら」
◇
クロトは、そこで、初めて、俺を真正面から見た。
「優勝者殿の才牌を、うちに預けてもらう」
部屋の空気が、変わった。
周りの店の音が、遠くなった。
――たぶん、みんな聞いていた。
「――お断りします」
フィナが、即答した。
「――お嬢さん」
「釣り合いません。捨て札一枚と、削られた古い才牌一枚。……対して、概念級の才牌一枚です」
彼女は、はっきり言った。
「――査定額、金貨十二万枚です」
◇
クロトの目が、大きく開いた。
「――十二万」
「はい」
「誰が査定した」
「金貨貸しのヴァインです」
◇
クロトは、しばらく黙った。
それから、低く笑った。
「――なるほど。あの狸が動いたか」
彼は、言った。
「――なら、話が早い」
◇
彼は、身を乗り出した。
「優勝者殿。あんた、あの狸と決闘するんだろう」
「します」
「勝てると思うか」
「思わないです」
「――正直だな」
彼は、赤い布を、指で叩いた。
「あの狸に勝つには、賭け札が要る。……才牌を一枚、余計に持つ必要がある。俺以外に、平民に才牌を売る店は、王都にない。知ってます。なら、条件を飲むしかない」
◇
俺は、その九十九枚を見た。
――全部、読めた。
全部、強そうな名前だった。
――そして、九十八枚が、嘘だ。
「――クロトさん」
「なんだ」
「――一つ、聞いていいですか」
「――どうぞ」
「あなたの狙いは、俺の才牌ですよね」
クロトは、答えなかった。
答えないまま、目だけを細めた。
「三年前、フィナさんに九十九枚出したのも、【看破】が欲しかったからじゃないですか」
◇
クロトの手が、止まった。
――一瞬だけ。
それから、彼は、頷いた。
「――そうだ」
フィナが、こっちを見た。
「ロイさん」
「たぶん、そうです。三年前、フィナさんは見習いでした。……見習いに、九十九枚の鑑定をやらせる理由がないです」
俺は、クロトを見た。
「――負けさせるためですよね」
「半分は、そうだ」
クロトは、あっさり認めた。
「【看破】は高い。金貨三百だ」
彼は、そう言った。
「……だが、あの日、俺は取り上げなかった。取り上げると、店が来なくなるからだ」
「――じゃあ、なんで出したんですか」
◇
クロトは、しばらく黙っていた。
それから、言った。
「――三十人が外した問題を、見習いが解いたら、面白いだろう」
俺は、その言葉を、聞いた。
――嘘じゃなさそうだった。
悪意でもなさそうだった。
――ただ、面白がっていた。
「――クロトさん」
「なんだ」
「――条件、変えてもらえませんか」
「ほう」
「――俺の才牌じゃなくて。外したら、俺が、あなたのところで三年働きます」
◇
クロトの目が、動いた。
「三年」
「はい」
「――優勝者が、才市で丁稚をやると」
「皿洗いなら、五年やってます」
「ここには皿がない」
「じゃあ、他のをやります」
クロトは、長いこと、動かなかった。
それから、赤い布の端を、指でつまんだ。
「――面白い」
彼は、言った。
「才牌一枚より、安いのか高いのか、俺には値がつけられん」
彼は、目を細めた。
「値のつかんものは、久しぶりだ」
彼は、手を打った。
一回だけ。
「――いいだろう。九十九枚。制限は、一刻。……鑑定するのは、お嬢さんだ」




